文字を持たなかった昭和387 介護(6)『親不孝介護』(また余談) 

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴っている。

 最近は、ミヨ子が嫁として仕え、最期を看取った舅と姑の亡くなる前の介護の様子を記しておくことにして、「介護」というタイトルで書き始めた。 昭和40~50年代のできごとである。「当時の状況①」「当時の状況②」に続き、舅・吉太郎(祖父)のお世話の様子を綴ったあと(舅①舅②)、前項では余談としておむつとその鹿児島弁について述べた。

 そろそろ次の「姑のお世話」に進むべきところ、姑、というより二三四(わたし)にとっての祖母の介護は、キュウリ事業と時期が重なったこともあり、しんどい思い出が少なくなく〈170〉、若干心の準備ができていないこともあり、別の話題で「お茶を濁す」。

 別の話題と言っても介護関連、ただし昭和の話ではなく、令和の最新事情に関する書籍についてである。内容は自分用の読後メモから引用した。

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『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(山中浩之・川内潤著)
(日経BP、2022.10.11、ISBN978-4-296-10884-8)
・山中浩之:1964年生まれ。日経BP入社、日経ビジネス編集部で主に『日経ビジネス電子版』と書籍の編集に携わる。
・川内潤:1980年生まれ。老人ホーム紹介事業等を経て、NPO法人となりのかいご代表理事。
内容:適切な距離を取ることができれば、親の介護のストレスは激減する。ブリヂストン、電通、コマツなどでの多くの介護相談から導き出した「親不幸介護」の考え方を、ある男性の介護体験を通して紹介する。
(以上は品川図書館サイト掲載情報)

《所感》
 本書はどちらかというと現役ビジネスマン(勤労者)で、親の介護に悩む、あるいは親の介護が視野に入りつつある人向けなので、私よりひと回りかふた回り近く下の世代向けではある。が、親と子というそれぞれの立ち位置(とくに子)から介護をどう捉えるべきか、できればどう「備える」べきかを考える上で、画期的であり実用的だ。

 本書にはいくつも重要なメッセージがあるが、とくに印象深かったのは以下の点。

・子は親への信頼、敬意、愛情ゆえに冷静な介護ができない(期待と、期待通りにならないときの怒り、悲しみ)
・親は長年「親」を演じてきた。その鎧をとったときの素の本人を受け入れてあげるべき。
・介護は先が見えない撤退戦。よくはならず、かつ突発事態が往々にして起きる。そして最後は死。
・介護と仕事は相性が悪い。仕事の成功は努力の先にあるが、介護は努力で解決できないことばかり。
・優秀なビジネスパーソンほど、仕事の成功体験から目標や計画を立ててがんばってしまう。
・介護こそプロに任せる(相談する)べき。
・まずは地域の包括センターにコンタクトをとる。早いほどいい。
・時間が一番のリソース。
・同居して、あるいは近くにいて介護するのが「親孝行」という軛(くびき)から逃れるべき。親が望むのは、子がしっかり仕事し家庭を守ること。親戚であっても第三者からの批判は気にしなくてよい。
・利用できる公的サービスはどんどん利用する(そのための介護保険)。ただし自分から探す、動くこと。

 もっとも重要なのは、子供は冷静に親とつきあえない、というところだろう。よくも悪くも感情が入ってしまう。

 ただ、本書の対象読者ゆえか著者の特性ゆえか、「都市で働く勤労者と地方で暮らす親」を意識、前提としており、私の母と兄一家のような地方で暮し同居する親子には、現実的でない提案も含まれる。

 とくに「親が望むのは、子がしっかり仕事し家庭を守ること。親戚であっても第三者からの批判は気にしなくてよい」という部分はどうだろうか。母は、もちろん兄や私の幸福を願ってはいるが、それと同じぐらい、年老いた自分(親)をできるだけ近くで見守ってほしいと願っているように思う。それは、母たちやそれ以前の世代が営々と続けてきた当然の行為、人としての徳だから。それに地方であるほど、身近な人からの評価からは逃れにくい。

 結局、介護のありかた、介護への考え方に「正解」はなく(本書でもそう説く)、それぞれの家族が手探りで「解」を探すしかないのだろう。

 身近に、親の体調の激変を機に入院から施設入所へ進め、期せずして本書のいう「親不孝介護」を実践したケースがある。高齢の親が弱ったら病院、つぎに施設に入れて、それもすべて親のお金ですませるなんて、とも思うが、その家庭ではそれができたのだし、何よりご両親はそれでよかったのだろう。まさに「解」はそれぞれだ。

《参考》
親不孝介護 距離を取るからうまくいく | 日経BOOKプラス (nikkei.com)

〈170〉キュウリ事業のプロローグは「351 キュウリ栽培へ」


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