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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#080]Ep.10 家族/サム

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

Ep.10 家族/サム

◆登場人物紹介(既出のみ)
・サム…魔法使いの『サポーター』。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女
・シア…冒険者で一行の『サポーター』。栗毛の短髪の青年
・クリス…『英雄』で一行のリーダー。人間の国の第二王子。金髪の碧眼の青年
・アレク…騎士で『サポーター』。クリスの婚約者でもある。真面目で一生懸命。
・ルイ…神の国から来た『勇者』の少女。サムと仲が良い。
・メル…魔法使いの『英雄』。黒髪の寡黙な青年
・アッシュ…冒険者の『英雄』。黒髪長身の美人

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「お前は本当に可愛いわね」
 いつも姉さまはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。

 エルフの一族は、一般的には容姿の良さと魔力の強さでその魅力が測られる。そして、その者の魔力が一番高い年頃で見た目の成長が止まる。

 青年期の一番美しい時期……人間で言えば18~23歳くらいの姿で居られるのが、より良いとされるのだ。

 私はそこまでは成長できなかった。美しいと言われるには、あまりにも幼い……せいぜい15歳程度の見た目だろうか。

 早くに魔力が育った証拠なのだろう。たしかに魔力の強さでみれば、その頃の仲間たちの内では一番の魔力であっただろう。でもそういう事よりも、私はちゃんと大人になりたかった。

 30年前に国を出た姉さまを追って、私も国を出た。

 * * *

 もうこれで何度目なのかしら。
 項垂うなだれるシアを見て、クリスは笑いそうになるのをなんとか堪えている。アレクは顔を真っ赤にさせているし、ルイはちょっと複雑そうな表情だ。隣に座っているメルが、小声で「やれやれ」と呟くのが聞こえた。

 この日、シアはまた告白に失敗した。

 始まりはいつものようなただの雑談だった。ルイがこの国についての話を聞きたがり、流れで家庭や生活の話になった。
 主にシアが庶民の暮らしぶりについてを語り、アレクが貴族の生活は堅苦しいだとか親のしつけうるさくてとか愚痴っぽい事を言い始めた頃だった。
 どちらかと言うと聞き上手で、いつもの様に皆の話を少し嬉しそうな顔で静かに聞いていたアッシュがぽろりとこぼしたのだ。

「それでも帰る家があり家族が居ると言うのは、少し羨ましいな」

 アッシュの生い立ちについては、ほとんど何も知らない。自分から話そうとはしないし、一番付き合いの長いシアからも聞いた事が無い。でもその一言で、彼女には帰る家も家族も無い事がわかってしまった。

「いや、今の生活に不満があるとかではないんだ。こうして仲間として皆と居られる事はとても嬉しい」

 なんとなく皆が黙ったのを気にしたのだろう。珍しく少し慌てた様に言い訳をした彼女に、シアが真面目な顔で言ったのは、その時だった。

「俺、アッシュの…… ただの仲間じゃなくて、家族になりたい」

 今回は彼にしてはかなり大胆にアプローチしたつもりだろう。それが結婚を意味しているんだろうって事は、流石に私にだってわかった。でも彼女には全く通じていなかった。

「ありがとうな、シア。そうだよな。皆の事はただの仲間なんかじゃない、家族みたいだとそう思っているよ」
 アッシュは笑って言った。
「……ああ」
 そう答えて黙ってしまったシアも、本当バカだと思うわ。

 まあ私としてはその方が都合が良いのだけれど。
 そんな事を思っていると、アッシュは用事があると言って一人部屋を出て行き、それを見送ったシアが盛大に項垂れたのだ。

「『家族』ね……」
 小さくだけど、つい口から出た言葉がメルには聞こえたのだろう。ほんの少し、怪訝けげんそうな顔をこちらに向けた。

 私たちエルフには夫婦や家族という概念はない。えて言うのなら村の一族全部が家族みたいなものだ。生活も子育ても村単位でするものであって、血の繋がりなどによる小さな集団を成すことはない。

 だから、シアの言う様な事はイマイチ私には理解できなかった。特定の相手とだけ一生を過ごすだなんて、そんなのつまらないじゃない。アッシュの言う事の方がまだわかる。一つの目的の為に生活を共にする仲間。それを家族と呼んでも良いんじゃないかなって思った。

 姉さまを追って故郷を捨てて、新しい人たちと生活するようになったけれど、そこでの生活は家族というより組織って感じだった。あの中で私のそばに居てくれるのは姉さまだけだ。だから、あそこでの家族は姉さまだけみたいなもので、その姉さまの為ならどんな事でもしたいと、そう思っている。

「私は元の世界に戻っても『家族』ってもう居ないから。皆みたいなお兄ちゃんやお姉ちゃんが居たら嬉しいなー」
 フォローなのか真意なのかわからない、そんな言葉を口にしたルイに皆の視線が集まった。

