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私がカレー屋を半年で閉める理由

11月、ランチタイムだけで6万円を超える売上を叩き出した日にLINEが届いた。OPEN景気が終わりジワジワと下がっていた売上が盛り返し、売上が安定してきた――あぁ、これでやっと一息つける――そう思った矢先の出来事だった。

――私のせいで色々ご心労お掛けして申し訳ありません。
――私の代わりに入れる人を募集して頂きたいです。代わりの方が見つかり次第退職したいと考えてます。
――飲食店の仕事を続けることが苦痛になってます。
――私の代わりが見つかるまではきちんと働かせて頂きますので、どうぞ前向きに検討していただけたらと思います。

悲痛なLINEの文面を前に……私は愕然とした。過去最高の売上(OPEN月除く)に浮かれていた私の心は一瞬で凍りつき、頭が真っ白になったのを覚えている。

「辞めるなんて……急にどうしたの?」

直ぐに私は文さん(店長)に電話した。

売上が上がれば上がる程、過酷になる現場。
心無い人のGoogleレビュー。
定着しないアルバイトスタッフ。

課題は沢山あったが、カフェ時代と同じように文さん(店長)と一緒に乗り越えて行けると私は信じていた。

――忙し過ぎて、ロボットみたいに働く自分が嫌なんです。
――私の様な昭和の頑固爺タイプの人間は、今の時代にそぐわないと痛感しています。
――心の余裕がなくなり笑顔で接客ができなくなり、このままではお店の評判も落とすだけだと思います。

だけれども、文さん(店長)の心は少しづつ傷つき擦り減り――ポキっと心が折れてしまったのだろう。

「でも、辞めてどうするの?」

口コミなんて気にしなくていい、文さん(店長)は文さんのまんまでいいんだから、と。1時間程説得を繰り返す中、ふと思い立ち私は言った。

「マンションを売って、田舎に引っ越しておにぎり屋さんでもしようかと思ってます、一人で」

ほう……。田舎で……おにぎり屋さん?

「年も年だし早めにセミ・リタイアして、お家の軒先でおにぎりとちょっとしたお惣菜を売ろうかと思ってます」

その瞬間、朗らかに笑いながらおにぎりを売る文さんの姿が私の脳裏に浮かんだ。

……楽しそう。

私は素直にそう思った。

「楽しそうやな」

声に出すと、そのビジョンはより鮮明になり近所の人達と談笑する文さん(店長)の姿がそこにはあった。明らかにカレー屋で働いている文さん(店長)より楽しそうだった。

――楽しく働く――

私が会社を立ち上げた時に定めたビジョンが、そこにはあった。

だから――私は文さんの意志を尊重することにした。そして、私はカレー屋を閉めることに決めた。

もったいないと思わないのか? と、問われればもったいないと思っているに決まっている。でも、お金を追いかけて失うものもある……のだと思う。

「文さん(店長)が辞める時は、カレー屋も辞める」

だから、カレー屋を始める時から言い続けていた言葉通り私はカレー屋を辞めることにした。

この決断が正しいかどうかは判らない。きっと死ぬまで判らないのではないかと思う。だったら、後悔のないように私は新しい「これから」を生きようと思う。

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