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#53眠らなかった亀。

「おはよう」
テル坊が出勤したあと、だれもいないリビングで、わたしが声をかけているのは、三匹の亀たちです。保温のために夜のあいだ、水槽にかぶせていたバスタオルを外し、フタを開けると、
「エサだ、エサをよこせ!」
と無言でわたしのほうに寄ってきます。

本来なら冬眠している亀たちが、こんな時期に活動しているはずがありません。ということは…、つまり彼らは冬眠しなかったのです。

昨年末に、このnoteの中でも亀たちを冬眠させるべくわたしが奮闘した記事をあげていました。強い覚悟をもって、彼らを長い眠りに導き、健やかな春が訪れるときまで、ゆっくりと休養させてあげようという親心と、
「三匹それぞれに、水槽を温めるためのヒーターを買い与えるなんて、勿体ない」
というケチな思いからの決断でした。

冬眠に入る一ヶ月前からエサを与えず、体調を崩さないように万全を期してのぞんだにも関わらず、どれほど暗所にしても所詮は室内であり、亀の冬眠スイッチはオンになりませんでした。

ガサガサ、ガサガサ。

「こんなに長い間、起きているのに、エサも与えていないし…」
わたしは良心の呵責に耐えきれなくなっていきました。そしてとうとう、一月の半ばに
「もう冬眠はあきらめました」
とテル坊とミドリーに宣言し、亀たちをリビングの日当たりのよい元の場所へと移動させたのです。

はじめのうち、断食状態だった亀たちは、エサをあげても近づこうともしませんでした。冬眠せずとも冬モードに入っていたのでしょう。わたしはネットで水槽用のヒーターを二つ買い足し(一つは持っていたので)、それぞれの水槽に設置。ひとまず寒さからの解放を試みました。

それから約一ヶ月。少しずつ体力の戻ってきた亀たちは、朝のエサやりの時間に冒頭の反応を示してくれるようになりました。エサを食べれば当然、水も汚れます。かくしてわたしの三つの水槽の水換え作業が、朝の家事のひとつとして再開されました。

ただ冬眠させる前に比べると、この水換えをあまり嫌がらなくなっているわたしがいます。どうしてでしょう?やっぱり亀たちが元気でいてくれる姿を見るのがうれしいから。そしてきれいな水の中で、バシャバシャと泳いでいる彼らの姿が可愛らしいから。しゃべることも懐くこともないであろう亀であっても、もう家族の一員なのです。

亀たちをみていると、生命の不思議を強く感じさせてもらえる気がします。もう二年近くもいっしょに暮らしているのに、彼らの生態はわからないことばかりです。一つ、勉強して知ったこととして、亀は甲羅の下に肺があり、肺の下に内蔵があるので、もしひっくり返って元に戻れないと、内蔵が肺を圧迫してしまい、呼吸困難でしんでしまうということです。

YouTubeで、池で思わずひっくり返ってしまった一匹の亀を、大勢の仲間の亀たちが助けにくるのを見たことがあって、それ以来、わたしは亀の底力(それ、なんやねん?)を信じるようになってしまいました。多分、うちの亀たちが底力を発揮してくれるのは、わたしが絶対絶命の大ピンチになった時なのでしょう(そんな時はこないほうがいいです。つまりわたしは亀の底力を、今生で目にすることは恐らくないでしょう)。




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