変態がもつ「内発的モチベーション」こそがイノベーションの源泉である
私は「変態こそイノベーションの担い手である」という信念をもち、「変態」を以下の様に定義しております。
この「変態」の行動の源泉にあるエネルギーこそが「内発的モチベーション」であると言えます。内発的なモチベーションとは、結果・成果などの外部からの動機づけ(報酬や地位、あるいは脅威など、外因性のもの)ではなく、純粋な興味関心や義憤、個人の価値観や責任感など、内から湧き上がってくるエネルギーをのことだからです。
このエネルギーを扱う能力は、感情知能(EQ、Emotional Intelligence)という、自分や他人の感情を認識し思考や行動と調和することで、仕事や生活に役立てる能力を構成するいくつかの要素の一つでもあります。EQは、心の知能指数とも呼ばれますが、IQ(知能指数)よりも、人生や仕事における豊かさを手に入れられるかどうかに深く関わっており、変化やストレスにもうまく対応できる様になるとされています。との深い結びつきが示唆されます。
私は新規事業開発やイノベーションの実践者、あるいは支援者として多くの経験を積む中で、このEQの発揮が成功に大きく関わることをに着目し、研究と実践を進めています。(参考記事:イノベーションと感情知能(EQ))
これまでの記事でも、今回取り上げる以外の構成要素である、「感情リテラシー」と「自己パターンの認識」「結果を見すえた思考」「感情のナビゲート」について、それぞれのイノベーションとの関係を考察してきました。
今回はこれらの観点を踏まえ、イノベーションにおける、変態がもつ「内発的モチベーション」の重要性を解説していきたいと思います。
1. 変態としてのイノベーション人材
私が定義する「変態」とは、次のような特徴を持つ人材です。
結果・成果だけではない何かに動かされている
『リターンや外部の評価に依存せず、内なる興味・使命感・大義に基づいて行動する感性と実行力』物事を自分事と捉えできることから行動する
困難な状況でも、できない理由を述べるのではなく、「どうしたら前に進めるか」を主体的に考え、実行する力。困難な道程の中で自ら行動変容する事に浸れる
必要なリソースを自ら集める行動力と、その過程で起こる自らの変化成長のプロセスに快感を覚える独特の感性。
これらの特性の基盤をなしているものが「内発的モチベーション」であり、同時に「新規事業を成長の機会と捉える人材が成果を上げる」という、立教大の中原先生や田中先生らの研究とも一致しています。
2. 変態と内発的モチベーションの共通点
「変態」と呼ばれる人材がイノベーションを担う理由は、次のように内発的モチベーションと深く関連しています。
興味・使命感・大義
内発的な動機は、個人の価値観や使命感に根ざしており、「変態」が抱く独特の情熱はその象徴です。変態は、生活を維持するためではなく、自らの存在意義を追求しながら「より精神的に豊かであるために」事業に取り組むのです。課題解決への快感
変態は、課題を解決するための新たな価値を創造するプロセスそのものに喜びを感じるため、困難に直面してもその状況すらも楽しむことができます。一つ一つのハードルを超えるたびに自らの成長や変化を内省的に感じ取るからです。これは、自己成長を重視する姿勢と一致します。
内発的モチベーションとは、感情知能(EQ、Emotional Intelligence)という、自分や他人の感情を認識し思考や行動と調和することで、仕事や生活に役立てる能力を構成するいくつかの要素の一つでもあります。
3. 変態としての成長志向と成果
新規事業を「成長の機会」と捉える視点は、変態の行動原理そのものです。彼らは以下のようにして成果を生み出します。
学び続ける姿勢
短期的な結果成果に固執しすぎず、まずは失敗を恐れず、失敗を通じて得た教訓を次の挑戦に活かすそうとする学習マインドを持っている。これにより、現状を起点に行動を制限するのではなく、未来の可能性を起点に自由に行動できるようになるため、翻って長期的な成果には結びつきやすくなるのです。主体性とリソースの創出
必要な人やモノを自ら集める行動力により、外部環境に依存せずに事業を進める。「やらされる」のではなく、たとえ頼まれ事や指揮命令であったとしても、「自分なりの意味を見出す能力」が変態には備わっていると言えるでしょう。プロセスの楽しみ
結果よりもプロセスに快感を覚えるため、長期的に継続可能な努力を惜しみません。登山を例に例えると、イノベーションにおいては「山頂で良い景色が見られる」という成果や約束されて言いません。霧で視界がゼロである程度であればまだマシな方で、暴風が吹き荒れていて引き返さざるを得ない場合もあるわけです。だからこそ、「この山に挑んでいる自分はそれだけで価値がある」「体力づくりと思えば次に活かせる」といったマインドでプロセスそのものに価値を見出し、楽しむ姿勢が問われるのです。
これらの特徴は「エフェクチュエーション」として注目されている「熟達した起業家に対する意思決定実験から発見された、高い不確実性に対して、予測ではなくコントロールによって対処する思考様式」とも合致しています。特にエフェクチュアルであることが個人や組織の成長速度にも影響与えていることは重要です。
4. 組織が変態を活かす方法
変態的な人材を活かすには、組織も以下のような環境を整える必要があります。
心理的安全性の確保
自由に挑戦し、失敗を学びとして捉えられる環境を提供。この記事を読んでいる多くの方には説明不要と思いますが、心理的安全性がある程度確保されていないと、多くの人々が自らの変態性を発露させるどころかひた隠しにしてしまうのです。成長を評価する文化
短期的な成果よりも、挑戦のプロセスや成長を重視する評価基準やカルチャーの醸成。今は気づいていない、隠しているだけであって、すべての人に変態性は備わっており、それを隠したままでいるのではなく、活かし合う文化と制度が求められます。多様性の受容
変態の個性的な視点やアプローチを尊重し、組織の中でその価値を最大化する仕組みを構築。趣味趣向の異なる変態同士でも、まだ自らがどんな変態なのかを見いだせていない人であって、お互いにリスペクトしあえる状態がイノベーションを生み出せる組織であると言えるでしょう。
変態性を発露している多くの人材は、多くの場合に組織内では「マイノリティ」として扱われてしまうのが実情です。そのため、ハレーションを起こしてどこかへと旅立ってしまうケースがある一方、組織に迎合した場合には「能ある鷹が爪を隠した状態」になり、いずれにしろその能力は組織の能力としては還元されません。
変態のポテンシャルを意図的に活用できるかどうかが、イノベーションマネジメントにおける分岐点なのです。
まとめ
私の定義する「変態」は、内発的モチベーションに基づく行動力と成長志向を持ち、それ自体がイノベーションを生み出す源泉です。研究が示す「成長を重視する人材が成果を上げる」という視点と完全に一致し、変態こそがイノベーション人材であると言えるでしょう。組織としては、このような変態的特性を持つ人材を育て、活かす仕組みを整えることで、持続可能なイノベーションを実現することが可能になるのです。
Be変態。
最後までお読み頂きありがとうございました。