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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#022]19 食事のマナーとアミュレット/アラン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

19 食事のマナーとアミュレット/アラン

◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称田舎貴族の少年
・アラン…Bランクの冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。美人で酒に強い。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、アランの先輩

 クエストからの帰り道、西門を入った所でポーション売りの少年が声を張り上げている。
「この間買ってとても助かったよ。この薬は君が作ってるのかい?」
 そう声をかけると、少年は嬉しそうに笑った。
「うん! おれ、こういうのは得意なんだ。お兄さんたちみたいに戦ったりとかは出来ないんだけどね」
 ポーションの不足はなかったが、買い置き分と毒消しや麻痺治しなど、いくつか購入した。

「毎度あり! あと2~3日はこの辺りにいるから、またよろしく!」
「え? もう他の所に行っちゃうのか?」
 ニールが残念そうだ。あまり同年代の者が周りに居ないせいか、この少年が気になるらしい。
「うん、同じ場所で長く売ってると、うるさいオジさんに見つかっちゃうからさ」
 粗悪なポーションならともかく、店売りと遜色そんしょくのない品を出す彼の行商は、正規の店を出してる者にとっては商売の邪魔になる。そういった店主にでも叱られるのだろう。

 先日聞いた話によると、なんでも病気の父親がいて、その薬を買おうと働いているらしい。ニールよりも年下だろうに、大分しっかりとしている少年のようだ。

 * * *

 それに比べて……
 アランは、目の前の光景を見てため息をついた。

 元居た中央エリアでなく、ここ西エリアの冒険者たちとクエストに行くようになった事は、ニールの成長の為にもとても良かったはずだ。あれからニールは、冒険者として大分成長した。自ら進んで練習や勉強をするようになった。今までの彼の甘さを考えたら本当に雲泥うんでいの差だ。

 しかし、こんな風に食事中の行儀が悪くなるのは誤算だった。町の冒険者たちとも食事をする機会を持つうちに、荒々しい所作しょさが身に付いてしまったらしい。

「ニール。流石に行儀が悪すぎます」
 口に含んだ肉で両の頬を膨らませたまま、ニールは顔を上げた。その顔を見て、またため息が出た。

 今日の夕食は『樫の木亭』ではないが、やはり冒険者がよく集まる店だ。確かにテーブルマナーを振りかざして食事をするような場所でもない。
「こういった店で堅苦しくするのは場違いなのは分かります。しかし、必要以上に見苦しく振る舞うのは褒められた事ではありません」
 どうやら風向きが悪いという事に気が付いたのだろう。ニールは静かに口の中身を咀嚼そしゃくして、息と共に飲み込んだ。

「デニスさんも、リリアンさんも、お食事は綺麗になさっているでしょう? お二人とも平民ですが基本はちゃんと身に付けていらっしゃるようです。身分を言うのなら貴方が一番きちんと出来ていておかしくないはずなのに……」
 情けない……
 三度目のため息と共にらした言葉も、しっかり聞こえたらしい。ニールはバツが悪そうに視線を落とした。

「あら、お二人とも久しぶりね」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、マーニャさんがテーブルの横に立っていた。
 ニールは話がれた事に一瞬ほっとした顔を見せたが、慌てて手元に置いていた布で口元をぬぐった。

「ご一緒してもいいかしら?」
 勿論断る理由はない。むしろ自分にとっては大歓迎だ。
「どうぞ、喜んで」
 自分の隣の席を差してうながした。

 今日もマーニャさんはなかなかに魅力的な服装をしている。大きく襟ぐりが開いた服から豊かな胸の谷間がうかがえそうで、しかもペンダントがまさに視線を誘うような位置で自己主張をしている。
 斜めとはいえ向かいの席に座られると、目のやり場に困るだろう。自分の向かいに座っているニールの困惑より、自身の保身を選んだ。

 マーニャさんの注文オーダーが届き、皆で軽く杯をかかげる。
 彼女とこうしてゆっくりと話が出来るのは二月ふたつきほどぶりか。初めてお会いしたモーア狩りの時以来だ。
 あのあとすぐにマーニャさんは旅に出たと聞いていたし、その後戻っていたようだったが、声をかける機会を逃してしまって、またそれきり見かけなかった。

「しばらくお見掛けしませんでしたね」
 そう切り出すと、モーアのローストを丁寧ていねいに切り分けながらマーニャさんが応える。
「あちこち行ってたのよ。ちょっと面倒な探しものがあってねぇ」
「またクエストに行かれたのかと」
「まぁ、そんなところ」
「俺、クエストの話聞きたいです!」
「んー、ごめんなさい。今回の内容はナイショなの。依頼主からの要望でねぇ」
 ニールがあからさまにガッカリした。顔に出過ぎじゃないか。自分も残念に思ったが、ニールのお陰で顔には出さずに済んだ。

「話はしちゃだめだけど。代わりに、これをお土産にあげるわ」
 マーニャさんが取り出したのは、手のひらに乗るくらいの尾の形をしたアミュレットだった。
「これは…… もしかして、ナインテール?」
 マーニャさんは、しぃーと言うように人差し指を口にあてて、目配せをして見せた。

