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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#023]20 金獅子族の城

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

20 金獅子族の城

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。『変姿の魔法石』で大人の姿に化ける事ができる。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中

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 獣人族の暮らす拠点は、種族によって様々である。つつましやかな集落を作る一族、強固な建物を並べる一族。
 それが村や町であったり、城であったり。

 各地方の有力種族は特に大きな拠点を築いている。
 中でも金獅子きんじし族の強大な岩山の城は圧巻だ。一族の集落は全てその城の中に収められている。灰狼かいろう族の自然的な生活ぶりとは雲泥の差である。
 肉食系の獣人は基本的にプライドが高い。金獅子族のプライドを積み上げた物が、この城なのだろう。

 金獅子族の城にたどり着く前に、姿を大人に変えた。
 姿を変えるのには自分でイメージを作らなければいけない。『大人になった自分』のはずだけど、『前世の自分』のイメージが自分の中にあって、少しそれが混ざってしまったかも。

 この姿の時は『リリス』という名前を名乗る事にした。姉の名がイリスなのでそれにかけたのと、愛称の「リリ」で呼ばれても不自然さがなくて都合が良い。
 姉さんはちょっとそそっかしい一面があるので、私を呼ぶ時にボロが出るといけない。というか、きっと出る。あと、本当の名前が広まって、後で厄介な事になるのも避けたかった。

 城の門番に灰狼族前族長の紹介状を見せると、いぶかしげな顔をされた。
 こんな若造が族長なのか?と思われているに違いない。今まで立ち寄った他の種族の集落でも似たような感じだったし、まぁこの反応は予測できた事だ。

 大きな応接室に通されると、かなりの時間待たされた。
 本来ならここに挨拶に来たのは『ついで』なのだから、さっさと終わらせたい。でもこの待たせている時間もわざとなんだろう。

「やあ、ようこそいらして下さった。俺が金獅子族の長のベルトルドだ」
 ようやく金獅子族の長が入室して、建前の言葉でカイルと挨拶を交わした。ベルトルドさんは偉丈夫いじょうぶという言葉が似合うようなたくましい体つきの金髪の戦士で、しかもだいぶ自信家の様に見える。

 基本的に族長同士は、相手の力と余程の差がなければ頭を下げない。だが、ここではさらに、先方のお付きの者たちも頭を下げようとはしなかった。完全にカイルを見下しているのだ。
 やっぱりね、と思いながらも、私も姿勢を変えずにおいた。イリスがわずかに目を伏せる程に会釈をしたので、礼儀上はそれで充分だろう。

 人間に比べたら獣人の方がある意味わかりやすい。『強い』事が重要だからだ。
 人間のように、血筋や金銭や過去の偉業などに縛られる事は少ない。なので、ここでも『強さ』を見せてしまえば、この空気も変わる。

 族長同士の形式上の会話を幾つか交わした後、ほぼ予想通りの言葉がベルトルドさんの口から発せられた。
「ところで、カイル殿にうちの戦士と手合わせをしていただきたい。どうですかな?」

 カイルの力を信じてはおらず、試そうとしているのだ。まずは一族の二番手以下になる戦士と手合わせをしろと言う。それでもカイル相手には十分に足ると思っている。
 自分たちはあくまでも「普通に」挨拶に来たはずなんだけどなあ。白虎族、竜人族とどちらの集落でもほぼ同じ対応なので、もうすでに諦めた。

「カイル様、私が出ましょうか?」
 一応形通りにカイルに言って見せる。
「彼らが見たいのは私の力なんだろう?」
「お気をつけて」
「誰に言っているんだい?」
 カイルがニヤリとこちらに笑って見せた。半分は演技だが、だいぶ板についてきている。

 城の中に設えられた闘技場はなかなかに立派な作りをしていた。

 チョーカーに仕込まれた『着装の魔法石』で戦闘服に着替えたカイルが闘技場の中央に歩み寄る。
 白い戦闘服に銀の髪と尾が映える。普段は優しい目の兄が戦う時の真剣な目に変わると、少しだが年齢より大人びて見えた。

 対する金獅子族の戦士は金の髪。
 獅子人には珍しく、屈強な戦士というよりしなやかさを持つ騎士の雰囲気を持っている。この一族の内ではわからないが、人の町であれば彼のようなタイプはモテるだろう。
 向き合う銀と金の二人の髪に、天窓から差し込んだ光が絡まってこぼれる。その姿がなかなかに絵になるさまに思えた。

 模擬鉤爪を付け半獣化状態で戦う二人の動きは、普通の戦士たちよりも大分速い。それを見ている金獅子族の若い戦士たちから、感嘆の声が漏れ聞こえてくる。

 兄の真剣だった瞳にちょっと悪戯いたずらっぽさが戻ったのが見えた。相手の力量が測れて余裕が出てきたのだろう。相手の戦士もそれなりに強い。
 でも幼い頃から私と同じようなやり方で鍛えていたカイルは年齢の割には基礎力が高く、さらに獣人としての戦闘センスも高かった。

「なんだ、準備運動にもなりやしない」
 地に背中を付けた相手を見下ろして、カイルがわざとそういう言い方をする。
「僕はもうやる気が失せた。リリス、後は任せたよ」
 そう出番を振られた二番手役の私が、相手の族長と対決する事になる。