 項垂れていたシアはそれを聞いてパッと明るい顔になった。
「そっかー、ルイは可愛いな! ちゃーんと兄ちゃんを頼りにするんだぞー」
 ふざけてルイの頭をわしわしと撫でるシアに、「シアくんは同い年でしょー」とルイがむくれてみせた。

「やめてー、私のルイに何すんのー?」
 そう言ってシアを突き飛ばしてルイの手を取ると、「サムちゃんー」と彼女も嬉しそうに繋いだ手に頬を寄せてくれた。

 ルイとは趣味も話も合うし、可愛いしとてもいい子だ。異国から来た彼女を寂しい思いはさせたくない。
 家族とかそういうのじゃなくても、皆でこんなふうに楽しく仲良く過ごすのなら…… それもいいかもしれないわよね。

 * * *

 隠していたのに……
 彼女にこれがみつかってしまったのは、本当に偶然だった。
 でもそれでも彼女は、私を責めるわけでもなくて。皆にこの事を言うつもりもないと、そう言った。

「私の事、疑わないの?」
「疑うと言うのは違うかな。ただ皆がそれぞれに、この任に着くに当たって言えない事情も抱えているだろうとは思っている」
「……貴女も?」
「ああ……」
 そう悲しげに、目をらせて答えた。

「でも皆に、つらい思いはしてほしくない。だから、何かあったら言ってくれると、頼ってくれると嬉しい」
「……ふふ、まるで貴女がリーダーみたいね」
「リーダーはクリスだろう?」
「でも彼はお坊ちゃまだから、色々と甘いのよね。貴女は違うみたい。いろんな経験をしてきている人なんだと、そう思うわ」
「サムもそうなんだろう?」
「まあ、私は長く生きているからね……」

「アッシュは私がずっとずっと年上だとわかっても、こうしていつも通りに接してくれるのね」
「サムは大人みたいに扱われるのを望んでいないだろう?」
「……うん、どうせ大人の姿にはなれないのだしね」
「本当はメルとの立場も逆なんだろう?」
「気付いていたの?」
「彼は無意識にサムの視線を気にしているからな」
「二人の時だと敬語になるのよ。やめなさいって言ってるのに」
「シアもそうだ。私と二人になると、たまに昔の口調に戻っている……」
「彼とはどんな関係なの?」
「昔、シアが困っていた時に手を貸した事があって…… それから一緒に旅をしていた」
「シアは貴女に借りがあるのね。だからあんなに貴女に執心しゅうしんしているのね」
「……ああ、それが私は心苦しい…… 本当はもう貸しなんてないのに…… シアは私なんかに縛られずに、自由になっていいのに……」

 そう言う彼女は、なんだかとても苦しそうに見えた。でも、その憂う表情がとても美しいと思えた。

「メルに対する好意もパフォーマンスか?」
「ふふふ…… 綺麗な人は好きよ。メルも美人だわ。でも私の愛を捧げるには彼では不足しているわね」
「エルフらしいな」

 アッシュはそっと目を細めて私を見つめた。

「なら、メルの事は……」

 * * *

 私たちの見ている前で、ナインテールの遺骸いがいはキラキラと光に包まれて消えた。後に残された尻尾は、一つずつが手のひらに収まるほどのサイズに縮まっていた。

 残された2匹の仔狐はきゅーきゅーと泣きながら、尾を拾い集めたクリスの膝に前足をかけた。彼の手に集められたナインテールの尾に鼻を寄せながら「お母さん、お母さん」と呼んでいるように思えた。
 その鳴き声に応える様に尾が淡い光を放ち、そのうち二つがそれぞれ仔狐たちにまとわりついた。光の中で仔狐たちは一回り大きくなり、1本だった彼らの尾は2本に増えていた。
仙狐せんこは成長と共に尾が増えて九尾ナインテールになると聞いていたが…… こういう事か……」
 アッシュが呟いた。

「これは想定外じゃの」
 いつの間に現れた白髪はくはつおきなは、そう言って白い顎鬚あごひげを撫でていた。ただのご老人ではない事はすぐにわかった。背中には竜の翼、鱗の生えた尾。竜人……だろうか?
 皆に緊張が走り、アレクとメルは身構えた。

「ああ、お前さん方がやったとは思っとらんよ。ありゃあ、魔族だな」
 翁があっけなく放った言葉にまた別の緊張が走った。
 先程私たちの目の前で消えた、あの異様な魔力を持つ者が…… あれが魔族だったと言うのか? 私たちはナインテールがやられているのを、ただ見ている事しかできなかった。これからあの魔族たちと戦わなければいけないのに……

 その御老人に気をとられていると、急に辺りがかげって頭上から羽ばたく音が聞こえた。見上げると5色の翼を持つ巨鳥と、それと並んで赤い鳥が舞い降りようとしているところだった。

「君たちは?」
 地に足をついた巨鳥の口から、その美しさに似合わぬ野太い男性の声が聞こえた。
「あなた、その姿では皆を怖がらせてしまうわ」
 そう言ってもう一羽の鳥は細身で赤毛の女性の姿をとり、遅れて最初の巨鳥もたくましい男性の姿に変わった。

