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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#117]91 強さを求める日々

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

91 強さを求める日々

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。リリアンの前世を知っている。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。

・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールのお供兼「冒険者の先生」をしている

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 ベッドから起き上がり、大きく伸びをする。大きく息を吐いてから、山の爽やかな空気を目いっぱい胸に吸い込んだ。
 まだ日も昇らぬ時間は、朝というにはまだ早い。けれど起きたのだから、私にとっては今が朝で、そんな生活が当たり前になっている。

 動きやすい服に着替えて扉を開けると、丁度私の部屋の前にいたシアさんと出くわした。
「よぉ、おはようリリアン」
「おはようございますー」
「こっそり寝顔を見てやろうと思ったのに、今朝も間に合わなかったな」
 ニヤニヤと笑いながら、昔のような軽口を今日も叩いてみせる。相変わらずだなと思い笑って返すと、それを見たシアさんの細い目も一緒に緩んだ。

 世話になっている仙狐せんこの住処は山の中にあり、朝の鍛錬をする場所には困らない。
 いつもの様に二人で山道を大きく一回りした頃に、遅れてデニスさんが合流する。3人でさらに二回りして、柔軟から基礎トレーニング、素振りや軽い手合わせを終え、仙狐せんこの住処に戻る。

 山の中に据えられた木組みの家では、シャーメとタングスが朝ごはんを用意して待っている。
 朝食のメニューは大体決まっていて、山盛りのパンに、燻製くんせい肉かハムを添えたサラダとスクランブルエッグ。さらにウサギかヤマドリのローストが付く。
 でも今朝はいつもよりパンが少なめで、その代わりに肉の脇にパスタが添えてあった。

「ちょっと足りなかったね。今日はもっと沢山買ってくるね」
「うん、おねがいー 二人とも本当に良く食べるもんねぇ」
 私が言ったのは王都に行く時に買って来るパンの事で、シャーメが言ったのはシアさんとデニスさんの事だ。

 四日分以上のつもりで多めにパンを買い込んできているのに、毎回最後の朝には少し足りなくなってしまう。
 私たちのやり取りを聞いて、デニスさんは次のパンに伸ばしかけていたそっと手をひっこめた。それにはシャーメがすぐに気が付いた。
「デニス、そんな遠慮する事ないわよ。食べたければ食べればいいじゃない」
「そうだぞ。この後は爺様のシゴキだかんな。食っとかねーと持たないぞ」
 シアさんがバスケットごとパンを差し出すと、デニスさんはほっとした笑顔でパンを手に取った。

 今日は私が王都に帰る日。デニスさんとシアさんは古龍エンシェントドラゴンの爺様の所で特訓を受ける事になっている。二人と兄のカイルを転移魔法で古龍の爺様の屋敷へ送り届け、その足で王都へ跳んだ。

 まず王城へ行き、ケヴィン様への挨拶と報告を済ませる。当然ながら、今回の旅についてはケヴィン様も承知の上だ。
 訪れた町やダンジョンの報告をすると、ケヴィン様の目が少し輝きを増した様に思えた。
 すでに隠居した身ではあらせられるが、元は勇者と共に国中を巡った英雄のお一人だ。その頃を思い出すのだろう。
 私たちが旅をしている間、ケヴィン様も時間を見つけて色々と調べてくださっていて、頂いた新しい情報はその場で手持ちの地図に書き込んだ。

 その後は町での用事を済ませ、騎士団の訓練に参加する。今日もアランさんが訓練場に居たので、二人で手合わせをした。
 えて剣ではない武器を使っているのが珍しいのか、毎回やたらと見物客が集まってしまう。
 あまり目立ちたくはないのだけれど。アランさんに言わせると「仕方がない」らしい。他の騎士たちも剣以外の武器に興味があるのだろう。

 私たちが旅で不在の間、自宅に置いてあるメイドゴーレムのアニーはどうやら手持ち無沙汰のようだ。といっても、ゴーレムの彼女に感情はないはずなので、私がそんな風に思っているだけだけど。
 でもせっかくなので、王都に戻る日にはアニーに昼用のお弁当を作ってもらっている。今日も中庭のベンチで、アランさんとそのお弁当を食べながら諸事報告や午後の訓練についての打ち合わせをした。

 そう言えば、最近アランさんには意中の相手がいるらしい。特定の女性とよく一緒にいるところを見かけるのだと、小声の噂話が聞こえて来た。
 それなのに私と二人で居ても大丈夫なのかと訊いたら、アランさんは微妙な表情をして、変な事を言った。

「あーーー…… リリアンさん……いや、リリスさんが気にしていないのなら、私は大丈夫ですよ。周りからそう見えているだけでしょう。言わせておけばいいんです。それに、あの二人を敵に回すつもりは全くありません」

 全く意味が分からない。
 私が何を気にするのだろうと思ったが、気にしていないならいいのだと押し通されてしまった。あの二人とは誰かと聞くと、デニスさんとシアさんの事だそうだ。

