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絵本探求講座第4期:第3回振り返り

2023年11月12日(日)絵本探求講座第4期第3回 アーカイブ受講
講師:東洋大学文学部国際文化コミュニケーション学科
   准教授 竹内美紀先生

今回も、心に留めておきたいことや、受講を通して考えたことを中心にリフレクションを記載しました。
子どもの体調が悪く急遽、リアルタイムでの参加が出来なくなりましたが、アーカイブで何度でも繰り返し講義を聞けるようになったこの時代は、学びたい人にとって、時間や場所を問わない大変有意義な受講形態なのではないかと改めて実感しております。


松岡享子さんについて

1)興味を持ったきっかけ
大変有名な方なので、多くの方に愛されてきた方だと思います。私が長男に読み聞かせをするにあたって、いくつか書籍を読んだ際に、松岡さんの言葉がとても優しく暖かく、子どもに本を読んであげることに対し、揺るがない肯定感を持たせてくれました。多くの絵本も翻訳されていらっしゃいますが、翻訳での表現方法まではまだ詳しく分析できていません。ただ、絵本に対する根底の思いや人間性に惹かれ、今回取り上げました。

おとなが、子どもに本を読んでやるとき、おとなの声に乗って子どもの心に運ばれていくのは、物語プラスアルファだけではありません。読み聞かせという行為それ自体の中に、おとなはどう思っていようが、子どもは、おとなの自分に対する愛情を感じとっています

松岡享子(1987)『えほんのせかい こどものせかい』33

あるおかあさんは、子どもに『クマのプーさん』を読んでやっていて、おもしろいので思わず笑いだしたところ、子どもがすぐ「おかあさん、いまんとこおもしろいね。もういっぺん読んで」といったと話していらっしゃいました。こういう瞬間に、子どもは、親とひとつになった気持ちを感じて、そのために、本というものが、いっそう親しみ深い、忘れ難いものとなるのではないでしょうか

松岡享子(1987)『えほんのせかい こどものせかい』35

幼いこころに深くしま いこまれた、親子でともに読んだ本の記憶は、成人したあとも、人が安心して心の錨とのできる港になっているようだとは、おかあさん方からわたしがよく耳にすることばです。

松岡享子(2015)『子どもと本』93

講義の中でも、松岡さんのご経歴から大事にされている根幹を教えていただきました。

松岡さんは文筆家や翻訳家がスタートではなく図書館員。
司書としてのキャリアがスタートなので、やはり子どもに本を伝えるストーリーテリングを始め、お話を語ることをすごく大事にされていた。
語るの時も、感情的に劇のようにするのではなく、その話を生かすということを土台にされていた。

第3回講義より

先生のお話から、松岡さんの書かれた言葉がなぜあんなにも優しいのか、子育て真っ歳中の私の心に響くのかを考えた時に、話を読むという視点から書かれているものが多く、今子どもに読み聞かせをしている私にとっては、感銘を受ける言葉が多くちりばめられていたのだと気づかされました。
私は親が子どもに対して絵本を読んであげることに対してのアンテナが高く、上記でも抜粋しましたが、松岡さんは、子どもに本を手渡すことやお話を語ることをいつも心の真ん中に置いている方だと分かりました。そして、本を通じて物語の面白さと同時に愛情も渡していた方だということも分かり胸に響きました。

第3回講義から学んだこと

1)訳者の翻訳姿勢

他の人には真似できない、訳者のライティングスタイルがある。
例:灰島かり:江戸べらんめのようなリズムのいいもの
  瀬田貞二:俳人のような古い言葉を古臭くない言葉で使う
  今江祥智:講談調
  松岡享子、中川千尋:黒子に徹する
すでに出来上がっている作品の世界を、どう表現するか、どういう日本語を使うかというのが、翻訳者の力量や特徴、息遣いとして現れる。
翻訳者研究の一つの面白みは、その人の日本語の生成過程で、文体にどのような影響を与えるかという点である。

第3回講義より

3回の授業を通して、何度も出てきた上記の訳者の方。
訳者のライティングスタイルはそれぞれの背景や思いが個性として表現されている点が大変興味深く受け取りました。
作家の方は、ゼロから生み出すことに対し大変苦慮されていると想像できる一方、訳者はすでに出来上がっている世界観に対して、翻訳することで言葉を変換し、新たな表現をしていくこともまた、大変な労力を伴うことが想像できます。
そこには、単に言葉を直訳するのではなく、原作に対する深い読み取り、そして表現する力が何よりも大切だと改めて気づかされました。(第2回のリフレクションでも記載したことと重複になりますが)
恥ずかしながら、今まではどの訳者の方もそのまま直訳されているのだと思っており、訳者の個性があることも分からなかったので、大いに学びとなりました。

