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遠い記憶 二十三話

無事、飛行機は、名古屋へ。
着陸するのも、怖かったが、飛行機を降りて、どう歩いたか
記憶が無い。

はぐれない様に、出口って、表示を見ながら、歩いた様に思う。
出口に着くと、兄が迎えに来てくれていた。
兄の顔を見たら、それまでの、緊張感と、不安とが、安堵に変わった様で
軽いめまいがしたのを、覚えている。

兄の側まで、行くと、母が持っていた荷物と、私が持ってた荷物を
どら、かせと言い。
兄が持ってくれた。
その、背中が、逞しく見えた。
兄の側には、兄の会社の社長さんも、一緒だった。
そのまま、二人に案内され、車に乗る。
私達3人は、後部座席に座るが、疲れていたのか、誰も話さない。

そして、着いたのが、名古屋で新しく住む、アパートだった。
私達が、名古屋に来る前に、兄が用意してくれていた。
中の、ドアを開けると、5人が入るには、狭すぎる玄関。
その玄関を、開けると、直ぐ左手は、台所の流し台。
右手は、トイレと、お風呂、洗面台もあった。

その先に進むと、6畳の和室、その先にもう一つ、6畳の和室
その前は、ベランダ
両隣を見ると、壁、思わず、私は、これだけ?って、言ってしまった。
すると、母が、こらっと私を、黙らせる。

社長さんは、はいこっちでは、これが普通ですと言った。
私は、普通・・・
すかさず、私が聞いた。
家賃は、いくらですか?と、
社長さんは、5万ですと、
その、返事を聞いて、私は、はあっー5万!
思わず、声が、裏返った。
社長さんは、又、言う、はい、こっちでは、これが普通ですと、
私は、普通・・・普通が良く判らない。
つい、昨日までは、一戸建ての借家にいた、家賃は、3千円だ。
えらい、違いだ。
これから、どうやって、やりくりしたらいいもんか。
すると、社長さんは、お疲れでしょう?
ゆっくりして下さいと、いいそこから、出ていった。

社長さんが、玄関のドアを閉めたその瞬間、私は、走った。
すると、弟も、姉ちゃん僕もと言い走った。
私は、弟と、競いながら、走った。
そして、走り着いた所は、トイレの前。
何方ともなく、トイレのドアを、開ける。
二人同時に、身体を、トイレの中、
トイレの、蓋を開ける、レバーを捻る。
ジャーッと、勢い良く流れる水。
蓋を閉める、レバーを捻る、ジャーッと、勢い良く出て来る水に、
二人唖然。
私達の、後ろから、母も、ほーっと珍しそうに言う。
私は、兄に、あんちゃん、これどげんして使うと?と聞く。
廣子、こっち向いてすわっと、やど。
弟には、小便の時は、便座の蓋開けて見ろ、それ開けてから、
すっとやぞと教えてくれた。
3人して、ほうーっと、唖然。

私は、隣の風呂場を、開けて見た。
まあ、何と綺麗な事か、あれ~ まあ~。
又、私は、兄に聞く、あんちゃん、蒔きは、どっからくべっと?
兄は、言った、蒔きは使わんと、
こっちは、ガスたい。
ガス?
都市ガスたい。
都市ガス?
どげんして、たくと?
すると、兄が、廣子よかか、水ば出して、あそこの、丸いとが
あちゃろ?
あそこの、10㎝ぐらい上まで、水来たら、止めて、ここの、スイッチを
押したら、よか。
それだけ?
そうたい、それでよか。
へー、あんちゃん、火は、どっからでっと?
火は、でんと。
へー
じゃあ、煙は?、煙もでんと。
はあぁー。
名古屋の家は、便利かね~。
今から、思うと、笑えるが、その時は、見る物全てが、
知らない物ばかりで、まるで、おとぎの国でも、来た様な気分だった。

兄は、言う。
お母さん、疲れたやろう。
今夜は、外でご飯食べようと。

兄に、連れられ、四人で外の食事処へ。
何でも、よか、好きなやつ頼め。
メニュー表を、見るが、私は、値段が気になって
仕方無い。
何でも、よかって、言っても、
明日から、家賃5万のアパート、どうやってやりくりしたら、
いいもんか、そんなに、贅沢は出来ない。
メニュー表見たら、又これが、色んな物がある。
宮崎には、こんなお店は無い。
いわゆる、食堂って言うお店しか、知らない。
その中から、弟は、あんちゃん、僕、この、ハンバーグステーキ
って、食べたい。
私、何?
ハンバーグステーキ?
とっさに、値段を見る。
母は、とんかつ定食だったか?
廣子は?と聞かれるが、決めかねる。
4人で、えーと、値段を計算してると、兄が言った。
廣子、そげんお金の事気にせんでんよか。
今日ぐらいは、好きなやつ頼めばよかと。
その兄の言葉に、涙が出そうになったのを、覚えている。

久しぶりの、家族そろっての食事。
有難い。
母は、その時、はあっーとため息一つ。
たった一枚か、たった一枚の、紙切れで、お父さんに
縛られてたんやね~
お母さんは、馬鹿やったわーと、言う。
暫く、食べていたら、弟が、姉ちゃんと、不安そうな声、
どうしたのかと思い、弟の顔を見る。
すると、お膳の中のお椀の蓋が、開いている。
そおーと、見ると、
何と、真っ黒なみそ汁。
私は、慌てて、自分のお椀を、開けて見る。
何と、みそ汁の色が、真っ黒だ。
兄が言う。
赤だしたい、食えれんかったら、いいぞ。と
私は、一口、口にする。
食べれんて事は、無いがちょっと、口に合わないが、
せっかくなんで、我慢して飲んで見た。
半分がやっとだった。
そこへ、兄が無理せんでよかと。
それが、名古屋に来てからの、始めての夜だった。

その日から、新しい生活が始まった。
私は、四人で、みんな幸せな生活が出来ると、信じて
疑わなかったが、
何時しか、四人の、向いてる方角が少しづつ、
違って行くとは、思いもしなかった。
その時、兄は、若干21歳にして、世帯主になった。


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