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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#085]67 黒狼の背/シアン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

67 黒狼の背/シアン

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者デビューしてまだ半年足らずの15歳。完全獣化で黒狼の姿に、神秘魔法で大黒狼の姿などになれる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。35歳のはずだが、見た目が若く26歳程度にしか見えない。リリアンの家に借り宿中。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。23歳。リリアンに好意を抱いている。

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 流石にそんなに冷たくしたら、デニスが可哀想だろう。
 そう思いはしたが、その原因は俺にもあるのだから何も口を挟めなかった。

 目の前で繰り広げられる異様なバトル。えーーと…… なんでこうなったんだ??

 リリアンと約束した通りに、サムの隠れ家があった場所に彼女と一緒に行く事になった。で、その話をしていた訳だが、隣で聞いていたデニスに反対された。
 惚れた女が男と二人だけで旅をすると言うんだ。そりゃ反対するよなぁ。

 でもリリアンの方は、デニスが反対する理由がいまいちわからないらしい。

「シアさんと一緒なら、身の周りの心配はいらないですよね?」

 きっとデニスがしてるのはそういう心配じゃねえ…… でもデニスはそれを言えなくて、言葉に詰まった。
 まあ、俺が彼女に手を出したりする訳はねえし、それはデニスもわかってるだろう。
 さっさと告って彼女にしちまえばいいのに。それも出来ねえもんだから、彼女の気持ちの行き先が気になってるんだろうな。とはいえ、こんなに可愛い少女が、俺みたいなおっさんを気にする訳はないと思うのにな。

 それならばと、デニスが一緒に行くと主張して、今度は彼女が反対した。
「嫌です。そんなのんびり行くつもりはないですから」
 って、どういう事だ??
「やっぱり。そうか……」
 それを聞いたデニスがさらに苦い顔になった。
「じゃあ、俺とリリアンで行こう」
「なんでですか? 場所を知っているのはシアさんですし。むしろ今回の旅はデニスさんには関係ないですし」

 これはリリアンが正しい。
 でもなんで3人で行くのはダメなんだろうな? 俺は当事者のはずなのに、何故だか蚊帳かやの外に置かれているようで、彼女が3人で行くのに反対する理由も全くわからない。

「よくわからんが、彼女が嫌がってるんなら仕方ねえだろう? せめて宿の部屋はちゃんと別にするから安心しろや」
 デニスに向かってそう言うと、それを聞いたリリアンが、ああと何かに気が付いた様な顔をした。

 その後で彼女が言った事は、さらに訳が分からなかった。
「そういう事ですか、わかりました。じゃあ、宿には泊まらずに夜にはここに帰ってきます。それならデニスさんも心配はないですよね。では明日の支度してきますねー」
 リリアンは反論も許さない様な口調で一方的にそう言いきった。そして、さっさと自室に引っ込んでしまったから、俺らは何も言えなかった。

「えっと…… デニス、今のどういう意味だ??」
「わからねえ……」

 俺よりもずっと付き合いの長いはずのデニスがわからないのなら、俺には尚の事わかるわけはない。
 明日の朝に出立する事は決まってるんだ。そん時にゃ、何かわかるだろう。

 * * *

 翌朝、デニスが途中まで同行して見送りをすると言うのを、リリアンは突っぱねた。
「夜には帰ると言ったじゃないですか。だから日帰りです。いつもの日にクエスト行くのとほとんど変わりませんよーー。そんなに気になるのなら、今日の夕飯はうちで一緒に食べましょう」

 そう言ってさっさと門を出て歩いて行ってしまった。
「じゃ、行ってくるな、デニス」
 そう言って彼女の後を追う。気になってちょっと振り向いて見ると、軽くあしらわれて戸惑っているデニスを門番が憐れむような目で見ていた。

 小走りで追いついて、リリアンの横に並んだ。
「馬車には乗らないんだな。歩いていくのか?」
「私、馬車に乗ると酔うんですよーー」
 からからと笑いながら言う。そういや、先日それで体調を崩したって言ってたよな。でものんびり行くつもりはないって言ってたはずだが……

 そう思っていると、彼女は街道をそれて林の方に向かって行った。
「こっちに付いて来てください」
 誘われて行くと、幾らか木立ちの中に入った所で立ち止まった。

「しばらく後ろを向いてこっちを見ないでください。その間に荷物をしっかりと背に負って固定しておいてください」
 理由はわからんが、リリアンに言われた通りに荷物を背負う。
 声をかけられて振り向くと、目の前に居たのは大きな黒狼だった。

「……すげえな」
「あまり驚かないんですね」
 大黒狼が可愛らしいリリアンの声で言った。
「驚かなかった訳じゃねえけど。まあ、色んな経験しているからな」
「デニスさんには、最初警戒されました」
 狼の表情はわからねえが、そう言う声がちょっと可笑しそうだ。
「デニスも知ってるのか」
「以前に、これで一緒に出掛けてますから」
 そう言いながら、黒狼は体を伏せた。

