おとなもこどもも学べる、地域をつなぐ場づくり。〈みよたぐらし〉のこれから。
「地域に根付いた活動をしたい、参加したい」そんな漠然とした想いを抱えている人は多いのではないか。
2021年にスタートした「おとなもこどもも学べる、地域をつなぐ場づくり」を目指す “みよたぐらし”。複数のお母さんたちがはじめたこのユニットの存在を知り、「ここに”町と人が自然とつながるヒント”があるかもしれない」そんな期待を胸に、彼女たちの拠点である古民家、atelier Rom(アトリエロム)を訪ねました。
今回話を聞いたのは、みよたぐらしの立ち上げメンバーである岡本雅恵さん、中村詩織さん、大月宏美さんの3人。
聞き役となったのは、御代田に引っ越してきて1年と半年という片桐奈央さん。生活も落ち着き、ようやく周りが見えてきたと同時に、何かこの町とつながる活動がしたいと思うようになったそうだ。
(MIYOTAライ麦ストロープロジェクトから生まれた麦わら細工ヒンメリ)
今回会いにいった人
今回の聞き役
誰かと出会い、話せる場所がほしかった
――現在のみよたぐらしの活動を教えてください
岡本 定期的にやっているのは、週2回の中村詩織さんのピラティスと、月2回の大月宏美さんのにじみ絵と手仕事のおやこART cafeです。そのほか、展示会やイベントを不定期で開いています。
――みよたぐらしはどのように始まったのですか?
岡本 移住してきてすぐ、友人に誘われてハートピアみよた前のふれあいファームで畑を始めたのですが、ご縁があって、畑の隣の古民家を借りられることになったんです。私は料理の仕事をしていてアトリエにできる場所を探していたので、畑からとってきたものをすぐに調理したり、テイクアウトやケータリングで使うことができたら、そんな素敵なことはないし、嬉しいなぁ! と思っていましたが、私ひとりで借りるにはあまりに広いんですよね。
それでここを拠点に、料理以外のことも何かできないかなって考えたときに、人が集って、誰かとコミュニケーションできる場所を作りたいなって思ったんです。コロナ禍ということも大きいですが、人が集ったり、文化や教育に触れあえる場が足りていないなって感じていて。特に小さいお子さんがいるお母さんは誰かとコミュニケーションできる場所が必要だ、という思いがありました。
大月 私も御代田に越してきて、人が集う場があまりないなって感じていました。特に、移住者がポンと気軽に入りやすいところがなかなかなくて。
私はこれまで、寺子屋塾で子どもたちの学びに関わってきました。学びについて探求する中で、シュタイナー教育に出会い、子どもの感覚を育むために、自然の中での活動、手を動かす手仕事、芸術活動はとても有意義であることを実感し始めたんです。特に幼児期は敏感に感覚が発達しているので、年中さんになる息子ともっと手仕事や芸術活動をしたいなと思っていて。でもせっかくなら家でやるだけじゃなくて、周りのお母さんたちと一緒に共有しながらできたらもっといいし、きっと同じように考えている人はたくさんいるんじゃないかなと。なので、何かを提供したい人、学びたい人が交差するような場所ができたらいいなと考えていました。
食、ピラティス、教育とアート。最初に集まった3つのピース
岡本 (大月)宏美さんも、もともと場作りができたらいいなって思っていたんだね。
大月 そうそう。去年佐久市がやっていた自分の事業をつくろうっていうセミナーに参加して、私は何をやりたいんだろうって突き詰めていったら“場作り”に行き着いたの。でもそれってひとりじゃできないから、いったん置いておいて、まずは自分が学んできたことを生かして、幼児さんのおやこ向けに手仕事や芸術活動のワークショップをやってみようと思っていたんだよね。
岡本 私がアトリエをどう活用していこうってモヤモヤ悩んでいるときに、宏美さんが親子でできる寺子屋的なことをやりたいんだよね、って言っていたのを聞いて、ぜひここでやってほしいって伝えて。
大月 すごくタイミングがあったんですよね。下の子が1歳でまだ手がかかる時期なんですけど、きっかけをもらって「始めちゃおう」って一歩踏み出せた。
中村 私は、2020年に当時住んでいた東京でオンラインのピラティスレッスンを始めたのですが、先に移住していた(岡本)雅恵さんが御代田から参加してくれていたんです。だから雅恵さんとは毎週画面越しに顔を合わせていて、そのときにアトリエを借りようか悩んでいることを聞いていました。
岡本 私は、移住前も東京で(中村)詩織さんのピラティスを受けていたんです。産後のお母さんって体調を崩したり、体が思うように動かなかったりするじゃないですか。私は今8歳と5歳の子がいるんですが、子育てを通じて、心と体のバランスをとるためには体をつくることがすごく大事なんだって痛感して。
中村 それで、もしここを借りたらピラティスのレッスンやらない? って声かけてくれて。どこか場所を借りてやることも考えていたのですが、レッスンをしてそこで終わりっていうよりも、何かひとつの場があってそこにコミュニティができていくことのほうが私の目指す形にも近かった。
岡本 ふたりがいてくれることで、場作りの幅がぐんと広がりました。ふたりとも東京にいたときからの友人なので、彼女たちがこれまでどういうことをやってきて、何に興味があって、どんなことができるかっていうのが分かっていたことも大きかったですね。
地域に還元することを目指していきたい
ーー場作りをしたいという共通の目的を持った3人がタイミングよく集まって、いよいよ動き出すんですね
岡本 そうですね。これから3人で一緒にやろうっていうときに、場作りのための助成金があるって聞いて、申請することにしました。企画書を書くにあたって、“みよたぐらし”っていう名前も決めて、具体的に何をやっていこうか、数ヶ月かけて話し合いながら突き詰めていきました。
中村 何を活動の軸にしようかっていうのを考えたときに、はじめのうちは雅恵さんが中心となってこの場所を借りて、企画を回していくから、できるだけ雅恵さんの思いに添えるといいなって思っていて。話を聞いていくと、世の中のお母さんたちへの愛で溢れていたんです。
妊娠、出産を経験して心身ともに大きな変化についていかないといけなかったり、赤ちゃんを抱えてコミュニティに入っていくのが難しかったりっていう、変化の渦中にいるお母さんたちを支援したいっていう気持ちがとても強かった。なので、みよたぐらしは、女性と子どもをサポートする場づくりっていうのが真ん中にあって、その周りに食、アートや体づくりがあるイメージですね。
岡本 環境問題についての取り組みもやりたいことのひとつです。こっちに来て、自分たちで作った無農薬野菜を食べたり、コンポストをやったりしていくうちに、自然と東京に住んでいた頃より、環境問題をより意識しやすくなりました。それに御代田ってゴミの分別がすごく細かいのもありますし、土曜日は朝から処分場に車の列が律儀に並んでいる。
その姿を目の当たりにして、もっと環境のことを勉強したくなったんです。友人の上原かなえさんが、御代田の生産者さんが作ったライ麦から、社協や地域の方々と一緒にストローをつくる活動をしていたのも大きかったですね。地域にコミットしてそれぞれが学んできたこと、仕事してきたことを地域に還元にできるような勉強会やイベントもやっていこうということになりました。
ーーこれまでどんなイベントを行ったのですか?
