洋裁店のおばちゃんに呪われていたことに気付いた話
年末から年始にかけて、私はしまむらのハッピーバッグと福袋の購入に奔走していた。
焦ってサイズ違いをつかんでしまっては意味がない。何度も何度もオンラインショップの商品ページで、主にウエストを確認した。メジャーでウエストを測ったりもした。
こんなふうに、自分自身の体のサイズや体型に意識を向けるとき、私には決まって思い出す言葉がある。
そしてこのたびようやく気付いた。私は呪われていたのだと。
小学生のころ、自分はけっこう可愛いと思っていた。
可愛いとか美人の基準はよくわかっていなかったが、レースの襟やフリルがたっぷりついたブラウスが好きだった。不器用なりに前髪の縛り方にもこだわり、毎日視界の斜め前方にちょんまげの先っぽがブラブラする、妙ちくりんなヘアスタイルで過ごしていた。
時々、周囲の人に「その髪型やめたら……?」と言われたが、やめようとはしなかったので、つまり可愛いと信じていたのだと思う。
小学校卒業が近づいてきたころ、近所の幼馴染の女子と一緒に中学校の制服を注文することになった。地元の洋裁店を訪れた私達を採寸してくれたのは、陽気で人当たりのいいオバちゃんだった。
オバちゃんは、まず私の腕の長さをメジャーで測りながら、朗らかな声でこう言った。
「アンタ、案外骨が太いねぇ!肩も手首もがっしりしてるねぇ!」
当時から人見知りかつボンヤリしていた私は、よく考えずにエヘヘと愛想笑いで返した。
次に幼馴染の採寸を始めたオバちゃんは、やはり明るく言った。
「アンタ、テニスやってるそうだけど、華奢だねぇ!やっぱり女の子だねぇ!」
私と同じようにエヘヘと返している幼馴染を横目に胸の内に湧き上がったなんともいえない感情がなんだったのか、私が理解したのは37年後のことだった。
服を買うとき。流行りのラブソングを聴くとき。昔から私は、ちょっとひねくれていた。
どうせ私には、フリフリの可愛い服は似合わない。肩がガッシリしてるから、カチッとしたやつのほうがきっと似合う。
このラブソングは、私には向けられていない。だって私は「折れそうな細い肩」じゃないし、「抱きしめたら壊れそう」でもないから。
だから、女の子っぽい可愛い服は避けてきたし、ラブソングは鼻で笑ってきた。自分でも可愛げのない性格だなーとずっと思っていた。
だがどうやら、性格だけの問題ではなかったようだ。子供の頃の写真を見ると、あれだけレースひらひら、フリルたっぷりな服を好んで着ていたのに、中学に上がってからはあからさまに服の好みが変わっている。中二病も相まってか、やけに大人びたジャケットやシンプルな服ばかり着ている。
「アンタ、案外骨が太いねぇ!肩も手首もがっしりしてるねぇ!」
そういえば、昔から服を選ぶときに、いつもこの言葉を思い出していた。
あの時からずっと、私は呪われていたのだ。
本当は、ピンクハウスとか着てみたかった。ふわふわシフォンやバルーン袖のワンピースも。男性歌手のラブソングに感情移入して、キュンキュンしたかった。
洋裁店のオバちゃんは悪くない。けれども私は呪われた。
そしてもう、可愛いを自称できる年齢はとうの昔に過ぎ去ってしまった。
言葉は、それがどのような気持ちで放たれたものであっても、人を傷つける可能性がある。呪う力がある。
子供だった私は、人の言葉をどストレートに受け取った結果、自分で呪いにかかってしまった。
せめてこれから、私の言葉で誰かが傷つくことのないように。特に子供にかける言葉は慎重に選ばなければと思った次第である。
ちなみに、しまむらのハッピーバッグと福袋は無事に買えた。どれも自分が本当に着たいと思った服ばかりで、この冬はとても楽しく過ごしている。
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