文字を持たなかった昭和 二十八(縁談先)

 縁談そのものに特段のときめきは感じていなかったミヨ子だったが、相手の家柄はやはり気になった。夫や舅、姑になるのがどんな人たちかも。

 縁談先は遠戚だがほとんど往来はなく、近隣では評判の「土地持ち」であることぐらいしか知らなかった。舅になるかもしれない明治生まれの家長・吉太郎は、小柄ながら働き者としても有名だった。

 農家に生まれたものの長男ではなかった吉太郎は田畑を譲られなかったので、徒手空拳から自分の土地を少しずつ買い広げた。自身が結婚する頃には広い庭に畑もある大きな屋敷を手に入れた。自分の息子とミヨ子との縁談が持ち上がる時分には、かなりの広さの田畑に加え山も持っていた(※36) 。

 いつも忙しく働いているせいか、もともと人好きするような性格ではないのか、吉太郎は他人と親しくつきあうタイプではなかった。ミヨ子のきょうだいの末っ子、20歳離れた妹のすみ子の回想によれば、「あのおじさんは怖かった。子供の頃道で会いそうになったら、いつも隠れるところを探してやり過ごしていた」そうだ。

 それだけの財産を一代で築くとなると勤勉なだけではすまず、吉太郎は相当な倹約家でもあったようだ。そして妻のハルも夫に劣らずしっかり者だった(※36)。

 そんな夫婦の間に生まれた縁談相手の青年は、当時極めて珍しい一人っ子だった。

※36 種類と広さについては登記簿できちんと調べなければ。
※37 吉太郎の倹約家ぶりと、それにめげなかったハルの奮闘についてはいずれ書くつもりだ。

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