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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#081]65 朝帰り

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

65 朝帰り

◆登場人物紹介(既出のみ)
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神秘魔法で大人の姿になり、ケヴィンの護衛騎士に扮している。
・サティ…獣人の神、ギヴリスの助手の一人(人ではないらしい)で、シルディス神に従っている。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。右目は眼帯で隠れている。リリアンの家に借り宿中。

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 やたらと豪奢ごうしゃなベッドの上で目が覚めた。

「う……ん」
 また痛む頭を抑え、そのまま自分の手を見るとちゃんと大人の手のままだ。安堵あんどでふぅと息をついた。こんな場所で誤って正体を明かすような失態は出来ない。

 昨日、教会でサティさんに話を聞く事が出来た。そして色々とわかった事もあるし、わからない事も多かった。
『せっかく力を与えられたのに。何を躊躇ちゅうちょしているのですか?』
 彼女は私にそう言った。

 そうだ、自分で知らなければいけないのだ。

 その言葉に、あの場で今出せる力の全てを解放したら、体の中でぐるぐると何かが渦巻くような感覚がした。その時に多分サティさんにも何かされたようだったし、シルディスからも何を感じて…… そしてそのままぶっ倒れてしまった。
 王城まで先王様に抱きかかえて連れ帰っていただくなど、建前でも護衛騎士のはずなのに本当に情けない……

 慌てたケヴィン様がニールを呼びつけようとするので、それはなんとか止めた。ニールはこの姿の事は知らないから色々とバレてしまう。彼は思った事は顔に出てしまうから、隠し事なんて絶対に出来ない。
 次に西の冒険者ギルドに連絡を取ろうとしたので、それも止めてもらった。そうしたらきっとデニスさんが来る。この状況を確認して、彼がニールの正体に気が付かない訳が無い。せっかく隠しているニールの努力が無駄になる。
 でも一人で帰ると言っても許してはもらえなかった。それだけケヴィン様に心配をさせてしまったという事だろう。

 いずれにしても、まともに動けないくらいにまだ目が回っていたし、一晩王城で休ませていただく事で納得してもらった。
 休むと言っても騎士団の救護室かどこかだと思っていたのに、まさかケヴィン様の客間に案内されるとは想定外だった。そしてベッドまでケヴィン様に抱きかかえられたままだとも……

 まだちょっと頭が重いが、起き上がれない程ではない。枕もとの水差しからカップに水を汲み、一気に飲み干した。ふぅと息をつく。うん、大丈夫。
 きっと二人にも心配かけちゃっただろうなぁ。

 壁にかけてあった騎士服に着替える。身だしなみを整えようと鏡に向かった。今そこに映っているのは黒髪の人間の女性騎士の姿だ。
 私はどうにもセンスがない。この姿も前世の姿をある程度真似てしまっている。まあ完全に前世のままではないし気付かれる程ではないとは思うけれど。
 でもせっかくだからもう少し可愛げのある姿にすればいいのにと、鏡の中の自分にむけて苦笑いをした。

 ケヴィン様は私と一緒に朝食をと思っていたらしいが、皆を心配させてしまっているのでと辞退させていただいた。ただ……
其方そなたにも言えぬ事もあるのだろう。差支えのない範囲でまた話を聞かせてほしい」
 優しく笑って、そう言った。

 何度かお会いしてわかった。この方は聡くて強くて、そして優しい方なのだ。

 この事に巻き込んでしまった事は、もしかしたら間違っていたのかもしれない。私はこの方につらい真実を伝えなくてはいけない。
 そして私がクリスを思ってした事も間違っていたのかもしれないと、今になってそう思えた。

 私の決断が人を傷つけている。
 そんな私が、何故こんな大役を担っているのだろう……

 また頭が痛んだ。

 * * *

 こっそり家に入るつもりでそっと扉を開けたが、既にアニーが玄関先に立っていた。この子にはドアを開ける前から気付かれていたみたいだ。
『お帰りなさいませ』
「……ただいま、です……」
 アニーの後ろに、慌てた様子で居間から出て来たデニスさんとシアさんが見えた。

「リリアン!! いったいどうしたんだ!?」
「あー、すいません…… デニスさんにもご心配かけてしまいまして……」
 彼が早朝からこの家に居るという事は、やはり私の帰りを待っていてくれたのだろう。私の姿を見て、ほっと息をついたのがわかった。

「朝ごはんはもう食べましたか? 色々と持たせてもらったので、朝食に頂きませんか??」
「それよりも、ひとまずは無事なんだな?」
「……へ? ああ、はい。別に…… えっ!?」
 デニスさんに返事をした途端に、体がふわっと浮き上がった。

「玄関先で立ち話もなんだろう?」
 気付くとシアさんの腕の中に、あっという間に横抱きで抱え上げられていた。そのままで居間に向かう私たちに向けて、デニスさんが「おい! おっさん!!」と、相変わらずの様子で声を上げた。