 元々の予定とは若干違ってしまったけれど、あの時『樫の木亭』で怒ってみせたのはただの振りで、本当に怒っていたわけではない。私たちが言った事が事実とは違っているのもわかってる。
 すっかり冒険者見習いとしての現状に甘えてしまっているニールの根性を、叩き直す為のアランさんからの提案だった事で、当然シアさんは元から承知していたし、デニスさんにもあの後ちゃんと説明はしてある。
 だから、あの二人がアランさんに悪い感情を抱く理由は元より無いし、ましてやアランさんに恋人が出来る事を祝福するならともかく、それを悪く思うような二人でもない。

 そう言ったのだけれど、それも何かが違うらしい。
 アランさんは否定をしながら苦笑いをし、今日のニールの訓練に話題を変えた。そのままこの話は有耶無耶うやむやになってしまった。

 昼食の後はニールと合流し、訓練の時間にはいった。
 アランさんが何を言ったのかはわからないけれど、今のニールはとても訓練に積極的だ。
 厳しい課題を与えても、頑張って食らいついてこようとする。そして少し強めに叩いてみると、なかなかに良い音で響いた。
 良いと褒めれば褒めただけ伸びるし、指摘したところは次の時にはちゃんと直してくる。気付きさえすればちゃんと自分で踏み出せる、素直な性格なのだと改めて感じた。

 休憩を兼ねたお茶の時間には、ニールは私の話を聞きたがった。ボロが出ない程度に、巡ったダンジョンの話や余所よその町の話をすると、彼はいつものように目を輝かせて喜んだ。
 一方私の話に合わせて、彼が自身の冒険者話を口にすると、思い出したように寂しそうな目を見せた。

「後で、彼のフォローはしておきますから」
 それに気付いたアランさんが、私にこっそりと告げた。

 王都の自宅に戻って軽く汗を流す。
 アニーから不在の間の報告を受け、魔力を補充する。諸事を済ませると、昼に買い込んだパンや土産を抱えて古龍の住処に戻った。

 その頃にはもうデニスさんとカイルの特訓は終わっていて、大抵二人とも昼寝モードに入っている。
「いや、あれ昼寝じゃなくて、へばって動けねえだけだぞ」
 シアさんにそう言われて、試しに二人をつついてみると、どうやら返事が無い。回復魔法をかけると、死にそうな声で「おかえり」と言ってようやく片手を上げた。だいぶ絞られたみたいね。

 爺様は皆に頼られたりお節介せっかいを焼くのが好きな性格で、自分はもう年寄りだと言いながらも、デニスさんの特訓も喜んで引き受けてくれた。

 まだまだ暴れ足りない爺様に、私も軽く稽古をつけてもらう。
 龍の姿に戻った爺様にはまだまだ敵わないが、動きが良くなったと褒めてもらった。
 へばってたはずの二人が、こっちを見て何か小声で言ってたようだったけど、良く聞こえなかった。

 カイルを灰狼族かいろうぞくの集落に送り届けると、デニスさんとシアさんをともなって仙狐の住処に帰った。
「「お帰りなさいー」」
 仙狐二人が尻尾を振りながら迎えに出てくる。普段はこうして狐の姿で居る事もあって、デニスさんが最初は驚いていたけれど、今は慣れたようだ。

「すっかり世話になっちまって、すまねえな」
 シアさんがそう言うと、二人は私たちの周りをくるりと回って飛び跳ねて見せた。

「こうして皆と居るのは楽しいよ。ずっと二人だけだったしね。それに僕らは人間よりずーーっと長生きなんだからこの程度の時間はどうってことないよ」
「おねーちゃんも、おにーちゃんも、大好きだもん。ずっとここにいてほしーー」

 いつも二人は、私たちの為にボリュームたっぷりの夕飯を用意してくれている。
 今日のメインは鹿のモモ肉にスパイスを刷り込んで焼いた串焼き肉。さすが鹿の肉、串にさしてある肉のひと固まりずつがヤマドリやウサギに比べて格段に大きい。

「今日は特に上手に焼けたんだよ~~」
 シャーメが上機嫌に報告してきた。タングスと二人で火魔法を使って焼いたそうだ。
「そういや、こないだのウサギは黒焦げになってたしな」
 と、シアさんがわざと言うと、シャーメは頬をふくらせてシアさんの皿を取り上げた。
 慌ててシアさんが謝る姿に、皆で笑った。

 夕食が済んで皆で今日の話をしていると、「俺が片付けをするよ」とデニスさんが立ち上がった。
 昼の訓練であんなにバテていたんだし、いや私がと思い立ち上がろうとすると、シアさんに止められた。

「デニスにやってもらえばいいさ。あいつもただの居候でいるのは心地悪いんだろう」
「おねーちゃんも忙しくしてきて疲れているでしょ。もう少し座ってて」
 そう言って私の代わりにシャーメが台所に向かった。さすがに気になって視線で追うと、「大丈夫だよ」とタングスがそっと私に告げた。

 最初は仙狐たちがデニスさんと仲良くしてくれるか気になっていていたけど、今はもうそんな心配はいらないと、そう伝えようとしてくれている。
 こうしてここでも皆と楽しく過ごす事が出来て嬉しい。
 タングスに笑顔で応えた。

 でも、昼に見たニールの寂しそうな目を思い出した。

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(メモ)
 剣以外の武器(#63)
 あの時『樫の木亭』で(#85)


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