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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#086]68 北の地

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

68 北の地

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。完全獣化で黒狼の姿に、神秘魔法で大黒狼の姿などになれる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。リリアンの家に借り宿中。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

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 昨日、デニスさんが旅の事に口を挟んできたのは、宿の心配をしたからだろう。
 私の身の安全を気にしているのなら、シアさんと同室に泊まる事を勧めるはずだ。でもそうしなかったのは、それだと私が獣化したままで夜を明かすだろうと思ったのだろう。以前一緒に旅をした時には、私がちゃんと体を休められるかと、そればかり気にしていた。
 だから、こうして家に帰って自分の部屋でちゃんと休む事にすれば、その心配もいらないし安心だよね。

 と、夕飯を頂きながら、そんな感じの話をしたんだけれど、見るとシアさんはやたらとむせこんでいて、デニスさんは頭を抱えていた。

 ……あれ??

「なんか違いました?」
「……いや、大丈夫だ。まあ、間違いではないし」
 そこまで言って、デニスさんははぁーと大きく息を吐いた。
「でも、そうか。やっぱりシアンさんを乗せていったんだな……」
「はい。それがどうかしました?」

 デニスさんに尋ねると、微妙な顔をして口籠くちごもった。その代わりに、はす向かいに座ったシアンさんが、まだ半笑いしながら言った。
「だってよ、リリアン。お前、乗せるのは特別だって、デニスに言ったんだろう? だからそれを気にしてたんだと、俺は思うぞ」

「はい、そうですよ。お二人の事は信頼していますから、特別です。そうそう、転移魔法の事も…… 内緒にしておいてくださいね」
 そうお願いすると、シアンさんが思い出した様に声を上げた。

「ああ、それだ。さっき聞いたが、明日の行きは転移魔法でさっきの場所に戻るんだろう? でも帰りはどうするんだ? 転移魔法は1日に1回しか使えないはずだろう?」

 いつの代でも、魔王討伐隊のメンバーには必ず教会の魔法使いが二人同行する。彼らが使える転移魔法は1日に一度のみ。二人居る事で、その日のうちでも出発地と目的地の間を往復する事が可能なのだ。
 魔王を倒す為に神器を集める為にと、何日もかけて国中を巡る旅に、転移魔法の存在は非常に助かるものだった。
 特に定期的に王都に戻る際には当たり前にその手段を使っていた。王都での用事が終われば、また元居た町に戻って旅を続ける。
 今回やろうとしているのも同じ事だ。今日辿り着いたあの町の座標はすでに記録してある。明日の朝にあの町に戻れば旅を再開できる。

「……それに、転移魔法は教会の魔法使いしか使えないんじゃないのか?」

 シアさんは、元・魔王討伐隊の一人だったから、座標記録も転移魔法も見ているし、知っている。だからそういう疑問を抱くのも当然だ。

「確かにそうです。でも条件が違うんです。転移魔法を使うには『教会に所属している』事が条件ではないんです」
「……神の加護とか?」
 何やら考え込みながら、デニスさんが言った。
「以前、ラーシュがお前の事を神子みこだとか言ってたよな」

 デニスさんに『獣使い』を付与した時の事だろう。本当は神子ではないのだけれど、そういう事にしておいた方が都合は良い。
「そんな感じです。でもこれ以上は詳しくは言えないです。そのうちちゃんとお話します」

 まだ情報が足りない。それに二人を信頼をしていても、どこまで巻き込むかの覚悟までは出来ていない。もう遅いのかもしれないけれど……
「あと、帰りも大丈夫ですから、安心して下さい」

 今日はずっと移動だったし、明日の朝も早い。しっかり食べて早めに休みましょうと、二人を促した。

 * * *

 二日目は昨日の町にまた戻った。そこから真っすぐに国境を目指して、大黒狼の姿でシアさんを乗せて駆ける。
 道中、食事や休憩を兼ねて町に立ち寄り、昨日と同じく座標記録をした。今後の為にも記録は増やしておかないと。