 ナインテールは伝説級の魔獣だ。獣人の国に住処があると言われているが、その姿を見た者は少ない。
 その名の通り九つの尾をもち、その尾をアミュレットにすると、ある程度の状態異常耐性の効果が得られるそうだ。

 王国中の貴族が欲しがっていると言っても過言ではない。
 実際に持っているのは、主たる王族と上位貴族の数名くらいか。あとは一部の上位冒険者には持っている者も居るらしいが、大抵は持っている事を隠しているので、その事が知れる事はない。

「これはすごい…… やはり強かったですか?」
 ナインテールの名を周りの席に聞かせるわけには行かないので、わざと名を出さずに聞いた。
「そうね。3パーティーで行ったのだけど、思った以上に苦戦しちゃったわ」

 ナインテールはSSランクの魔獣だ。冒険者ランクにSSランクは存在しない。なので、SSランクの魔獣を相手にする場合にはSランクのパーティー複数で向かう必要がある。

「最期の言葉が耳から離れない。でもこれは私の罪なのよね……」
 ぽそりと、その美しい紫水晶アメシストの瞳を伏せながら、呟くように言った。
 ああ、そうか…… 高位の魔獣は人語を話すと言う。それを聞いてしまったのだろう。

「でも良いんですか? かなり高価なものですよね?」
「いいわよ。二人ともこれからはこういうのが必要でしょ」

 ナインテールの尾はそのままでも状態異常耐性の効果があるが、魔力を込めてアミュレット化すると魔力の流れが安定して効果が高くなる。
「バッグに入れておくだけで効果あるから。他の人に見つかると厄介だから仕舞っておきなさい」

「アミュレット化したのはマーニャさんですか?」
「ううん、私の妹分よ」
「そうですか、すごく綺麗な魔力ですね」
 手の上のアミュレットがまとった魔力は、まるでキラキラと光がこぼれていく様に見えた。

 確かに心無い者に見つかると奪われる可能性もあるだろう。マーニャさんに礼を言い、それぞれのバッグに仕舞いこんだ。

 マーニャさんが同席してくれた事で程よい緊張感がでたのか、それともさっきの忠告がきいたのか、ニールの食事マナーが大人しくなっていた。
 大人しくというか、ちょっと固いようにも見えるが、あの様子よりはこの方がずっと良い。美しい女性にあんな姿を見せるのはよろしくない。

「マーニャさんは本当にお食事の所作が丁寧ですよね」
 そう声をかけると、ニールの顔色が濁った。せっかく話がれてたのに……と言いたげな風を感じる。
 その様子を目にして、マーニャさんが悪戯いたずらっ気に微笑んだ。

「昔の縁でお仕事を受けると、貴族の家に招かれることもあってねぇ。冒険者でもSランクになると、そういう機会はしょっちゅうあるから、デニスもそれでマナーを身に付けたんじゃないかしら」
 デニスさんの名前が出たのは、さっきの話を聞かれていたからだろう。
「え? Sランクって? デニスさんまだAランクだよな?」
 ニールは話の別の部分に反応した。

「あの子は一度Sランクになっているのよ」
 マーニャさんはワインで喉をうるおしながら、話を続けた。
「過去にクエストの失敗でランクダウンを受けたのよ。それからえてランクアップしていないみたいね」
「ただクエストを失敗しただけではランクダウンにはなりません。おそらく、その失敗で死者がでています」
 自分がそう補足すると、ニールの顔が強張こわばるのがわかった。死者、という言葉に驚いたのだろう。

「……そのクエストの失敗はあの子の所為せいじゃぁなかったんだけどね。でも失敗は失敗だから」
 それで降格された……
「だからって、あんなに臆病おくびょうにならなくてもいいのにねぇ。あの子の実力も性格も、知っている人はちゃんと知っているし、ちゃんと評価もしているわ」
 そう言って、マーニャさんは最後のワインを飲みほした。ディッシュの上もすっかりと綺麗になっていた。

マーニャ

「そういえば…… マーニャさんとデニスさんはどういう関係なんですか?」
 さっきから、ずっとデニスさんの事を『あの子』と呼んでいるのが気になった。

 女性の年齢はわかりにくいが、自分が見た感じではマーニャさんとデニスさんの歳はあまり変わらないようにも見える。
「ただの知り合いよ。あの子が冒険者になる前からのね」
「じゃあ、長い付き合いなんですね」
「そうでもないわ、最近よ。確か10年くらい前かしら? あの子が13歳で……」
 おかしい。10年は最近とは言わない。そういえば……

「そうか…… マーニャさん、エルフでしたね……」
 エルフは魔力の一番強い時で成長が止まる、そして人間よりはるかに長命だ。
 人間とは時間の感覚が違う。さらに見た目で年齢の判断が出来ないのだ。

「ふふふ…… 女性に年齢を訊いちゃダメよ?」
 その言葉に苦笑いをしながら、自分の女性運の無さを静かに心で呪った。このわずかに残った淡い心の跡は、酒で流してしまおう。

 給仕を呼んで強い酒を頼むと、じゃあ私もとマーニャさんも声を上げた。ニールが目を丸くさせていたが、構わずに二人で乾杯をした。

 飲み比べでも、マーニャさんには全くかなわなかった。


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