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「キングカズ最年長記録更新報道」批判のなかの「日本サッカーのレベル」とは何か

(中村憲剛Twitterより)

 先月23日に行われた横浜FC対川崎フロンターレ戦にてキングカズこと三浦知良が久々にJ1のピッチに立った。53歳のカズがJ1のゲームに出場するのは2007年以来だそうで、中山雅史の持つ最年長J1出場記録を45歳から大幅に塗り替えた。スポーツメディアのみならず一般メディアもこのニュースを多く取り挙げ、FIFAの公式Twitterアカウントも祝福のツイートを発信している。
 そんな「長老」カズを起用することに批判もある。J2でも2017年以降ゴールの無いフォワードを使うなんて、という意見はもっともである。横浜FCには昨年J2京都で17ゴールした、一美和成(いちみ・かずなり)をはじめ、有望な若手がいるのだから、そっちの「カズ」を使えと思うサッカーファンも当然いるはずだ。

 しかし「何故大手メディアはカズの賞賛一色なのか」というメディア批判まで及ぶのを、カズがこうしたさまざまな最年長記録を更新する度に目にするのだが、少々疑問に感じる。
 当然であるが「カズは日本サッカーの偉大なるキングなのだから、批判してはいけない」と言うつもりは無い。そんな盲目的な賞賛をしたところで、カズ本人を含めた誰もが喜ばないだろう。
 とはいえ、サッカー批評のウェブサイトなどならいざ知らず、地上波のスポーツニュースでは無い、一般のニュースで「最年長出場記録更新」のあとに「でも横浜はカズより一美を使うべきだけどね」と報じたところで、特にサッカーに詳しく無い視聴者の関心を引き寄せる構成にできるのだろうか?「ゴンの記録を更新」「FIFAもコメント」のほうが、非サッカーファンの視聴者も知りたいと思う内容なのではないだろうか?

 将棋の藤井聡太二冠の報道が「若さ」と「対局中の食事」しか話題に挙がらないことが時折話題になるが、膨大なニュースを限られた時間や文章量で伝えなくてはならないメディアがいちいち藤井二冠の駒の動きや攻め方、守りの陣形、相手玉の詰ませ方などを、将棋を知らない視聴者に短くわかりやすく伝えるのは難しいだろう。細かく知りたいという人や将棋ファンは専門的な媒体で自分から調べるはずである。

 もしもカズが人種差別発言や八百長をしているにも関わらず、手放しで賞賛をしていたらおかしいと思うが、カズはルールに則り出場し、一選手としてプレーし、それが最年長記録であったと言うことだ。横浜FCだってJリーグを戦うプロフェッショナル集団であり、ワイドショーに取り上げられたいだけでカズをピッチに上げたりするとは考えにくい。カズが敗因となって大敗したり、ゲームを壊したりしているからとにかく、カズが出場した川崎F戦で横浜FCは2-3というスコアで首位クラブに肉薄した。DAZNの解説だった戸田和幸も内容を誉めていた。

 またカズ出場批判に「あんな年寄りでもプレーできる日本サッカーのレベルが低い」という言説をよく目にするが、ここで言う「日本サッカーのレベル」とはなんだろうか。カズが横浜FCに移籍したころ、つまり05年くらいから目にしているように思うのだが、ずっと「低い」のだろうか?確かに「高い」とは感じない、まだまだ発展の伸び代があるという風に感じることはあるが、少なくともこの15年間前進してないと思ったことは無い。
 海外トップリーグでプレーする選手の人数はかなり増えたし、2018年にはW杯優勝4回のイタリアすら逃したことのあるW杯出場権を1998年以来絶え間なくキープしている。なでしこジャパンなんて2011年には優勝し、澤穂希はリオネル・メッシすら果たしていない、「W杯優勝+世界最優秀選手賞」を叶えた世界的にも少ない選手になった。ピッチ外でもDAZNがJリーグと大型契約を結び巨万の富をもたらし、アンドレス・イニエスタやフェルナンド・トーレスといったスーパースター選手も日本にやって来て、大きな話題になったのは記憶に新しいところだ。それこそカズの言葉を借りるなら「日本だって世界なんですよ」である。

 男子A代表がW杯で優勝し、バロンドールを獲得する男子選手が現れれば、間違いなく「レベルが高い」と言えるだろうが、そこまでの国が世界に何ヵ国あるだろうか。高みを目指すのはスポーツに必要なことだが、批判したいがために世界でもごくごく少数の優秀な存在と比較するのはあまりフェアとは言い難い。むしろ30年前にはプロリーグすら存在しなかった国で、ここまでの発展を遂げ、相撲や野球といった戦前から日本人が好んで来たスポーツに肩を並べるメジャースポーツになったのは、かなりすごいことなのではないか。
 そして仮にドイツやブラジルのような「一握りの国」にになったとしても、一般ニュースでは「最年長記録更新」と報じても、それに対する「批判」は専門のスポーツニュースの領域になるだろう。特に好き嫌いを公の場ではっきりと言うのをあまり是としない日本では、特にそうなるのではないか。ドイツやブラジルにだって間違いなくサッカーに関心のない人も沢山いるはずであるし、サッカー大国も四六時中サッカーのことを考えているわけではない。


 難しいことではない。カズという一選手だけを切り取って、「日本サッカーのレベル」という曖昧かつ誇大化した主語で結論付け、共感を呼び起こそうとするのをやめるべきというだけの話だ。カズを批判したいなら「カズのレベル」という主語を使って、スプリントが遅い、全盛期ならあのゴールは入ってたとカズのプレーを表現すれば良い。
 カズは日本サッカーの象徴的な存在だが、カズ1人だけで語れるほど日本サッカーは単純なものではない。日本サッカーを語るなら日本サッカーの全てに精通してる必要があるとは思わないが、カズだけで語るのは無理があるだろう。

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