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従順ならざる唯一の日銀、片岡審議委員の挑戦

日本が不況なら円高と、昔から相場は決まっています(個人の見解です)。しかし年明け以降のコロナ禍では、大して円高になりませんでした。

景気はすでに最悪期を脱し、緩やかながら回復しつつあります。ついに日本は円高の呪縛から解放されたか!と喜んでいたところ、最近になってジワジワと円高が始まってしまいました。

ちょうど菅政権が始動したタイミングで、円高圧力が強まった格好ですが、菅首相が円高を招くような発言をしたわけではありません。財務省や日本銀行が、円高圧力を強めるような政策を打ち出したわけでもありません。

円高の原因は日本ではなく、米国にありそうです。

米国の中央銀行(FRB)は最近、これまでのコロナ危機対応型の金融政策から、デフレ回避や物価安定を重視した金融緩和政策へと、一歩踏み込みました。

日本銀行が決して、金融緩和に消極的というわけではありません。日銀は政府と協力して、金融システムや民間企業に大量の資金を供給しています。その結果、戦後最悪の不況なのに企業倒産件数が減るというナゾの事態すら生じています。

米国のFRBと日銀の違いはなんといっても、物価目標の実現に対する姿勢です。具体的には、FRBが『政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と具体的に関連付けた強力なものに修正』したのです。

この『』内の文言、実は日銀の片岡剛士審議委員が、金融政策の決定会合で長らく主張しているものです(今年退任した原田泰審議委員も同様)。日銀は、この片岡委員の主張を事実上、否定し続けてきました。

結局、片岡委員の主張を日銀は採用せずに、米国のFRBが採用してしまい、円高・ドル安が進行するという残念な展開になっています。

相場変動の理由に正解なんてありません。上記の解釈はあくまで私個人のものです。ただ、為替レートの変動は主に中央銀行の金融政策スタンスの違いによって生じるという考え方が、私にはしっくりくるのです。当たり前ですが、この考え方は私のオリジナルではありません。

デビッド・ヒューム (1741, 1758) は、マネーの流れと為替レートへの影響に関する初期の文献を残していて、マネーサプライの人為的な増加がインフレと通貨の弱体化につながると主張した。

中央銀行の金融政策スタンスで為替レートの変動を説明する際に、マーケット関係者がよく用いるのがソロスチャートです。

為替レートの推移と、二国間のマネタリーベース(中央銀行の資金供給量)比率の推移が連動していることを示したソロスチャートは、伝説の投資家ジョージ・ソロスが発見したと言われています。しかし、実際にはジョージ・ソロスが発見したわけではないことを、浜田宏一イェール大学名誉教授が自著で明らかにしています。

それでも浜田教授は、デビッド・ヒュームの見解などを踏まえて、ソロスチャート的な発想を積極的に評価しています。一方、私は何の見識も持ち合わせていませんが、浜田教授の主張に強く共感しています。

過去を振り返ると、日銀は少数派の意見を無視しておきながら、その後の政策運営に行き詰まると、かつての少数派の意見を採用するというパターンを繰り返してきました。その間、金融市場では、日銀の金融緩和が後手に回ることを織り込んで、円高・ドル安が進みました。

これが、冒頭の「日本が不況なら円高」に繋がるわけです。

さて、円高は今後も続くのでしょうか。米国が片岡審議委員の主張に追随したために円高・ドル安が進行したのであれば、日銀も米国と同じように片岡委員の主張を受け入れれば、円高・ドル安圧力は軽減するように思います。

もっとも、金融政策は専門的な分野ですから、仮に今後、日銀の政策が変わっても、それがどういう意味なのか理解しにくいかもしれません。

そんな時は、片岡審議委員が決定に反対しているかどうか、それだけをチェックすればいいと思います。片岡委員が引き続き反対なら円高が続き、反対を取り下げたら円安に戻る。私は個人的にそう判断するつもりです。

「勝ち馬に乗る」って感じですかね。菅政権も片岡委員という「勝ち馬」に乗ったほうが良いと思いますけど。


お読みいただき有難うございました。 小難しい経済ニュースをより身近に感じて頂けるよう、これからも投稿してまいります。