見出し画像

紫苑


何も言えずに立ち尽くした僕。

君は首を傾げて尋ねたけど、

喉まで来た言葉を上手く吐き出せない。

何も言えずに先を見つめた。

君はいつも通りにする。

どれだけ待てども届かない言葉は

伝わらないから仕方ない。


何も言わずに佇んだ君。

僕は不思議そうに話しかけても、

そのまま一人で行ってしまう。

静かに歩く道のり。

君が後ろで囁く一言。

継ぎ接ぎで聞こえない声は

何度繰り返しても二度と帰らない。


踏み出せずに座り込んだ僕。

気づかれないように流した涙は

拭えないまま消えた。

不恰好に丸めた背中。

押し殺して消えた息。

このまま忘れてしまいたい。

大切なことすら思い出せずに。


顔を下に俯いた君。

強く握りしめられた手から

ずっとため込んだ感情が泣き喚いていた。

手を掴もうとした。

空を切って遠くに行く。

引き止めても進んでしまう。

きっと明日もまた同じように。

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,611件

#今日の短歌

39,684件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?