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夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

わたしはいまいろんなひとに恋をしている。そのことは、だれにも話していない。訊かれなければ話さずに済むくらいの、程度の軽い恋だ。相手はわたしのことを知らない。そのほうがいい。どうせ選ばれないなら、知られないほうがいい。知られるなら、絶対選ばれたくなるもの。

オンライン飲み会をして、誰かいい人おらんの、と訊ねられ、おらんよー彼氏欲しい、と口にしながら、本当に?ともうひとりの自分が訊く。半分は本当だし、半分はうそだ。そりゃあ自分用の男の人は欲しいけど、おたがいがいちばんじゃないといやだ。わたしがどんなに好きだろうと、ワンオブゼムになるのは耐えられない。

しかしひょっとすると、わたしのこの考え方がさもしいのかな、と思う。つねに最悪の事態を想定している。わたしが好きになる上等の男はわたしをいちばんに好きにはならんだろうし、よしんば男女の仲になれたとしても、大勢おるうちの一人にしかなれんだろうという。

やめよう。もっといい想像をしよう。心から好きな人と出会って、その人にわたしも愛されるという想像。恋愛や結婚は相手があることだから、なにもかも想像どおりにいかんことも承知している。でも、自分なんかと思っている人間が、魅力的にみえないのは確かだと思う。たとえば自分が素敵だと思って買ったバッグや時計を、「なんでそんなもの選んだの?センス悪いわ」と腐されたら、好きで選んだはずなのにちょっと嫌になるだろう。人によっては、すごく嫌になってけっきょく捨ててしまったりするかもしれない。

卑下も誇張もせず、自分の良いところは良いところとして、ちゃんと把握しておくべきだと思う。たいした根拠もなく自分の価値は低いと思いこんでしまう、わたしみたいな人間は特に。

5月もせっかく時間があるので、自分の良いところと良くないところを紙に書き出して、良いところは残して、良くないところはどうやったら直るのか考えよう。決めたぜ。

タイトルに使ったのは、鈴木しづ子という俳人の俳句。河出文庫に同名の本があり、完全にタイトル買いした。娼婦俳人と呼ばれた鈴木しづ子の俳句と、しづ子の生涯を追い続けたノンフィクション作家川村蘭太が記した克明なルポが収録されている。ゆっくり読み了えたいと思う一冊。ご興味あれば是非。

『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など (河出文庫) 』https://www.amazon.co.jp/dp/430941690X/ref=cm_sw_r_cp_api_i_BmQREb4D6RVMY

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