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2時間リトリート

1人になれる時間と空間なら、たっぷりとある。
1人暮らしですもの。わざわざ読書する時間と空間を求めて数駅先の町まで行かずとも、部屋に引きこもればいいだけなのに。

あぁ、今日はあそこへ行きたい。


3ヶ月くらい前になる。
ずっと気になっていたお店へと向かった。
私語禁止、静寂を楽しむカフェ
アール座読書館。

アンティークな雰囲気、植物の心地よさ。
床を踏むギィッという音、水槽の水の音と静かな
音楽。
一瞬でその世界観に引き込まれた。
お目当ては大きな水槽のあるソファ席。
ラッキーなことに空いていた。
コーヒーとクッキーの盛り合わせをお願いし、読書をした。
時々水槽を見てはぼーっとして、店内の本を借りて読んだり、ただただ静かな時間を楽しんだ。

あぁ、また来よう。
日常から離れて贅沢な旅をしたような、不思議な
感覚があった。


再びお店のドアを開く。2人お客さんが先にいた。
今日は別の席に座ろうと思っていた。
どの席も魅力的だ。引き出しの中に仕掛けがあったり、小さな水槽があったり、色々らしい。

今日も大きな水槽の席が空いていた。
別の席、と思っていたのに足が水槽の席へ向かう。

この席は本当に落ち着く。

カフェラテとクッキーの盛り合わせをお願いし、
店内の本を借りた。

パラパラとヘミングウェイを読み、疲れたら
水槽を眺める。

エビが可愛い。
シャカシャカシャカシャカ足を動かしている。
時々魚と目が合う。じーっと見つめ合う。
向こうもニンゲン観察をしているのだろう。
ちっちゃいカタツムリみたいな貝も。
よく見ると、いっぱいいる。
魚は何種類かいて、ゆったり泳いだり、たまに
追いかけあったりしている。
ずっと見ていられる。
水の音が心地よい。

水槽の横には本やノート、メモ帳が置かれたスペースがある。
ノートやメモ帳は、ここに座った人が自由に色々書いているようだ。

小さなメモ帳を開いてみる。
近況報告や悩み事、悲しかったこと、嬉しかったこと、目の前の水槽のこと、お店への感謝の気持ち。
たくさんの言葉達が溢れていた。

あー、そんな事私もあったよ!なんて共感してしまう恋愛の事、失恋の事。
仕事が辛いとか、好きなこと辞めちゃったとか、
鬱になったとか。

未来の私、元気にしてますか?なんていうメッセージも。

なかには、消えてしまいたい、なんて重い言葉も。


1ページ1ページ読んでは、
あぁ、生きてるなぁ。と思った

手書きだからなのか、生々しくその1人1人を
感じられるような気がした。

そして不思議と、どんな苦しそうで辛そうなメッセージにも何故かふわっと軽やかさを感じる。

ここに書き出せるだけの素直さがそう感じさせるのか。それもあるけど…

前のページに書いた人に、応援メッセージを書いている人もいる。

そうか、書いてる人だけじゃない。
こうやって手にとって読んでいる、読み手の共感や応援、励ましのエネルギーに包まれているのかもしれない。

どこの誰かも知らない、会ったこともない、
会うこともないかもしれない誰かの言葉。
書く人も読むだけの人も、同じ空間で時間を過ごした者同時、なにか響き合うものがあるのだろう。

また来るね。そう心の中でメモ帳に呟いた。
ここに来る人はみんな知り合い、どこかで繋がってる人。そんな気がして心が暖かくなった。

ここは静寂を楽しむカフェ。
店員さんとのやり取り以外、誰とも話していない。
それなのに。
ものすごくお喋りを楽しんだ。
1人でいるはずなのに、全然1人じゃない。
むしろたくさんの人と話をした。
孤独どころか、暖かい繋がりを感じた。
とても心が満たされた。

次に行くときは、私も何か書いてみよう。






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