2)言葉から意味することに対する抜け落ちへの補い

日本語は固有名詞や八百万の神から、木や山などの名前から、意味することを読み取れる。しかし英語では単語のみではその言葉の意味が抜け落ちてしまう。
例:
①ハナミズキを、blossom、flower、treeと書いても、木が意味することは伝わらない。
②木を象徴として津波が来たところにハナミズキを植えることによって、100年後にもこの津波の話を語り伝えてほしいという思いが込められている。
③ハナミズキを聞いたときに私達はハナミズキに託している思いを想像するけれど、英語でハナミズキとしてもそれが伝わらないので、A Hundred Yearsを付け加えることで、100年伝えたい話をはっきりと伝える役割を果たしている。

第3回講義より

子ども達を取り巻く環境は、時代や社会性、国籍によって千差万別だと思いますが、言葉と絵から受け取るイメージを、国籍問わずどの子どもに同じ目線で届けるためには、時に補いが必要なのだということも分かりました。
足りなければ補えば良い。これは、翻訳だけではなく全てのことに通ずるのではないかと案じます。
どの表現であれば、相手に分かってもらえるだろうか…という視点も訳者には必要なのだと改めて感じます。
まさか現代において戦争が起こるとは思ってもいませんでしたが、世界中の子ども達が同じ絵本を見て、同じように感じる共通認識を持つことができれば、少しでも世界が平和になるのではないかと思います。

「絵」に対する注目 ―参考文献を中心に―

1)「絵本の絵」の役割とは
絵本にとっての「絵」が、そもそもどのような役割があるかということをしっかり考えたことも無かったので、講義で聞いたことをもとに調べてみました。
今回注目した松岡さんが書かれた書籍にも「絵」の記載がありました。

絵本の絵は、子どもたちの知識や経験の乏しさを補い、想像力に確かな後ろだてを与えること。それによって、子どもたちは、実際の経験に代わる経験を絵本の中でし、将来、本を読む際にぜひ身につけていなければならぬ、「ものごとを絵にする力」を養っていくのだということです。

松岡享子(1987)『えほんのせかい こどものせかい』63

わたしたちは、実物とそれを表す記号(文字)を結びつけることを学ぶとき、その一つ前の段階として、必ず絵でものを考えるということです。具体的なもの(絵)から出発しないと、抽象的なもの(文字)の世界へは到達できないということです。

松岡享子(1987)『えほんのせかい こどものせかい』57

まだ言葉を獲得していない子どもにとっては、絵でものを考えるということに対して腑に落ちました。そして、「知識や経験の乏しさの補い」も、まさにその通りだと思います。子どもは絵本を通して、経験をしている。そう思うと、絵本を開き沢山の子どもに経験も提供していきたいです。

2)位置のコード
講義の中でも、先生がご紹介されていた位置のコードについて参考文献を再度整理してみました。

ページの上方夢中夢心地の状態、社会的地位権力積極的な自己にイメージを示す
ページの下方意気消沈最悪の事態好ましくない社会的地位、消極的な自己のイメージ
ページの中央安心安定有利
<サイズコード>
大きく描く…その場、状況を強い支配
小さく描く…その場、状況をあまり支配しない

藤本朝巳(1999)『絵本はいかに描かれるか』143-144

上記に基づき、『もこ もこもこ』の絵に注目をしてみました。

この1週間、何度も何度も『もこ もこもこ』の絵本を開きました。
数多くの絵本に触れたいと考えていましたが、一方一つの絵本の細部まで読み取るということの面白さも感じることができました。
1歳半の末っ子と、まだまだこの1冊を楽しんでいこうと思います。

3回の受講を受けて・今後の抱負

3回の講義を受けてまず強く感じたことは、私はやっとスタート地点に立ったばかりだということです。
他の受講生のように、とっさに本の名前も作者も訳者も出てくるわけではない。
線と線が繋がらない。
だからこそ、まだまだ多くのインプットが必要なのだという事も分かりました。
ただ、訳者のライティングスタイルや翻訳方法の細部までは読み取れないものの、講義で教えていただいた作者や翻訳者の絵本に対すする想いや変遷を学ぶだけでも、私にとっては大変興味深いものでした。
また、絵本学を学ぶための「切り口」を掴むことができました。
第4期ということではありますが、私にとってはスタートである「概論」を学ばせていただいているようです。
不思議とそこに焦りはなく、私が知りたいという興味(知的好奇心)があるからだと実感しております。限られたリソースの中で家庭や仕事とのバランスをとっていかなければいけないですが、今後も、細く長くそして”私は私のペースで”と思っています。

このゼミはリフレクションというアウトプットの機会を設けてくださるので、とても良いトレーニングになっていることも実感しています。
一方、先生がいつもおっしゃっている「自分で考え・自分の言葉を作る」ということに対して、未知な分野では、なかなかハードルが高いことも改めて感じます。
ですが、これからを生きる子ども達にとって、絵本がどんな役割を担っていくのだろうとうことに思いを巡らせ、ここで学んだことをまずは我が子どもに渡していきたい。強くそう思いました。

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