「乗ったら、背を低くしてしっかりと掴まって下さい」
「いいのか?」
「まあ、特別です。本来なら獣人が背に乗せるのはマスターくらいですが」

 黒狼に跨り、言われたように首にしがみ付くと狼の耳がぴくりと震えた。うん、可愛いな。
 狼の背の上は、見た目の印象よりも柔らかい毛並みでなんだか心地よく感じた。

 俺を乗せた黒狼は、街道に沿った林の中を縫うように走り抜ける。最初は様子を見る様に緩やかなスピードだったが、大丈夫と判断したのか速度は徐々に上がって行った。
 なる程、これなら確かに馬車より速い。しかもこの背に大人二人は乗せられないだろう。ようやく昨日の問答の意味がわかった。
 しかしそれとは別に、さっきリリアンの言った事が気になっている。

「……なあ、リリアン」
 走る狼の背から声を掛けた。
「なんでしょう?」
「さっきマスターしか乗せないって言ったよな?」
「はい」
「俺はマスターじゃないのに、いいのか?」

 ほんの少しだけ、間を感じた。
「……一般的な獣人は、という話です。正直言うと私はそこまでこだわってはいません。でも信頼できる方でなければ、やはり嫌ですけれど。あと便利に使われるのは勘弁してもらいたいです」
「デニスにも特別って言わなかったか?」
「はい。この事をやたらと口外されても困りますし」

 ああ、そういう事か……
 好きな女に特別って言われて、でもそれが自分だけじゃないのが嫌だったのか。

 彼女に振り向いてもらえねえどころか、自分だけと思っていた場所に他の男が居る。
 自分の昔の苦い経験を思い出した。好きな女にちゃんと気持ちを伝えられなかった俺が悪かったんだ。俺もデニスの事は言えねえな。

 こんな大きな体なのに、走りは緩やかだ。きっと背に乗った俺の事を気遣って走ってくれているんだろう。
「邪魔な枝が張り出しているので、しっかり体を伏せて下さい」
 言われて黒狼の首に掴まり直すと、覚えのある匂いがした。ああ、あの日の朝のリリアンの髪と同じ匂いだ。
 でもそれだけじゃない。どこからか感じるもう一つの匂いに、何故か胸のざわつきと安心を感じている自分がいた。

 * * *

 ……やっぱり、よくわかんねぇ。

 リリアンの言う通り、馬車よりも断然早かった。道中、2度町に立ち寄って食事や休憩を取ったがその程度で。リリアンはずっと走り続けて、心配になるくらいに頑張っていた。
 そして俺らが今日最後の町に着くと、リリアンは人目を避ける様に建物の裏手に回り、何かの魔法を唱えた。
「じゃ、今日はここまでで帰りましょう」
 そう言って俺の腕を取って、また違う呪文を唱えた。

 そして気付くと、今朝出たはずのリリアンの家の玄関に俺らは立っていて、横でメイドゴーレムのアニーが深々とお辞儀をしていた。

「アニー、すぐにお風呂入れてくれる?」
 呆気あっけにとられている俺を放って、アニーに指示を出す。そのままリリアンが軽い足取りで居間に入ると、慌てて出迎えようとしていたデニスと鉢合わせた。

「ただいま帰りましたー」
「ああ、リリアンお帰り。シアンさんも」
 俺はオマケかよ、オイ。

「いっぱい走ったんで、夕飯の前にお風呂はいってきま――」
「なあ、リリアン。今のは何の魔法だ?」
 リリアンの言葉を、質問で遮った。

 彼女は、ほんの少しだけ首を傾げると、
「転移魔法ですよ?」
 そう、あっさりと言った。
「シアンさんは知ってますよね?」

 ああ、良く知っている。今のが転移の魔法だとすると、その前に唱えていたのはやっぱり座標記録の魔法だったんだな。

「ようやくわかった。明日の朝はあの町から出発しようって魂胆こんたんだな」
「はい」
「でも、転移魔法は1日に一度しか使えないはずだろう? 明日の夜はどこかで宿をとるのか?」
「いいえ、そこは大丈夫です。またここに帰って来ますよ」
「……どうやって?」
「お風呂、さっさと入ってきちゃいますね。続きの話は食事しながらにしましょう」
 そう言って、リリアンはすたすたと風呂場に行ってしまった。

「……なあ、おっさん。どういう事だ??」
 また昨晩と同じように、戸惑っている俺とデニスの二人だけがそこに取り残されていた。

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(メモ)
 大黒狼(#30)
 転移魔法(Ep.3)


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