文字を持たなかった昭和 帰省余話19~識字力

 昭和中期の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴っている。

 このところは、そのミヨ子さんに会うべく先月帰省した折りのできごと――法要、郷里のホテルに1泊しての温泉入浴ホテルのディナー、翌朝のぎょっとしたできごとなんでもおいしく食べる様子など――を「帰省余話」として書いてきた。前回のパスタランチに続き、帰省中の様子をメモ代わりに記しておく。

 昼食のあとは、コーヒーを淹れてデザートの「ざびえる」を食べた。コーヒーは1杯分ずつのレギュラーコーヒーだ。これも事前に送ったお土産に、20パックほど入れておいた。

 ふと思いついて、コーヒーの個包装をミヨ子さんに見せる。それぞれのコーヒーの種類が書かれているのだ。
「モカ……、キリマンジャロ、ブラジル、……ヨーロピアンブレンド……」
いずれも正確だ。

 「頼りなくなっている」という情報のほうが目立つし、じっさいいろんな方面でそうなのだろうが、必ずしもこちらの想像どおりではない。事実こうして、カタカナで書かれたコーヒーの名前は、一字一句正確に読み上げていた。

 ミヨ子さんたち昭和の戦前世代は、身の回りの印刷物と言えば、教科書はじめカタカナのほうが多かったはずだから、カタカナには馴染みがあるのかもしれない。では、ひらがなはどうなんだろう? お手紙もカタカナで書いてあげるほうがいいかしら?

 と思った午後であった。

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