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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#113]88 目指す道/ニール

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

88 目指す道/ニール

◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…主人公リリアンの友人で、自称貴族の少年。まだ冒険者見習いの14歳。
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリーだが、周りには基本伏せている。神秘魔法で大人の姿などになれる。
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。20歳。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンの家に間借りしている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。デニスの兄貴分
・アニー…リリアンの家のメイドゴーレム

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 ナポレオンパイを持ってリリアンの家を訪ねると、メイドのアニーは何かを尋ねるような事もせず、俺を迎え入れてくれた。

 ここ数日、西の冒険者ギルドに行っても、リリアンとシアンさんはともかく、デニスさんにも会えなかった。
 それならと思い切って、ここに来てみたけれど……

 アニーは俺を居間に通し、お茶とお菓子を出してくれる。でもリリアンたちは居ないらしい。
ご主人様マスターがご不在の時でも、ご友人にはおもてなしをする様に言われております』

 ……友人……

 まだ俺の事を友達だと思ってくれているのだろうか?
 いや、アニーにもう友達じゃないって言い忘れているだけなのかもしれない。

 ――ニール。見損なったわ――

 あの時の、リリアンの言葉を思い出し、ため息が出た。

「今日はどこかに出掛けているの?」
『旅に出ると伺っております』
「えっ」

 勿論俺は聞いていない。
 そりゃ、あれから会ってないから…… かもだけれど……
 
 ここで待っていても3人には会えないんだ。
 手紙を書いて、リリアンたちに渡してもらいたいと、ナポレオンパイと一緒にアニーに託した。

 それから、リリアンの家には行っていない。

 * * *

 デニスさんはシアンさん、リリアンと一緒に旅に出たのだそうだ。ギルマスのマイルズさんを訪ねたら、ようやく教えてもらえた。
 どこに行くのかはマイルズさんも聞いていないそうだ。ただ、長い旅になるらしいと。そして、どうやらシアンさん絡みの特別な事情があるんじゃないかと、マイルズさんは言った。
 というのも、騎士が定期的にここに用聞きに来る事になっていて、3人に連絡が取りたければ速達便を融通してくれるらしい。3人からも何か連絡があれば、その騎士を通すと言われていると。

「シアンが何度か王城に呼ばれていたらしいから、その辺りだろうな」
 そういや、それは俺も聞いてたな。
 でも、Aランク冒険者のデニスさんはともかく、まだ1年目のリリアンも一緒に連れて行くなんて。

 ……俺の顔を見たくなくて、リリアンが二人に付いていったんじゃないかとか、そんな事を考えた。

 * * *

 大きな書棚が据えられた談話室サロンのソファーに腰をおろす。
 ここに呼ばれるのは、大抵「気楽ではない」話をする時だ。

「ニコラス様」
 アランが、俺をで呼んだ。
「貴方も御存じの通り、半年後に魔王討伐隊のメンバーが選ばれる闘技大会が開かれます」

 ああ。あの朝、大司教様から神託が告げられた時、俺も王家の一員として顔を隠してだが同席をしていた。
 早すぎる――と、周りがざわついたのを覚えている。
 確かに、魔王復活はおおよそ20年に一度だと、歴史学の教師からは教わっている。
 まだ前回の魔王討伐から15年だ。今まで多少早まった事があっても、5年も早いというのは異例らしい。

「ニコラス様は魔王討伐隊に入りたいですか?」
 続けて言われた言葉に、目を見張った。

 ……正直、冒険者としての活動が楽しくて、夢中になりかけていた。

 俺の母様は、前回の魔王討伐隊の一人だった。
 『英雄』のアシュリー様が亡くなって、本来ならアシュリー様の『サポーター』であるシアンさんが『英雄』を継ぐはずだったのに、英雄の腕輪を引き継いで『英雄』になったのは母様だった。
 この事に世間……特に冒険者たちは憤慨ふんがいし、魔王を倒して王都に戻った母様に心無い言葉を浴びせた。
 その所為せいで、母様は王都に居られなくなったんだ。

 でもシアンさんが母様は悪くないって、そう教えてくれた。 
 もし俺が次の討伐隊になって魔王を倒せば、名をあげた俺の話を皆は聞いてくれるようになるだろう。そうすれば母様に対する誤解を解く事が出来る。また王都で暮らせるようになるだろう。

