見出し画像

【ドラマ】食う気ライブ!~前編~

日本中が感染した頃にくらべて、隔世の感が出始めたこのごろ、飲食店にも人は戻りつつあるようです。ただ、こんな時こそ、第六波の出現に向けた準備も必要なのかもしれませんね。かつて、居酒屋などには、「流しのギター弾き」がいて、甘く切ないメロディーで、飲む人の郷愁を誘ったものです。そんな風景を再び蘇らせるのも、面白いと思い、こんな短編ドラマのシナリオを書いてみました。飲食店の空気を変えて、食う気をつくる・・・そんな物語ですが、いかがでしょう?


「食う気ライブ!」(前編)

○アプリ開発会社オフィス・中
   桐島大樹(28)がパソコンで作業をしている。
   デスクに置いていたスマホが鳴り始める。
桐島「ん? 部長から?」
   スマホを手に取り、応答ボタンを押す桐島。
  「もしもし。部長、何か?」
  「えっ?」
   スマホを耳にしたまま、慌てて振りかえる桐島。
   青木浩介(45)が、奥の打ち合わせブースから、桐島へ手を
   振っている。
   パソコンを急いで閉じて、ブースへ向かう桐島。
   仲森優子(25)が、自分のデスクから急ぐ桐島を目で追い
   かける。

○同・打ち合わせブース・中
   青木が、難しい顔で腕を組んで座っている。
桐島「失礼します。部長、急ぎの話しとは」
青木「ん。まあ、座ってくれ」
   手で座るよう促す青木。
   桐島、ゆっくりとテーブルに着く。
  「実は、今日の役員会議の後、社長から直々に新しいアプリの
   開発を依頼された」
桐島「それって、どんな内容ですか?」
青木「うん、夜の飲食店を支援するアプリだ」
   眉間にしわをよせて、体をひく桐島。
桐島「ん~ かなり難しいテーマですね。でも、どうしてそんな
   依頼が……」
   青木、身を乗り出す。
青木「ここだけの話なんだが、ある大物政治家が内々にウチの社長へ
   依頼したらしい。支援団体も絡んでいるのかもしれない」
   覚悟を決めた表情をする桐島
桐島「なるほど…… でも、やってみましょう」
   安堵の表情をする青木。
青木「そうか! やってくれるか。ただ、社内外へのリークが怖い。
   できるだけ最少人数のチームで進めてくれないか」
   真剣なまなざしで、青木を見つめて頷く桐島。

○同・オフィス・中(夜)
   デスクにいる社員は、桐島と優子の二人だけ。
   パソコンから手を放して、腕組をしながら、ぼんやり宙を
   見つめる桐島。
優子「チーフ、何か悩みごとでもあるんですか? お昼に部長と
   ブースで話してから、ちょっといつもと違う感じで……」
   仲森の存在に気付いて驚く桐島。
桐島「おっ! 仲森、まだいたのか」
   突然、頭髪を掻きむしる桐島。
  「ん~ 夜の街、夜の店、アプリ~」
優子「え? 夜の街が、どうかしました?」
   あわてて、自分の口を手で塞ぐ桐島。

○繁華街の通り・外(夜)
   桐島と優子が、会社帰りに繁華街を並んで歩いている。
優子「な~んだ、そういうことだったんですね」
桐島「おい、そう簡単に言うなよ。かなり悩んでたんだぞ」
   桐島と優子が、周辺の飲食店を見回す。
優子「確かに、ほとんどのお店、閉ってますね」
桐島「ああ、静かなもんだよ」
   突然、立ち止まる優子。
優子「でも、なんだか、もったいないですよ」
   振りかえって、優子を見る桐島。
桐島「何が?」
優子「だって、このゴールデンタイムに、お店のスペースを何にも
   使わないなんて」
桐島「確かに」
   その直後、桐島は優子の背後で、ストリート漫才をする
   漫才師A(28)とB(28)を見つけ、凝視する。
桐島「確かに、これだ!」
   つられて後ろを振り向く優子。
優子「えっ? あのストリート漫才が、何か?」 
   はっとして優子は、桐島を見つめる。
桐島「そうだ、あれだよ!」
優子「『あれ』ですよね!やった~~」
   はしゃいだ優子が、桐島に抱きつく。
   抱きつかれるまま目を丸くする桐島。

○飲食店組合事務所・入り口・外
   真剣な表情で、ドアをノックする桐島。
   隣で目を合わせる優子。
長沼伸一郎(65)「はい、どうぞ」
   ドアを開け、入ってゆく桐島と優子。

○飲食店組合事務所・中
   応接テーブルの上には、お互いの名刺がならび、桐島と優子
   の二人が、長沼と対面して座っている。
   長沼は、手にしている企画書をテーブルに置くと同時に、
   老眼鏡を外す。
長沼「ふ~ん、お宅らも、いろいろと考えるもんですな。
   夜の閉店した店舗を、ライブの会場として借りたいと?」
   桐島は、身を乗り出す。
桐島「ええ是非。弊社のアプリは、お店とライブパフォーマーを
   マッチングさせるだけでなく、チケット販売から収益の分配
   機能までカバーしています」
長沼「ただね、一番怖いのは、密になってクラスターが出た時や。
   どの店も、換気設備が完全とは言えんからな~」
   優子が必死の表情で、身を乗り出す。
優子「だったら、弊社が換気や空調のアドバイスもさせていた
   だきます!」
   優子がオーラ全開で長沼を見つめる。
   長沼は、驚いたようにソファの背にのけぞって、優子を
   見つめる。
   桐島も、横に引くように優子を見る。 

○オフィス街の舗道・外
   並んで歩く桐島と優子。
   優子は、スマホでメールをしながら歩いている。
桐島「さっきの仲森、迫力あったな~」
   優子は、スマホをポケットにしまう。
優子「すみません。勝手に、あんなこと言ってしまって……」
桐島「いや、すごく頼もしかった。いい部下を持って嬉しいよ」
   照れたように、はにかむ優子。
   優子が、バイブレーション音に反応してスマホをポケットから
   取り出す。
桐島「どうかした?」
   優子が、スマホのメールを見ながら、話しはじめる。
優子「チーフ、いまからもう一か所寄りたいところがあるんです
   が……」
   桐島と優子が立ち止まり、見つめ合う。

後編に続く・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?