 シアさんによると、目的の場所はちょっと面倒な所にあるらしい。まず北の国境近くに向かい、そこから大きな山を迂回するように西に向かう。王都から直線で向かってもその大きな山を越えるのに余計に時間をくうので、この方がまだ効率が良いそうなのだ。

「馬車だったら八日…… いや、途中に馬車が使えねえ道もあるから、もっとかかるかもしれねえな。大変だろうけど、こうしてお前に連れて行ってもらえてすごい助かるよ。ありがとうな」

 都合よく使われるのは嫌だけれども、褒めてもらえるのはそりゃあ嬉しい。しかもそう言いながら、頭を撫でてくれるものだから、ずっと気分は良かったし、すごく調子も良かった。

 * * *

 それが崩れたのは三日目の事だった。

 同じように、朝から前日の続きを走り、昼前には国境の町に着いた。お昼には少し早かったけれど、ここで昼食をとる事にした。

 ここまでの道のりはスムーズだったし、その所為せいかだいぶ気持ちの余裕もあった。
 昼食の後に、どの町でもする様に冒険者ギルドに立ち寄ったところ、ある村への届け物を頼まれた。
 話によると、その村は私たちの行く道から少しそれた所にあるそうだ。でも馬車で行けるような場所ではない。なので、届けてくれる人が居ないかと探していたのだと。
 そのくらいの手間なら割いても大丈夫だろうと、二つ返事で引き受けた。

 国境の町から今度は西に向かう街道に沿って辿る。人通りもほとんど無いような道なので、大黒狼の姿を隠す事は諦めた。
 この荒れた北の地では、旅をするような者も殆どいないのだろう。それにこの荒れた道では馬車も走れない。私の狼の足だから、軽快に走れているようなものだ。

 街道をしばらく進むと、ギルドで教えられたとおりに分かれ道があり、案内板が立っていた。街道から分岐して山の方に向かって登っていく道をさらにさらに進んだ。

 その先、山のふもとに広がる鬱蒼うっそうとした黒い森に心がひどく騒いだ。

 だめだ、だめだ。
 あの場所に行ってはいけない。
 あの事を……

「ううっ……!!」

 突然、割れる様な頭の痛みと目眩を感じ、よろけてそのまま転げた。

「リリアン! 大丈夫か!?」
 一緒に転げたシアさんが急いで立ち上がって、大黒狼の姿の私に駆け寄った。

「……すいません、急に頭痛が……うっ……」
 あまりの頭痛と胸のムカつきでえずくと、酸っぱい匂いのする胃の内容物が吐き出された。

「どうした、気分が悪いのか? 無理すんな」
「ごめんなさい、シアさん…… 少し休ませてください。届け物はお一人でお願いしてもいいでしょうか?」
「それはいいが…… でも、お前を置いては……」
「お預かりした荷物をそのままには…… ううっ……」
 言い掛けたところで、また戻してしまった。

「……わかった…… 届けたらすぐに戻ってくるからな」
 そう言うとシアさんは、私に回復魔法を掛けると荷物を持って駆けて行った。
 回復魔法では頭痛や不快感は除けないが、失った体力は少しは戻せる。そのお陰で重かった体が少しだけ軽くなった。

 でも、しばらくしても体調は一向に良くはならなかった。
 理由はわからないけれど…… おそらく、この先にある何かのせいだろう。

 だめだ、ここから少しでも離れよう……
 痛む頭を抱えて、ふらふらと一人で来た道を戻った。

 酷い頭の痛みで、目が回る…… まるで見るものすべてが歪んでいる様だ。
 しばらく歩いているうちに、また喉の奥から何かが上がってきて吐き出した。

 吐いた物で胸元の毛が汚れてしまった…… ああ、汚い……
 しかもさっき転げたから、背中も泥だらけだろう。
 この先もシアさんを乗せるのに…… こんな汚い姿では彼を掴まらせるなんてできない……

 意識が朦朧としたままでどうにか歩を進めていると、耳にかすかに水音が聞こえた。

 ああ、汚れた体を洗わないと……
 道をれて、水音の方に向かった。


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