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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#148]113 神の人形

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

113 神の人形

※残酷な描写と思われる部分があります。ご注意下さい。

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転移の魔法などの神秘魔法を使う事が出来る。
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』
・サティ(サテライト)…獣人の神、ギヴリスの助手のゴーレムで、シルディス神に従っている。

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 転移魔法で聖堂奥のカーテンの陰に跳んだ。そこからそーっと出ようとする私の手を、デニスさんがぎゅっと掴んだ。

 着いてすぐに人が居ない事を確認し、さらに目眩ましの魔法をかけている。ここまでやればそうそう見つかる事もないだろう。
 それでも彼は私の心配をしてくれているのだ。

 今や彼にとっての私は、後輩冒険者の『リリアン』でもあり、さらに師匠であり親代わりの『アシュリー』でもある。
 その事は既に彼も理解しているし、私を『アシュリー』と呼んだ事もあった。すでにおりが必要な初心者冒険者ではない事は理解しているだろうに、未だにこんなに心配をさせている。

 いや…… 彼は昔から優しい子なのだ。

 デニスさんにしぃーっと指を口元に当てて合図をすると、黙ってうなずく。
 奥に向かう重いカーテンを開くと、その奥は小さな部屋になっていて、そこへ体を滑り込ませた。

 魔道具や分厚い本の様なものが詰め込まれた棚が並ぶ部屋の中央には、大きな透き通る台座が据えてある。
 そこにある『彼女』は、以前に見た時より、さらに大きく減っていた。

 「むぐっ」
 それを見たデニスさんは驚きで大声を出しそうになって、慌てて口に手を当てて塞いだ。

 かろうじて『首だけ』と言えぬ程度に体の一部が付いているだけだ。以前には付いていた片胸もすでに失われており、両の腕も無くなっていた。
 残されている顔面は、以前とは変わった様子ではないが、片目と顔の一部がえぐられており、とてもではないが気分よく見られる物ではない。
 これを見て驚かぬわけはないだろう。それほどに、むごい。

「リリアン…… なんだこれは? 教会はこの女性ひとに何をしているんだ?」
「……おそらく、の予想はしていますが…… 聞かない方が良いと思います」
 抑えた声で返事をすると、デニスさんが顔を歪めた。

「この女性は……どこかで見たことがあるな」
 デニスさんは少し首を傾げた。
「ああ、そうだ。以前お前と泊まらせてもらった、魔法使いの家か……あそこにあった絵の女性じゃないか?」

「覚えていたんですね」
 意外に思った。
 デニスさんとドワーフの国から帰る途中に、ギヴリスの庵に寄ったのは半年以上も前の事だ。そんな前の、たかがちらりと見た姿絵の事を未だに覚えているなんて。

「あ、いや…… まるで本物を写したような、変わった絵だと思ってたから」
 デニスさんは少し焦った様に言い訳をし、口元に手を当てた。

「と言うことは、あの家の主の恋人……なんだよな。何故こんな所に?」
「今の私にはわかりません。でも……」
 もう一度、『彼女』に視線を戻す。

「でも、前に見た時から随分と大きく減っている……」

「勇者の召喚の為に大きく削りましたから」
 あの時の様に、不意に声をかけられた。
 振り返ると、以前にもここで会ったサティさんが立っている。白衣姿で白髪ショートカットの、普通の人間の女性の姿をしていても、彼女は神に仕えるゴーレムなのだ。
 やはり、ずっとここにいたのだろう。

「勇者の召喚にも使っているのね」
「ニホンとの道を通す為に、シルディス様の魔力が要るのです」
「シルディス……どういう事だ?」
 サティさんが口にした名前に、デニスさんが反応した。

 おおよその人間族は、この王都の名前でもある大地と豊穣の神シルディスを信仰している。そして、その神と同じ名を持つ者は、他には居ない。

「この女性が……シルディス様だって言うのか?」
 質問を続けるデニスさんに対して、サティさんは明らかに不快そうに顔を歪めた。
「人間ごときが私に話し掛けるな」
 以前に、ケヴィン様に言ったよりも厳しい口調で言った。それだけ強い拒絶だという事だ。

「……彼には危害を加えないでください」
 デニスさんの前に立ちはだかる。
「奇妙な事を言いますね。貴方らしくもない」
 そう言うと彼女は、見通すような目で私を見直した。

「ああ、なるほど。今はその魂で抑えられているという事ですか」
「どういう意味?」
「それを聞く為の記憶を、まだ貴女は持っていません」
 その返答を聞いた途端、私の中で何かが騒いだ。

 ――まだ、いけない――
 ……情報が……制御されている。

「あ…… あなたはここで何をしているの?」
「主の命により、シルディス様に従っております」

「……それは……つまりは教会の人たち、という事よね」
「はい」

「貴女が、過去の討伐隊の記憶を消したのも、教会の命なのね」 
「はい」
 サティさんは、にんまりと不思議な笑みを湛えながら答えた。

 不意に、魔力の揺らぎを感じた。カーテンの向こう側に、誰かが転移してきたらしい。

「サティ、私たちの事は隠して」
「御意に」
 デニスさんの手を取り、慌てて窓際のカーテンの中に隠れた。

 時を置かずして、入り口のカーテンが勢いよく開けられ、誰かが入って来た足音が二人分聞こえた。
 狭いカーテンの中で、私の頬にくっついているデニスさんの胸からの心の音が、いつもより早く大きく鳴ってるように感じる。

