欧州でNATOに加盟せず、真っ先に核兵器禁止条約に署名したアイルランドはパレスチナを支援する
NATO首脳会議がリトアニアで開催されているが、ヨーロッパの国アイルランドはこのNATOに加盟することがなく、軍事的中立を保ってきた。しかし、政治的には中立ではないとしてロシアのウクライナ侵攻は非難している。
アイルランドは核不拡散条約(NPT)の最初の提案国であり、また核兵器禁止条約に各国の署名が始まった2017年9月20日に真っ先に署名した。被爆国日本よりも核兵器廃絶に熱意があるように見える。
アイルランドは西欧の最貧国と言われてきたが、現在では一人当たりGDPも世界第2位となり(日本は28位)、経済も活況を呈するようになっている。世界市場に向けたIT、製薬・医療機器が好調で、2021年の実質GDP成長率は13.6%と、EU加盟国で随一の数字だった(IMFによる)。
かつてはカトリック信仰の影響で、妊娠中絶、同性婚、避妊具の販売や離婚も認められない保守的な国だったが、現在ではレオ・ヴァラッカー首相がゲイを公表するほどリベラルな国になっている。日本語教育では中等教育レベルでは人口あたりの学習者が西欧諸国のトップなほど日本に対する関心もある。(前アイルランド大使北野充氏の説明)
アイルランドが軍事的中立なのはイングランドの植民地支配を受けたという歴史にも関係するのだろう。
1171年にイングランド王ヘンリ2世がアイルランド島に上陸し、アイルランドに対する主権を主張する。1541年にヘンリ8世がアイルランド王を自称したが、アイルランドの住民たちはカトリックの信仰を放棄することがなかった。1649年にクロムウェルがアイルランド遠征を行い、同島を植民地化した。
アイルランドの小作農民たちは地主に地代を納めなくてもよい、小さな土地で生産性の高いジャガイモを栽培するようになり、アイルランド島民はジャガイモに食料の多くを依存するようになっていたが、1845年からおよそ4年間にわたってジャガイモの疫病による大飢饉が発生し、アイルランドの人口は半分になったという見積もりもあるほど大量の餓死者が出た。このジャガイモ飢饉以降、アイルランドからの移住は絶えまなくなり、1890年にはアイルランドで生まれた人の40%が国外に居住するようになり、現在アメリカ合衆国ではアイルランド系の人が3600万人もいると推定されるほどアメリカ大陸への移住が顕著になった。アメリカでセント・パトリックス・デーやハロウィーンの行事が行われるのは、アイルランドからの移民の歴史が背景となっている。
ベトナム戦争の頃に流行ったピーター・ポール&マリー(Peter, Paul and Mary)の「悲惨な戦争」の歌詞の中に出てくる「ジョニー」という名前は、戦争にまつわる歌ではしばしば登場する(「悲惨な戦争」の動画のURLは
https://youtu.be/SkO10Karb7w にある)。アイルランドの反戦歌に「あのジョニーはもういない」という歌がある。その動画は
https://youtu.be/U4Aaif06TYo にあるが、こちらの歌も聞き覚えがある方は多いだろう。曲は勇壮な印象も受けるが、下にあるその歌詞の一部はやはり悲惨な戦争の様子を表わしている。
You hadn't an arm, you hadn't a leg,
Hur-roo Hur-roo
You hadn't an arm, you hadn't a leg,
Hur-roo Hur-roo
You hadn't an arm, you hadn't a leg
You're a spinless, boneless, chickenless egg
You'll Have to be put with the bowl to beg
Johnny I hardly knew ya
あなたは腕を失くし、脚を失くした
ハールー ハールー
あなたは腕を失くし、脚を失くした
ハールー ハールー
あなたは腕を失くし、脚を失くした
あなたは寝返りも出来ず、骨もなく、失うものさえない
あなたはただ救いを求め、哀れな残骸を横たえなければならない
ジョニー 私にはどうしてか分からないhttp://blog.livedoor.jp/lemontree123/archives/529109.html
アイルランド議会の中では、人種主義のアパルトヘイト政策を行う政府の代表であるイスラエル大使を追放すべきだという声も上がっている。アイルランドのパレスチナへの共感は、アイルランドが1649年のクロムウェルの植民地化から1931年の完全独立までイングランドの植民地として置かれ、植民地時代に餓死で人口の半数が消失したと見積もられるジャガイモ飢饉などパレスチナと同様に植民地としての苦難の歴史があったことと関連する。
1967年の第三次中東戦争で多数のパレスチナ難民が発生すると、1969年にアイルランド議会でフランク・エイケン外相は、パレスチナ難民の問題を解決することがアイルランドにとって最も緊急の課題であると述べた。アイルランドはパレスチナ難民の帰還なしに中東の平和はあり得ないという立場をとり続けている。
アイルランド下院議員のリチャード・ボイド・バレット氏(1967年生まれ)は、NATOの「偽善」を批判する発言をフェイスブックなどで発信している。
https://www.youtube.com/watch?v=ZD4po_y5Noc 彼は、欧米の政治家たちはNATO拡大や軍事費の増額を正当化するためにウクライナの戦争を利用していると述べ、ウクライナで起きていることはイエメン、パレスチナ、イラク、アフガニスタンと同様に、帝国主義戦争であると主張している。核兵器禁止条約にも批准せず、ウクライナ戦争ではNATOと一致し、イスラエルにも苦言を呈することがない岸田首相は少しはアイルランドを見習ったらどうだろう。アイルランド、岸田首相、どちらが国際社会から尊敬されるか、言うまでもなかろう。
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