 アランに無言でうなずいてみせる。でも……
「正直に言います。今のままの貴方では、冒険者の英雄になる事は出来ません」
 そう、だよな。
 冒険者の『英雄』になるには、AランクかSランクになって、闘技大会で優勝しないといけないんだ。俺はまだ見習いだし、ランクも強さも足りない。

「そして世間の評では、次の討伐隊の候補の一人として、デニスさんの名前が上がっています。普通の貴族や町民であれば、冒険者としてランクを上げ、闘技大会に出て勝ち上がるしか討伐隊の一員になる方法はありません。しかし貴方があと半年をどんなに努力しても、デニスさんには当然敵わないですし、二番手にもなれないでしょう」

 そこまで話して、アランは手を組みなおして俺の目を見た。

「でも、王族の『英雄』としてなら如何いかがですか??」

 ……王族…… 確かに俺は、現国王から見たら甥にあたる。しかも前回の『英雄』のクリストファーの息子で、『英雄』に選ばれる資格を持ってはいる。

「今の候補は現国王の第一王子ルーファス様、第二王子ウォレス様のお二人。しかし、ルーファス様は元より戦闘が得意ではなく、候補に名を挙げるつもりは無いそうです」

 ……アランが、何を言いたいのか、流石に俺でもわかった。

 魔王討伐隊は7人で構成される。
 神の国から来た『勇者』。そして、王族、教会、冒険者から、それぞれ『英雄』と『サポーター』が。
 冒険者の代表は闘技大会で選ばれるが、王族と教会の代表はその組織内で人選される。

 王族としてなら、ライバルは二人――いや、アランが言う通りなら、あのウォレスだけだ。しかも先代の『英雄』……の父上はすでに亡くなっているから、先々代の『英雄』である爺様に認めてもらえれば、俺が『英雄』になれる可能性も十分にあるのだろう。
 とは言え、爺様は依怙贔屓えこひいきをするような方じゃあない。でも俺がウォレスに勝つことができれば、きっと爺様も正式に認めてくれる。

「もちろん、皆様方を納得させるだけの実力も必要です。わかりますね」
「ああ」

 その日から、ひどいシゴキが始まった。

 アランの薦めで、俺に新しい剣術の先生がついた。
 騎士団の知り合いだそうだ。アランと同じく冒険者の経験があり、さらに色々な武器の知識もあって、実践向きな戦い方が学べると。
 アランに教わるのではダメなのかと聞くと、「とても私などが敵うような方では……」と、苦い顔で視線をらせた。

 アランがそんな風に言うくらいだ。余程イカついマッチョな騎士でも出て来るのかと思っていたが、顔を合わせてビックリした。予想とは正反対の、すらりとした美人で黒髪の女性騎士だった。
 女性の歳はよくわからないけど、多分アランより少し上くらいかな? 見た目じゃあわからないけど、アランの接し方でそうじゃないかと思った。

 リリス、という名前だそうだ。それを聞いた時に、ちょっとだけリリアンを思い出した。

 手本としてアランとリリス先生が手合わせをした時、軽く踊るように流れるように剣を振るその動きに、オーク狩りの時のシアンさんを思い出した。
 そしてアランの言う通り、先生はアランよりずっと強かった。

 シゴキは厳しいけれど、良くできればちゃんと褒めてくれる。そして訓練の終わりに優しく頭を撫でてくれた。頭に乗せられた温かい手に、デニスさんを思い出した。

 リリス先生の剣術は主に実戦で鍛えた術なので、それと別に基礎はちゃんと学んだ方がいいと教えられた。
 リリス先生の居ない日も、基本的には騎士団で訓練をする事になった。

 * * *

 『樫の木亭』には新しいバイトが入って、俺の手は必要なくなった。

 正直、まだリリアンたちの事は気になっている。
 でもアランが言う様にデニスさんが『英雄』になって、俺も『英雄』になれれば、また仲間になれるんだよな?
 デニスさんと仲間になれて話ができれば、そして誤解がとければ、リリアンやシアンさんともまた前みたいに仲良く出来るようになるよな?

 皆とまたクエストに行きたいな。
 それでさ、また『樫の木亭』で食べて、飲んでさ。
 焼き鳥はやっぱり美味しいよなって笑ってさ。

 俺、もっともっと頑張るよ。
 母様の為にも、俺の為にも、また皆と仲良く過ごせる日の為にも。

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(メモ)
 ナポレオンパイ(#41)
 速達便(#16)
 談話室(#41)
 神託(#83)
 歴史学の教師(#32)
 腕輪(#81)
 女性騎士(#63、83)

 「32 神話/」→「32 神話/ニール」


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