 * * *

「ナインテールの尾はアミュレットにすると良いらしい」
「本当に、残りの尻尾を私たちが貰っちゃっていいのかなぁ?」
「それがナインテールの望みだろう?」
 アッシュはそう言って微笑んだ。
 ルイとアッシュが話し合っている間、仔狐たちはずっとアッシュにすり寄って背を撫でられている。昨日シアに懐いていた仔狐らは、一晩でアッシュに鞍替くらがえしたらしい。朝起きたらシアと一緒に寝ていたはずの仔狐たちが、2匹ともアッシュにしがみついていたそうだ。
「あれだけ昨日一緒に遊んだのになあ」
 そう不満そうにぼやくシアは、でも少し優しい目をしていた。

 ナインテールに貰った尻尾は、私がアミュレット化する事になった。アミュレットにすれば、所持しているだけで状態異常耐性の効果が得られる。
 魔力の強さからするとメルでも出来るんだけれど、彼は「こういう事はサマンサ様の方が得意かと」とか言って、ちゃっかり私に押し付けて逃げてしまった。
 でもアッシュが「サムならきっと良いものを作ってくれる」と、笑って言ってくれたものだから、俄然がぜんやる気がでた。彼女が喜んでくれるのなら、頑張らないわけにはいかない。

 アッシュは美人だし強くて優しい。そして私の事もとても大事に思ってくれている。
 私が彼女にさせようとしている事は、本当は彼女の望んでいる事ではない。それでもアッシュは私の事を思って、それに協力しようとしてくれている。だから私も彼女の為になれる事があるのなら、精一杯で応えたい。
 アッシュが自分は幸せになれないと思っている事を、私は気付いてしまった。きっとそんな事はないと思うのに……

 九尾ナインテールの尾はその名の通り9本あって、そのうちの2本は仔狐たちが受け継いだので、残りは7本。私たちの人数と丁度同じ。七つというのは少ない数じゃない。元の尾の魔力が強いので、加工するにも相応の魔力と時間が必要だ。
 それを皆に伝えると、しばらくこの仙狐の住処に滞在する事になった。その間に、古龍エンシェントドラゴンの翁は皆に稽古をつけてくれ、鳳凰ほうおうの長も私たちの魔法を見てくれるそうだ。昨日力不足を実感した私たちにとって、それもとても有り難い申し出だった。
 そして、親を失ったばかりの仔狐を特に気にしていたアッシュは、しばらくここに居られる事を聞いてほっとした顔をした。

「そのうちにはこの星に生命を捧げる身ではあるが…… 九尾きゅうびが代替わりするにはまだ早いですな」
 鳳凰の長がそう言っていたのを思い出した。きっとナインテールはあの仔狐たちをかばったのだろうと。
 彼らが言うところによると、ナインテールは本来ならば魔族などにやられるような惰弱だじゃくな魔獣ではないそうだ。そしてはぐれた下位魔族ならともかく、あのような上位魔族が獣人の国にまで侵攻する事も今までにない事なのだそうだ。

 魔族たちが求める物は王都にある。それを魔族から守るのは神の意思なのだ。決してその事に疑問を抱いてはいけない。
 あの惨いナインテールの最期を見届けたとしても。

 * * *

 一行は定期的に王都に戻る。王都ではそれぞれに分かれて各機関への報告と所用を済ませ、休暇を兼ねて二日後にまた出立するのが恒例になっていた。

 私たちも旅の報告の為に教会に帰らないといけない。ところがメルは、もう教会には行かないと言い出した。
 確かに報告だけならば私一人だけでも十分に用は足りる。ただメルをにしている重鎮じゅうちんの方々からは文句が出るだろう。
 何故かと理由を聞いても、行きたくないからだと、ただそう言った。

 最近メルはアッシュととても仲が良い。おそらく彼女に好意を抱いている。あまり自分の希望や願望を持たずに、人に言われるままでいた彼が随分と変わったものね。最初はシナリオの話をしても、気が進まない様子だったのに。

 夕餉ゆうげの席では私の隣の席が空いている事に、大司教様を始めとする重鎮じゅうちんの方々はあからさまに残念な顔を見せた。でもメルのあの様子だと、もう彼がここに来る事はないだろう。
 大司教様の席から順に、金の細工で縁取られた豪奢ごうしゃなグラスが並べられる。それが並べられるのは私の席までで、隣のメルの席には何も置かれない。さらに下手しもての司祭たちの席に配られるグラスには金細工はついておらず、明らかに違う物だと言うのがわかる。
 夕餉の席でこの神酒しんしゅを配られるのが、教会での地位を得ている者の特権なのだ。私とメルは『英雄』に選ばれた事でようやくこれを口にする権利を得たのに。

 メルは……それすらも捨てるつもりなのだろうか?

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(メモ)
 古龍、鳳凰(#22)
 魔族(#23、#32)
 仙狐の兄妹(#29)
 (Ep.6)
 (#19)

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