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氷を割る音

ガラン、ガッ、ガッ、ガッ、ガラン、ガラン……

子猫を膝の上に乗せ、まどろんでいたら、子どもの頃の夢を見ました。

通学路に積もった雪を毎朝寄せて、道を作ってくれたおじいさんの夢。

風できらきらと飛んでいくほどに軽い粉雪も、
雨混じりのびしょびしょの重たい雪も、
誰かの足跡のついたぎゅむぎゅむの硬い雪も、
コンクリートのようながちがちの分厚い氷も、
せっせと、せっせと運んで、
子どもたちの歩く道を作ってくれていたおじいさん。

「滑るなや!」

「転ぶなや!」

「寒ぐねか?」

夢の中で子どもの私は、友達と歩いていて。

スキーウェアを着て、
耳のついた帽子を被って、
買ってもらったばかりのグローブをつけて、
スパイクのついたスノーブーツを履いて。

おじいさんが作ってくれた真っ白の通り道を、一列になって進んでいました。

「いってきます!」と、白い息をはきながら。

そういえば、豪雪の年には、お腹のあたりまで積もった雪で大きな迷路を作ってくれたんだっけ。
あの日は確か、盛り上がりすぎて学校に着くのが遅くなったんだっけ。

夢の中なのに、そんなことを考えていました。

ガラン、ガッ、ガッ、ガッ、ガラン、ガラン……

おじいさんが、私たちが滑らないようにと氷を割ってくれている音がする…
早起きをして、こんなに寒いのに手袋もつけないで、今日も氷を割ってくれている…
ありがたかったな。
私たちが氷点下の中でも楽しく登下校できたのは、おじいさんのおかげだったな。
元気にしているかな。

夢の中なのに、そんなことを考えていました。

ガラン、ガッ、ガッ、ガッ、ガラン、ガラン……

にゃー

甲高く、長く鳴く子猫の声が聴こえて、目が覚めました。

夢の中では冷たい空気を感じていた分、
家の中の暖かさに驚いたりして。

ガラン、ガッ、ガッ、ガッ、ガラン、ガラン……

夢の外にいるのに、
家の外から氷を割る音が。

窓の外を見ると、
ご近所のおじいさんが歩道の氷を割っていました。

ああ、懐かしい。

細くて長い柄を、真っ赤になった手で握り、おじいさんは点字ブロックに沿って、氷を割っています。

ああ、優しい人だな。
まるであの頃のおじいさんのようだな。
今年の冬は、地元に帰られなかった。
寂しいな。
それにしてもおじいさん、すごいな。

専用の道具の性能なのか、おじいさんの技術なのか、分厚い氷はみるみる割れ、砕けていきます。

プロのアイスクラッシャーです。

ん?
あれは…?
えっ…待って……ちょっと待って…!!?

おじいさんの持っていた道具は、

ゴルフクラブでした!!!!!!!!


ぴゃーーーーーーー(´º∀º`)ʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ

子どもの頃の故郷に思いを馳せていた私。

窓ガラスの向こう側でフルスイングするおじいさん。

容赦なく粉砕されていく氷。

陽光に輝く透明の欠片。

私に夢を見せてくれていたのは、生涯現役のゴルファーでした。

スコーーーーーン!!!

ホールインワンです。ありがとうございます。

次はその氷、私が寄せて、運ぶのお手伝いします。

寒い冬、楽しく乗り切れそうです。





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