「サティは居るか?」
「はい、ここに」
 知らない若い青年の声がする。それに応えるサティさんの言葉をも、聞き洩らさぬように耳を澄ませる。

「……随分減ったな?」
「あれから、長い時が経っておりますので」

「以前にも言ったが、この女神は既に死んでいる。これはもう私たちの抜け殻でしかない。こんなものを後生大事に抱えて居てもなんの解決にもならないだろう。それより、あいつに食わせて……」
 そこで青年の声は、何かを思い出したように、一度切れた。

「そうだ。、この国はどのくらい残っているんだ」

 マリーと…… 青年が、もう一人の同行者をマーニャさんの本当の名で呼んだ。

「それぞれの国境まで、馬車で五日か六日程でしょうか……」
 答えた声は、確かにマーニャさんだ。
 握ったままになっていた、デニスさんの手に力が入ったのがわかった。

「のんきな事だな…… こうしてずっと問題を後に送って来たのか」
「しかたありません。この事を知る者はもうわずかしか居ないのです」

「このタイミングで、なんで僕がまた召喚されたんだ? いや、僕が最後なのか?」

 独り言のような呟きの後で、青年はもう一度「サティ」と、神のゴーレムの名を呼んだ。
「後でまた来るから、僕の居なかった間の記録をまとめておいてくれ」
「わかりました」

 サティさんの返事に続いて、再びカーテンが開く音に重なる二人分の足音がだんだんと遠ざかっていき、静かな時間が訪れた。

「もうお帰りになられました」
 こっちに向けた言葉を聞いて、そっと隠れていた場所から抜け出した。

「……マーニャ、だったな」
「はい。でも男の方はマリーと呼んでいました。マーニャさんの名前を知っている、彼はいったい……」
「あの方は今代の『勇者』です」
 デニスさんとのやり取りに、サティさんが答えを出した。

「神の国から召喚された?」
「はい」
「貴女はの事も知っているの?」

「マリーは初代の神巫女の娘で、二代目の神巫女です」

 ――――――――

 神代かみよの時代。
 この国は一人の女神によって、平和と安泰あんたいが与えられていた。
 人々は女神を敬い、女神は人々を愛くしんだ。

 ある時、女神の元に国の外からある男が訪ねて来た。
 その男は言葉巧みに女神に近づき、そして事もあろうに神巫女に懸想けそうした。
 女神への信仰を持たぬ者など、ましてや神巫女になど、許される恋慕れんぼではない。
 女神と神官たちは怒り、男を追い出そうとした。

 しかし神巫女を諦められない男は、神巫女を手にかけ、その遺骸を抱えて国外へと逃げた。

 ――――――――

「初代の神巫女って、神話にある、男が懸想したという神巫女、か……?」

 デニスさんの問いにサティさんは答えず、やはり不快そうに眉をひそめた。
「サティさん。神話にある『男に奪われた神巫女』が、初代の神巫女なんですか?」
「その通りであり、その通りではありません」
 彼女は、私の問いにはきちんと答える。

「どういう事だ?」
 サティさんに話しても無視される事をわかってか、デニスさんは私に向かって話し掛けた。
「神話にある神巫女が、初代の神巫女ですか?」
「はい」
「……でも死んだのは神巫女ではないんですね」
「はい」

「薄々、おかしいとは思っていたんです。神話が間違っているんでしょう」
「え!?」
「神話にある『男』とシルディス神は、元より恋人同士だったんです。だから『男』が懸想したとされる相手は神巫女ではない」

「御意に」
 それを聞いたサティさんは、にやりと笑った。

「神が害された事を隠したかったんでしょう。神の信仰をいしずえにしてこの国は建っていたのです。神が居なくなったとなると、人々をまとめ上げることが出来なくなる。だから『神巫女』と『女神』を入れ替えた」
 そして初代の神巫女は女神に成り代わった。おそらく神巫女はエルフだったのだろう。だから、シルディス神の姿はエルフに酷似しているのだ。

「そしてシルディスに最初に手をかけたのは『男』ではないんです。彼は『もう助からない』彼女を苦しみから救う為に殺したのだと。ならば、その『苦しみ』を与えた者が他にいるはずです」
 そう言って、サティさんを見る。

「それはこの国の者…… 教会の者ですか?」
「御意に」

 ――――――――

 神官たちは慌てて後を追った。
 彼らは男を追い詰め、神巫女を取り戻した。が、遅かった……
 神巫女は…… すでにその身の一部を男に食われていたと言う。

 ――――――――

「……その先の話も間違っているのか? 『男』が、神巫女の遺骸を食らったというのは……」
「それも半分正解なのでしょう…… 食らった遺骸は神巫女の物ではない……」
 台座の上の『彼女』に視線を向ける。
「その通りです」
 サティさんが淡々と応えた。

「そして、神官たちはその事を知った。、神秘魔法が使えるようになった……」
「……神秘魔法……? 以前に言っていた、鑑定の魔法とか、か?」
「はい、あと転移魔法などですね。他にもありますが……」
「教会の魔法使いしか使えないって言っていたヤツだよな…… え!?」

 思い付いたように、デニスさんも『彼女』の方を見る。

「って事は教会のヤツらって……」
「上層の者のみ口にする事ができる、『神酒』が教会にはあるそうです。酒精に混ぜて振る舞われているのでしょう」

 酒…… ああ、そうか……
 自分で言った言葉で気が付いた。

「そうか。そういえば、マーニャさんはお酒には強かったですよね」

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(メモ)
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。本人曰く、初代の勇者と同一人物らしい。
・マーニャ(マーガレット/マリー)…2代前の『英雄』で、且つ今回の討伐隊の教会の『英雄』。マーニャの名で冒険者をしていた。

 小さな部屋(#64)
 魔法使いの家、姿絵(#46)
 マリー(#105)
 討伐隊の記憶(#77、#108)
 神話(#32)
 神秘魔法(#29)
 (Ep.5)
 (Ep.16)


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