 私が一人で二人を倒すのではダメなのだ。
 それでは『やはりあの族長にそこまでの実力はないのだろう』と、口さがなく言われるだけだ。いずれにしても、一度カイルが表に立たなくてはいけない。

 ベルトルドさんはやはり鉤爪クローで。私が模擬剣を手にすると、少し周りがざわつくのを感じた。
 獣化して戦う獣人に手持ちの武器は合わない。剣を使う者は普通は居ないのだ。

 半獣化すらせず構えを取る私に、ベルトルドさんのまとう空気が変わって思えた。馬鹿にしているとでも思われたのだろうか。
 いや、単純に私がこちらの方が戦いやすいだけなんだけどね。

 余計な事を気にしていてもどうにもならないし、さっさと始めてしまう方がいい。先制を仕掛けて飛び込むと、鉤爪を使って受け止めた剣を簡単に振り払われた。
 その反動を利用して飛び上がり、二撃目に移行する。

 大人の姿に変わっていても、スピードは私の方がカイルよりさらに速い。スピードで攻めるうちに、少しずつ私が押して来た。

「リリス、そこまでだ!」
 拮抗きっこうが崩れそうになる寸前、カイルの制止が入った。本当に倒してしまうと後が面倒な事になりそうだからだ。

 ベルトルドさんの様子を横目で見ると、始める前とはうって変わってやけに嬉しそうな顔をしていた。
「いやあ、なかなかの腕前だな!」
 どうやら全力を出せた事に喜んでいるようだ。他の種族の長も揃って似たような反応をしていたが、ここの族長の反応は特に顕著けんちょな気がする。

 獣人たちは結構単純で、当然一族で一番強い者が族長を務めるものと思っている。まさか戦士の方が族長より強いとは思いもしていない。
 灰狼族の二番手の戦士ですら自分の族長と互角に戦えるらしい。ならば、あの族長の実力はいかほどだろうか?と、彼らには思わせる事ができただろう。本当は違うのだけど。

「ねえ、もし他の族長がうちの集落に来たら、うちもこの対応しないといけないのかなぁ?」
 一段落して、ふとカイルが小声でボヤいた。ああ、確かに面倒そうだねえ。
「カイル、がんばってね」
 冗談めかして言うと、カイルはぷぅとわざと膨れて見せた。それを見てイリスと私とでこっそりと笑った。

 * * *

 どうやら金獅子族にはえらく気に入られたようで、夕食に招待され、寝る部屋も用意してもらえる事になった。昨日は川で水を浴びて木のうろで寝たから、お風呂とベッドは有り難い。
 カイルは私がずっとこの姿で居ないといけないのを心配していたけれど、そこは大丈夫と伝えておいた。私は二人の食事のマナーと会話の方が心配なのよね……

 というのも、二人ともほとんど集落の外に出た経験がなく、イリスに至ってはほぼ皆無なのだ。必要そうなマナーについては旅の合間に一応教え込んではおいたけど。

 幸いにも夕食は立食だったので、テーブルマナーと言う程の気は使わなくて済むだろう。まずは一安心。
 さっそくカイルは金獅子族の長に声を掛けられて連れて行かれてしまった。カイルのコミュニケーション能力はそこそこに高いので、会話は大丈夫だろう。相手が不躾な態度を取ったりしなければ、だけどね。

 イリスは一人にはできない。部屋の出来るだけ目立たない場所に、あまり行儀が悪くならない料理を選んで持って行った。
 が、そうは言っても自分たちがゲストなので放っておいてもらえる道理はなかった。しかもメインゲストのカイルは族長のそばにいるものだから、必然的に他の方々の興味はこちらに向いた。

 イリスは妹の私から見ても愛嬌あいきょうのある可愛らしい女性だと思う。しかも灰狼族の巫女としてここに居るので、身分的にもそれなりだと思われている様だ。
 その所為せいか、特に若い男性方が次々と挨拶に来る。うーん、モテるよねえ。
 見ているとイリスは基本の挨拶から簡単な会話なら失礼はなくこなせている。イリスのついでに私に向けられた挨拶と会話に対応しつつ、気にしていたけれど、ひとまず大丈夫みたいだ。

 気付くと、さっきカイルと戦った戦士が近づいてきた。レオーネと名乗ったその獅子人とそれぞれ挨拶を交わす。

「先ほどのベルトルド様との手合わせは見事だった」
「ありがとうございます」
 えて、そう礼だけを言って、にっこりと微笑んでみせた。
「リリス殿は剣を使っているのですね」
「はい、鉤爪クローだけでなく色々な武器が扱えるように訓練しております」

 本当は剣術スキルの方が高いからなのだけど、前世では一応ひと通りの武器訓練はしていたので、まあ嘘ではない。
「素晴らしいですね。自分も他の武器も扱えるようになりたいのですが…… ここではなかなかそれも叶いません」
 獣人は基本的には鉤爪を使うのだから、それは仕方ないだろう。訓練の場もなければ教わる者もいないのだろうし。
 私が異端なだけなので、そんな風に特別な努力をしているような言い方をされるとなんだか居心地が悪い気分になる。

 ふと気づくと、レオーネさんは私に話をしながらも、ちらちらとイリスを気にしているようだ。
 ああ、そういう事か。彼もイリスが目的なのか。やっぱり男性って可愛らしい女の子が好きなのよねえ。
 なんだかなあと思いつつ、心の中で苦笑いをした。


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