 抱きかかえられたままで居間のソファまで運ばれて座らされると、がっちりと両脇を二人に挟まれてしまった。
 嫌な訳ではない。でも逃げ場が無くなったように思えて、両耳が垂れた。

「なあ、リリアン…… 昨日は何があったんだ? 心配したぞ?」
 左手に座ったシアさんが顔を寄せながら、やけに真面目な顔で聞いて来た。
 昨日夕方までに帰るって言ったのは私だもんね。心配させてしまった事は、本当に申し訳ない……

 でも言えない事もある。どう話し始めようかと思っていると、頭にシアさんの手が触れた。
「まあ、恋人の家で過ごしてたとかなら、いいんだけどさぁ」
 よくねえよってデニスさんが小さく呟いたのが聞こえた。

 そんな事言われても恋人なんか居ない。なんでそんな話になるんだろう??
「リリアン、こんなに可愛いんだもんなぁ。でも、もしも困った事があったらちゃんと相談してくれよ?」
 彼が頭を撫でてくれる、その前後する手が耳にふにふにと当たるとなんだか心地よい気がして、気にする気持ちがちょっと紛れた。

「……いや、何も困った事はないですよ。先方でちょっと気分が悪くなって…… 休ませていただいていたんです」
「そっか、ならいいんだが……  わりい。ちょっとだけ、良くない心配をした」
 少し困ったような表情で微笑んでみせてから、そう言った。
「おっさん、どうしたんだ?」
 デニスさんもその様子が気になったらしい。

「朝帰りするって事は、そういう事だろう?? それで朝飯を手土産に持たせてくれたのなら、相手は貴族か…… 金持ちとかなんだろうなと思ってさ。 だからもしかして、帰れなかったんじゃなくて……帰してもらえなかったんじゃないかって、思っちまってな……」
 シアさんが言う事は前半は間違いではない。でも帰してもらえないって?? どういう事だろう??

「ああ、そうか……」
 その声に反対側を見ると、今度はデニスさんが苦い顔をしている。
「……どうしたんですか?」

「こないだまで、俺がお前の護衛をしてただろう?? おっさんはそういう心配をしたんだな……」
 そう言いながら、デニスさんはシアさんの手を払いのけて私の頭を撫でた。デニスさんの手の方が、多分ほんの少しだけ大きい。シアさんに撫でられるより、大きく耳に当たった。

「そういう心配って……?」
「……お前が無理矢理…… 誰かの夜の相手をさせられたんじゃないかとか…… そういう心配だな」
 デニスさんは私の頭を撫でながら、ちょっと言い難そうに口籠くちごもりながら言った。

 いやいやいやいや! そんな事はない!!
 でもそっか。朝に帰るという事はそういう事だ。それで恋人がどうとかって話になったのか……

「いいえ、そんな事は全くありませんー!! ええとですね…… あるきっかけでお知り合いになったお年寄りのところで、たまに本を読んで差し上げているんです。昨日は一緒にお出掛けしてきたんですけど…… それで体調を崩してしまいまして……」
「あーー…… 年寄りと一緒って事は、もしかして馬車に乗ったのか??」
「……はい」

 なるほど、とデニスさんは言って息を吐き出した。
「馬車がどうしたんだ?」
「リリアンな、馬車酔いするんだよ。異常なほどにな」
「……意外だな」
「ああ、俺も意外だった」

 どう誤魔化ごまかそうかと思ったところで、いい案配あんばいに勘違いをしてくれたらしい。
 まさか教会の奥でシルディス神の遺骸を見つけ、さらに神のゴーレムに会ったなんて言える事ではないし。

「そろそろ朝ごはんにしませんか?」
 どうにか安心したらしい二人に声をかけると、ようやく解放してもらえた。

 持ち帰ったマジックバッグには大き目のバスケットが二つと深めの鍋が入っている。
 一つ目のバスケットには、ハムやソーセージ、チーズ、サラダなどがたっぷりと入っており、もう一つのバスケットには焼きたてらしい白パンがこれでもかと詰められていた。
 鍋の蓋を開けると湯気とともにいい匂いが立ち込める。中身は大きな肉の塊と野菜がごろごろと入ったスープだった。これはキッチンから持ってきた深皿に盛り、各自のテーブルに置いた。
 流石、王城の朝食だ。昨日の朝食もこれに負けず劣らずのボリュームではあったけれど、今日のは見るからに質が違う。

 二人とわいわいと話をしながら食べて、ちょっとだけケヴィン様と朝食をご一緒しなかった事を後悔した。
 日記を読んだ後に、あの方はいつも皆で過ごした楽しい思い出話を聞かせてくれる。その様子は嬉しそうだけれど、でも少し寂しそうでもあって。もしかして本当はあの方も昔のようにこんな時間を持ちたかったんじゃないかと、そう思った。

 日記はまだあと数ページ残っている。またアップルパイを焼いて、ケヴィン様の所へ行こう。

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(メモ)
 (Ep.5)
 (Ep.6)
 (Ep.3)
 アップルパイ(#55)


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