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私が『カレーとハイボール時々シフォン』という変な名前のカレー屋を始める理由

2年前、私はスカイツリーが見下ろす小さな街で『Café de Chanoma』という小さなカフェを開業した。

そして、1年後……。
私は『Café de Chanoma』の休業を決めた。

コロナの影響でカフェにお茶を飲みに行く人が激減し、売上が地べたを這いつくばり続けたからだ。顧問会計士が試算した次年度の売上予測はマイナス600万円。赤字が累積する前に次の手を打つ必要があった。

地域の憩いの場になればいいな。大きな収益はなくとも、収支はトントンくらいには収まるだろう。

そんな軽い気持ちで職場近くのカフェを居抜きで引き継いだ後、カフェを経営して1年弱、解ったことは「トントンで良い商売なんてない」という事実だった。

次に飲食店を経営する時は必ず収益を出す! 
そして、コロナ渦でも耐えうる業態にする! と、誓って私はお店を休業した。

それから半年……。

ピザ屋、ラーメン屋、パスタ屋。
バルに居酒屋、カジュアルフレンチ。
台湾ワッフル屋にくず餅屋。

Withコロナ時代でも収益が出る可能性がある、あらゆる業態を検討し続けた。もちろん、美味しいのは当たり前。地域に住む方々に、あって良かったと言ってもらえる店にするのは大前提だ。

1番始めに目を付けたのはピザ屋だった。
本格的なナポリピッツァが90秒で焼けるピザ窯を導入し、1枚1000円前後で本格的なピッツァを手軽に食べられるピザ屋をやろうとしたのだ。

片道2時間かけて車で埼玉県にあるピザ窯の会社まで行き、ピッツァの試作をしたり、ダイアモンド☆ユカイばりの熱くて陽気な社長と語り合ったりもしたが、ピザ窯を導入するにはテナントの電圧が足りず断念した。

次に目を付けたのが、つけ麺屋。
店先に長蛇の列が出来る一見さんお断りのような本格的なつけ麺屋ではなく、餃子の王将のようなファミリー向けのつけ麺屋だ。麺とスープを別けて提供出来るつけ麺やサイドメニューの唐揚げや餃子はテイクアウト需要にピッタリ合致すると考えた。

が、しかし。「イヤです」という店長の一言で諦めた。

カフェ開業時から勤務し、店長を任せている料理人の文さん。彼女はつけ麺の調理に興味がなかったらしい。飲食店で一番重要なファクターである料理人が乗り気でなかったのだ。スタッフの雇用を守るために休業し業態変更を行うのに、文さんがつけ麺にするなら辞めるという。本末転倒だ。

私は後ろ髪を引かれつつ、泣く泣く諦めた。

その後も様々な飲食業態を検討し、数々の人々と出会った。
名古屋高島屋にも入っているフレンチお惣菜店の社長はとても親身に話を聞いてくれたし、東京出張に合わせてお店まで来てくれた全国に多店舗展開している飲食店の社長さんもいた。

一生懸命模索していると、誰かが助けてくれた。
縁が縁を呼び、点が線になり少しずつ前に進むことが出来た。

もちろん、動くたびに課題にぶつかったが悩んでいる暇はなかった。

そして、休業から半年後……。

私はカレー屋を始めることにした。

そう、大食い早食いの巨匠、故ウガンダ・トラ氏の名言“カレーは飲み物”に出てくる、カレーである。

予約の取れない高級カレー店ではなく、老若男女が集まる地域のカレー屋。テイクアウト窓を設置し、気軽に持ち帰ることも出来るカレー屋だ。ライバルはカレーハウスCoCo壱番屋だ。

まず、私は人気店には看板メニューが必要だと考え、前から大好きだった秋葉原にある『カリガリカレー』さんと提携し、カレーを仕入れることにした。『カリガリカレー』は、2019年に神田カレーグランプリで優勝した程の大人気店だ。オーナーのお人柄も素晴らしく、話はトントン拍子に進んだ。

タイカレーをベースにしたトロリと濃厚な日本風のココナッツカレーを筆頭に20種類以上のスパイスと大量玉ねぎを使った本格インドカレー、店で種から轢く強烈なスパイスの香りが最高な超スパイスカレー。手仕込みカツとカツカレーだけのために開発されたジャパニーズカレー。

試食する度に感動した。カレーって旨い! 純粋にそう思った。

特に日本風ココナッツカレーが絶品だ。

トロリとしたポタージュスープのようなルーを一口食べると、上品な辛さの中にココナッツのまろやかさが広がる。グリーンカレーの爽やかさはそのままに、日本人好みのコクが追加された絶品カレーだ。

次に、地元の酒屋さんに相談して『酒屋さんが飲みたい数種類のハイボール』を用意することにした。なぜならば、私は昔からカレーのルーだけをつまみにちょっと一杯やるのが好きだから。

ハイボールの爽やかさとほんのりした苦味はカレーの味を引き立て、ハイボール×カレー×ハイボール×カレーの無限ループを産み出していく。どこかのカレー系雑誌が「カレーには、ハイボールがうれしいね」と、書く程にカレーにはハイボールが合う。手仕込みのカツにジャパニーズカレーをかけてキャベツと一緒にハイボールなんて最高だ。

もちろん、カレーを食べた後の甘味も用意する。春の苺シフォンサンドや自家製りんごジャムとシナモンを混ぜ込んだ、冬の季節にピッタリなアップシナモンシフォンケーキなど『Café de Chanoma』時代から人気の高かった文さんの手作りシフォンケーキも月替りで楽しめるようにした。

気がつけば、私の大好きな物をギュッと詰め込んだ店になった。

さて、そうなってくると問題は店名をどうするか、だ。

カレーとハイボールが楽しめて、シフォンケーキが食べられる店。
カレーとハイボールが楽しめて、シフォンケーキが食べられる店。
カレーとハイボールが楽しめて、シフォンケーキが食べられる店……。

『カレーとハイボール時々シフォン』とか、良くない?

店名が天から降ってきた。小学生男子並の単純さだが、店名は読みやすく、分かりやすい物が良いというのが私の持論だ。

「店名さ、『カレーとハイボール時々シフォン』にしようと思うねんけど、どう思う?」

いろんな人に聞いてみた。

ほとんどの人が微妙な顔をしながら、「変な名前」と言った。

なるほど。いいね! 私の心が踊った。「変な名前」ということは、それだけ脳みそにひっかかる名前だということだ。

「人類みな麺類」など行列の出来るラーメン店を6つ運営している松村貴大さんも、インパクトのある名前は良くも悪くも印象に残ると言っている。

店名は、『カレーとハイボール時々シフォン』しかない! と、私は思った。

そうして私は、お金・スキル・経験といった今の私が持てる全ての力を総動員して、全力で新しいかたちのカレー屋をつくっていった。

今度こそ、『カレーとハイボール時々シフォン』はコロナに負けない店になるに違いない。今度こそ、あたたかく「強い」店になるに違いない。

そう信じて、私は『カレーとハイボール時々シフォン』という変な名前のカレー屋をスカイツリーが見下ろす小さな街で開店します。近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

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