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赤いバラに試される、真実の愛

〝アンタ口固そうだから言うわ。アタシ、ゲイなの。
…何よ、驚かないわね?〟

 ポカンとして店長を見ている。ゲイなのは全く問題ない。
初対面の私に、口が固そうって急にカミングアウトされても!

 駅前の花屋でバイトすることにした。初めに希望した駅からは3駅離れたけど、
まぁ、良しとして、今日からバイト開始だった。
で、開口一番言われたのがまさかのカミングアウトとは…!

なかなかない、スタートだと思う。

 

お店は小さく、スタッフは店長と先輩2人と私だった。
どうやら私にだけカミングアウトしたらしい。先輩達がいるときは普通にしているのだけど、私と2人の時は駅前を通るイケメンを物色したり、ゲイの世界のそれも夜の話とか、聞いてもないのに色々と話してくる。

店内の音楽もお色気たっぷりのムーディーな曲だ。お客さんが来るとさっとJ-POPなんかに変える。

そして水槽が置いてあって、ウーパールーパーを飼っていた。
小さいうちは凍ったイトミミズなんかを口元まで近付けて食べさせる。
私はエサ係をしていた。

 しばらくバイトを続けているうちちウーパールーパーは結構大きくなった。
エサが生きたメダカになった。昼間水槽にメダカを放す。次の日の朝にはメダカはいなくなっている。

〝いつの間に食べてるんだろー?〟

水槽を覗いていると視界の端にスッと店長の横顔が入ってきた。

〝寝込み襲うのよぉ🖤〟

〝uh-huh〟

店長はウーパールーパーのそういうとこが好きなんだな。瞬時に要らない想像をあれこれしてしまって変な声が出てしまった。

 
なんだかんだ、楽しく花屋でバイトをしていた。

ある日お昼休憩から戻るとブツクサ文句を言いながら店長が何か書いていた。

〝どうしたんですか?〟

ピッと目の前に紙を突きつけられた。

 
花束、赤のバラのみ、32本

 
〝へぇぇぇ!32本?お誕生日プレゼント?いや、プロポーズ?〟

〝知らないわよ。いるのねよぇー、たまにこーゆーヤツ。
大体ねぇ、プロポーズなら108本よっ!〟

〝そうなんですか?〟

〝本数にも意味があんのよっ!ちゃんと勉強なさいっ〟

〝はぁい〟

 

どんな人が注文したんだろう。
受け取るのはどんな人なんだろう。
絶対私にはそんな事、起きないだろうなぁ
なんだか色々と気になってしまう。

 

数日後、赤いバラが大量に入荷した。

店長が32本選んで花束にしている。見事なもんだ。やっぱり迫力が違う。
じーっと見ていた。

〝こーゆーのって嬉しいもんなの?大体ねぇ、こんなヤツはお相手の事なんかちゃんと知らないのよ。どうせ、オンナってこういうの好きなんだろ?みたいに思ってる器のちっちゃいヤツなのよ〟

〝はぁ…そのお客さん見てないから何とも言えませんが…〟

昔なんかあったんですか?なんて聞こうかと思ったけど、怖いからやめておいた。

 

午前中の仕事を終わらせてお昼休憩に入った。

戻ってみるともう花束は無かった。またお客さんの顔を見れなかったな。少し残念に思う。

 

夜、家に帰ると姉が赤ワインを飲んでいた。テーブルにはプレゼントが広げられている。

〝あぁ!今日誕生日だっけ?!ごめーん!…てか何その花束!ちょっとまさかプロポーズじゃ?!…あれ、うちのシール…?〟

 

赤いバラの花束があった。しかも昼間店長が作ったやつだ。

〝ちょっと何なに?!結婚すんの?!ねぇ?!〟

〝別れた。〟

〝…はい?〟

〝夕方花束持って来てくれてね、誕生日のサプライズでプロポーズはしてくれたのよ。
でも何て言うのかな。前々から気になってたんだけど、彼って、オンナってこういうの好きだよね?みたいなのが多くて…。
私の行きたい場所じゃなく、女性ウケする場所、私の好きなものじゃなく、女性が好きそうなもの、私の1番好きなお花はバラじゃないしね、私の事ちゃんと見てないのよね。
なんか結婚しても上手くいく自信無くて。
考えたいって言ったら怒りだしちゃって大喧嘩よ。普段からね、自分は古い価値観だからなんて言い訳して、女は男を立てて俺の身の回りのことを全部やるもんだろ、とか言うしね。
服装の好みも押し付けてくるのよ。めちゃくちゃなミニスカートとかね。色々うんざりしちゃってね。それに、自分の事を1番に見ていて欲しいんだって。私のどこを好きになったのか聞いたら、素直そうなところだって。
いいなりになるとでも思ったのかしらね。〟

 〝なんか…色々気持ち悪い…〟

 〝ホントよね。なんか頭来ちゃって今までの事色々ぶつけたら顔真っ赤にして出てったわ。
あーぁ。でもまぁスッキリしたかな。ねぇ、そのバラ、お風呂に浮かべてバラ風呂にしよっか。好きな分使っていいよ。〟

 〝いいねバラ風呂!やろう、やろう!〟

 お風呂にバラの花びらを浮かべて入った。なんともゴージャスな気分だ。いい香り。

それにしても、店長の言ったことはそのまんまだったな…。

 


次の日バイトに行くと店長に姉のことを話した。

 〝あらそう。アタシ人を見る眼あんのよ。でもまさかアンタのお姉チャンのオトコだったとはねぇ。
まぁ、お姉チャンもスッキリしてるなら良かったじゃない?次よ次!
アンタもねぇ、お姉チャン見習ってたくさんオトコ作んさないよぉ!もぉ、ほんっとぉーに、オトコっ気ないんだからぁー。アンタもねぇ、お花と一緒よ?イイオンナなんだから、咲き誇るべき時に、
ちゃんとしっかり咲き誇るのよぉっ!!〟

 〝は、はぁ…〟

 〝ほら、これ私からお姉チャンにプレゼント!〟

赤とピンクのガーベラが入ったミニブーケだった。

〝ガーベラ全体の花言葉は、常に前進、よ。次のステキな恋を応援してるわぁっ!〟

〝ほら、アンタにもあげるわよ!アンタも頑張んなさいっ!〟

ピンクと白のガーベラが入ったミニブーケ。

 

〝変なオトコにひっかかっちゃダメよっ?〟

〝はぁい〟

 

 

ミニブーケを渡すと店長はルンルンでメダカを買いに行った。
どうやらイケメンくんがいるらしい。
店長も、恋してるんだな。

 
店長の言う通り、私は恋愛には疎い。

 
可愛らしいガーベラを見ているとなんだか気持ちがウキウキしてくる。

恋、かぁ。

お姉ちゃんにも私にも、素敵な出会いがあるといいな。
素直にそう思った。

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