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文字を持たなかった昭和 帰省余話18~パスタランチ

 昭和中期の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴っている。

このところは、そのミヨ子さんに会うべく先月帰省した折りのできごと――法要、郷里のホテルに1泊しての温泉入浴ホテルのディナー、翌朝のぎょっとしたできごとなんでもおいしく食べる様子など――を「帰省余話」として書いてきた。帰省中の様子を、メモ代わりに続ける。

 温泉小旅行(?)を終えたあとは、これといったイベントはない。ミヨ子さんの同居先である長男の和明さん(兄)宅で、居候さながらの長逗留をさせてもらいながら、ミヨ子さんと少しでもいっしょにいよう、という心積もりである。

 「今日のミヨ子さん(ショックなエピソード)」で触れたように、最近は認知機能が少し低下してきているようで、家の中であっても長時間一人にしておくのは心配な状態らしい。お義姉(ねえ)さんもなかなか息抜きできないだろう。わたしがミヨ子さんと留守番すれば、その間お義姉さんも自由に外出できるし、昼ごはんを外で食べてきてもいい。温泉一泊を計画したのは、お義姉さんにリフレッシュしてもらいたいからでもあった。

「二三四ちゃんがずっといてくれるなら、釣りに行ってこようかな」
とお義姉さん。数年前に始めた海釣りにけっこうハマっていて、釣果もなかなかのものらしい。
「どうぞどうぞ。昼ごはんは適当に食べるから~」
と送り出す。居候中のごはんに使えるよう、パスタやパスタソース、レトルトカレーやカップスープなどの日持ちする食材も、お土産といっしょに送っておいた。

 お昼が近づいた。パスタにしようと、ソースをミヨ子さんに選んでもらう。トマト系とクリーム系を数種類ずつ用意してある。ひとつひとつ説明して
「どれがいい?」と訊くが
「んー、よくわからない。どれでもいいよ」との反応。ちょっとがっかりするが、予想された展開でもある。ソースは1人分のレトルトパックなので、あえて違う系統のものをひとつずつにする。

 二人分のパスタを茹で、パスタソースを温める。昨晩の残りの生野菜をサラダに使って、と言われていたので、ありがたく器に盛る。前日買い物のついでに買ってきた明太子サンドのバゲットも添える。カップスープにお湯を注げばできあがりだ。インスタントものばかりでもそれなりのランチに仕上がった。

「できたよー」
ミヨ子さんにお箸を取るよう促し、まずナポリタンをお皿にとってあげる。
「どう?」と訊くと「んー、おいしい」。お次はカルボナーラ。
「どう?」と訊くと、やはり「んー、おいしい」
「さっきと味が違うでしょ?」と言うと、「そうねぇ。よくわからない。でもおいしい」

 ミヨ子さんはほぼ一人分のパスタを平らげた。デザートに、長崎銘菓「ざびえる」も1個食べた。健啖である。

 そうだね、おいしければいいよ。人間も動物、自分の口で食べるのが基本だ。食欲があって、ちゃんと食べられる。ましてお箸も十分に使える。娘としてこれ以上何を望むというのか。

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