岡本 申請した助成金も採択していただいて、今年の7月にMIYOTAライ麦ストロープロジェクトの方たちと一緒にライ麦収穫祭をやりました。プラスティックなど環境問題のことを絡めつつ、だけど、ただ画面をみて勉強するっていうことだけじゃなくて、生活に取り込みやすいような形でいろんな人に知ってもらうことを意識しました。
ライ麦ストローって、口当たりがいいし、素材が麦だから香ばしさも感じられるんです。それを実際に味わってほしくて、私が自家製のシロップを作って、それをライ麦ストローを使って飲んでいただいたり。
大月 五感で味わえるイベントになったよね。
岡本 8月には、“お母さんのための展示会”をやりました。ものづくりをしているけれど、移住や出産などで、やむを得ずキャリアが分断されてしまったお母さんたちってたくさんいるんです。
今はSNSで発信することもできるけど、実際に作品を手にとって、作家さんの人となりに触れることのできる場所が作りたくて。誰かが手に取ってくれて、いいねっていう反応を得られるだけでも作り手さんって本当に喜んでくれて、その気持ちが活動の持続にも繋がっていくと思うんです。
中村 お母さんのための展示会は雅恵さんが最初から企画書に書いていたんだよね。みよたぐらしの軸でもある女性のサポートにもつながるから、絶対やったほうがいいよって話していたので、実現して嬉しかったですね。ワンデイカフェみたいな形でもいいし、またやりたいよね。
世代も様々に、移住者も地元の人もごちゃ混ぜのコミュニティになれたら
――今後の展望を教えてください
岡本 場作りとかコミュニティ作りって一見とっつきやすそうで、実は難しいカテゴリーだと言われているんです。みんなそれぞれの生活の中でやらなきゃいけないことに押されちゃったりして、続けていくことってそう簡単じゃない。だけど、私たちは想いがあって始めたし、必要だと思ってやっているのでどうにか続けたいなって思っています。
大月 みよたぐらしも新陳代謝をしていくといいなって思いますね。メンバーも出たり入ったりしていいし、増えていってもいい。そうすることで持続可能になっていくのかな。
活動としては、今はワークショップとしてコンテンツを提供していることが多いですが、何か得意な人が得意なことを共有できる会になるといいなと思っていて、例えば、ライアーという楽器の演奏をやっているママに、ヒーリングサウンドの演奏会をしてもらったり、ロウソク作家さんにワークショップをやってもらったりもしています。今後もそうやって、いろんな芸術体験や手仕事を共有して行けたらいいなと考えています。
中村 本当はもっと、おじいちゃんもおばあちゃんも赤ちゃんも、ごちゃごちゃっと混ざっている感じが理想なんです。今はコロナの関係で難しいですが、ゆくゆくはそうできたらいいですね。ピラティスのお客さんも最初は知り合いが多かったのですが、最近は地元の農家の方なども来てくれるようになって、今それがすごく嬉しい。どの世代も、長らく地元に住んでいる人も、移住して間もない人も関われるような場所になったらいいなと思います。
岡本 ただ遊びにくるだけでもいいし、数時間を過ごして気分転換できるような場所にしていきたいよね。実際、ふれあいファームはそうなっているんですよね。ハートピアみよたの利用者さんたちが散歩に来て、野菜の成長を喜んでくれたりして。交流が生まれています。詩織さんが言っていたように、コロナで交流しづらい世の中ですが、いずれはそうなるといいなと思います。
自分個人の仕事が忙しくて、みよたぐらしの活動をやりきれていないっていうもどかしさもありますが、無理して苦しくなったら意味がないし、それぞれができる範囲でやっていけたら。今は一年目で、成功体験を少しづつ積み上げているので、それが大事なのかなって思っています。最初から100点とれなくてもいいから、みよたぐらしって何か楽しそうなことやっているよね、人が集っているよねっていうふうになっていけたらいいですね。
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(編集・写真)manmaru・みよたぐらし(編集ディレクション)村松亮
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