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脊椎を理解する③胸椎の可動性・安定性と切っても切り離せない「胸郭」の話

脊椎のことをがっちり学び直そうという企画。今回は胸椎の話と連動して、胸郭について取り扱いたいと思います。胸郭とは一般的に、胸椎・肋骨・胸骨で覆われた部分で、体幹上部に位置します。当然、胸骨や肋骨や胸椎とつながっているので、この部分の可動性が脊椎全体の可動性に影響を及ぼすわけです。

「胸椎の動きに対して胸郭も連動して動いてくれる方が、可動性を発揮しやすいよね」と思ってもらえれば、イメージとしては十分だと思います。胸椎が屈曲方向に動く時、胸郭(というか胸骨)が前傾方向に倒れてくれた方が稼働しやすいし、逆に胸椎が伸展方向に動く時、胸郭も後傾方向に動いてくれることで、伸展可動域を発揮しやすくなります。肋骨については、脊柱の屈曲・伸展ではなく側屈・回旋運動時の可動性に影響します。

ちなみに、最近では美容整形の一環として、下部肋骨を切除する人を見ます。それではなく、事故などで肋骨を損傷、切除してしまった人にも言えることなんですが、屈曲・伸展や側屈・回旋といった脊柱の動きを支える骨が減る分、どの運動も不安定になりやすく、過活動が起きやすくなります。

すごく乱暴な表現ですが、「肋骨が減れば可動域が広がる」となるわけですが、実はこれ、必ずしも正しいとは限りません。脊柱の安定性が肋骨・胸骨で確保できない状況が常態化すると、脳はボディマップを更新して「この不安定を修正しなければ」と働くのです。過活動が続けば周辺の軟部組織や筋群が摩耗してしまいますから、脳は自然と周囲の筋群を過緊張させたり、周辺の組織によってこの状況を改善しようとするわけです。

結果、胸椎周辺の不安定性が、他の組織(筋群や軟部組織)に悪影響を与えてしまうわけですね。もちろん、胸郭の可動性が低ければ、それを補うために他の部位が過剰に働き始め、やはり痛みを生じてしまいます。動かな過ぎでも動きすぎでも、身体にトラブルが起きやすいわけです。

胸郭のことをざっとおさらい。

胸郭というのは、主に(肋骨の)8番までを上位胸郭と呼び、9・10番が中位胸郭、そして11・12を下位胸郭と呼びます。文献によっては、8番までと8番以降で上下に分けるという考え方もあります。なぜこのように分類するかというと、それぞれの胸郭で呼吸時の動きが異なるからです。

例えば、上位胸郭の動きは「ポンプハンドルアクション(機能)」と言われ、前後に胸郭が広がります。中位胸郭は「バケツハンドルアクション(機能)」で、左右に胸郭が広がるというのが特徴です。下位胸郭の肋骨は、胸骨と関節していない「浮遊肋」で構成されていますが、ここは「キャリパーハンドルアクション(機能)」と呼ばれ、クワガタの角のように水平に広がります。

呼吸時に胸郭がスムーズに広がっていない場合、胸郭のスペースを無理やり確保するために、肩が上がる・腰をそるという代償動作が起きやすくなります。これが肩こり・腰痛につながるわけですが、胸郭の可動性・拡張性を高めるためのアプローチをしようという時、上中下どこの胸郭が問題なのかによって、徒手での誘導方法が変わるのです。上位胸郭にアプローチするのに、左右の動きを出すような徒手の誘導をすると、本来の動きと矛盾するのでかえって悪影響になりかねません。

ひどい話だと、コンテスト選手の胸郭をケアしようとしたトレーナーが、下位胸郭を押し込むようにアプローチしてしまったせいで、肋骨が折れてしまったというケースも存在します。胸郭へのアプローチでは、その骨の動作を理解したうえで、徒手による抵抗を加えるというのがとても大事ということを覚えておいてください。

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