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『もこ もこもこ』は奥が深い

1歳半になる末っ子も大好きで、上の2人の子ども達ともよく読んできた1冊であり、私にとっても思い入れが強い『もこ もこもこ』。

『もこ もこもこ』 たにかわ しゅんたろう/作 もとなが さだまえ/絵  文研出版 1977年


絵本探求講座でも、絵本の「絵」に対する注目方法についての講義があり、改めて絵の構成を考えてみました。
文章で説明するにあたって、私が勝手にもこもこと登場する突起を「もこ」、にょきと登場する突起を「にょき」と記載しております。
まずは全体として15場面で構成されていることを確認しました。


1.大きさと支配関係について

〇1場面:「しーん」
地面と空のみの構成だが、これからの新たな登場を予感させられる。
〇2場面:「もこ」<誕生>
中央より左側に小さい突起”もこ”が現れる。
小さく描く ⇒ 突起の登場に対して読み手は興味を持つが、まだまだ小さいことから、場面を支配するまでには至っていない
〇3場面:「もこもこ にょき」<誕生>
左側の”もこ”は前ページよりも大きく、右側には”にょき”とさらに小さい突起物。両者そろったこの場面は、サイズコードから支配性や力の強さを多少なりとも感じられる。
〇4場面:「もこもこ にょきにょき」<成長>
両者とも成長し、サイズコードに大きさな差がある。両者の関係性までははっきり読み取れないものの、ページの大部分を示す”もこ”の存在から、力強さ、安定さを見ることができる。
〇5場面:「ぱく」<支配>
〇6場面:「もぐもぐ」<支配><消失>

”もこ”が大きな口を開けて”にょき”を食べてしまう場面である。”もこ”によって”にょき”が消えてしまう。大きさの違いだけではなく、一方の存在が消失してしまうことで、”もこ”が”にょき”に対して大きな支配関係であることが顕著に表れている場面であると考えられる。

〇7場面「つん」<誕生>
〇8場面「ぽろり」

”もこ”から新たな突起物がでてくる。ここから新しい場面に切り替わったように個人的には感じる。この新たな突起物は果たして”にょき”なのかそれとも全く別物なのかは読者の想像に任せられている。
7場面の突起物の登場はページ上積極的なイメージを示す
8場面の突起物の落下はページ下消極的なイメージを示す
新たな物が生まれる場面は明るく、落ちてしまう場面は消沈を表しているのだろうか。
〇9場面「ぶうっ」<成長>
〇10場面「ぎらぎら」<成長><支配>
ここでは、落下してしまった小さい突起物が、どんどんどんどん大きくなる様子が描かれている。まさに、大きさが増していく過程は、場面を強く支配し続けていくことを感じる。一体どこまで大きくなれるのだろうと思わされる。
10場面では、ページをめいっぱい使い、大きくを中央に表している様子は、藤本(1999)*の有利性を読み取ることもできる。
                                         *藤本朝巳(1999)『絵本はいかに描かれるか』143
〇11場面「ぱちん!」<消失>
〇12場面 文字なし<解放>
〇13場面「ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ」<解放>
 
ここでは大きく膨らんだものが割れて無くなってしまうという場面である。大きなものがバラバラになってしまったものの、「ふんわ」という言葉から、悲壮感ではなく、それぞれ解放され自由になっていく様子が読み取れる。

〇14場面「しーん」
〇15場面「もこ」<誕生>

ここは、冒頭の1場面2場面と同じ状況である。ただ、違いは”もこ”の位置が2場面では左に描かれていたが15場面では右に描かれている
これは何を意味しているのだろうか。藤本(1999)*は、右ページに示される事物は危険な状況や冒険に向かって動いていくことが多いと書かれており、もしかしたら新たなスタート地点なのだろうかとも考えられる。
           *藤本朝巳(1999)『絵本はいかに描かれるか』144

2.色の変化について

次に色の変化についても気になったため、記載してみます。
1)命の吹き込み
"もこ””にょき”どちらも最初の登場では、地面と同じ寒色の色使いだったが、成長とともに暖色(オレンジ、黄色)へと変化が見られることにも注目をした。この色の変化は、命が吹き込まれていくこととの関係性のように読み取れる。
5場面の”にょき”が食べられてしまう場面では、前場面の黄色から緑の寒色への変化していることから、ここでも消滅という命との関係性を想像させられた。
2)注目対象の変化
7場面では、”にょき”が黄色に対し、新たな突起物は赤色で登場している。これは、敢えて目を惹く色を置くことで、注目対象の変更を感じた。その後、新たな注目対象が、次の8場面9場面10場面と大きく成長していく様子が描かれていることからも確認できる。

3.全体を通しての考察

想像はすべて読者に任せられている点も大変面白いと感じました。
突起物は何を表しているのだろうか。長男は当時ボールと見立てていたのを思い出しました。正解は無いからこそ、子ども達の想像力も大いに広がり、子どもとのキャッチボールも楽しめるはずです。

そして、大きく膨れ上がるものは、永続的に大きくなり続けられず、割れてしまう、消えてしまう。これは、私達の生活のいたる場面で思い浮かべられリンクするものを感じました。
しかし、一度弾け無くなったものが再度誕生する。これは生と死の循環、もしくは再度這い上がる力を示しているのではないかとも受け取りました。
この1冊では<誕生>→<成長><支配>→<消失>そして、また<誕生>に戻るというループ。これもまた、私達の生活を写しだしていると考えます。

子どもにとっては、色彩豊かな絵とオノパトペで大いに楽しめる1冊である一方、私達大人にとっても、文字でのメッセージ性は少ないものの、絵から読み取れることは多くある1冊であることが分かりました。

長男が産まれてから何度も読んできた「もこ もこもこ」ですが、こうやって深く読み込んだことはありませんでした。
一つの絵本を分析する。技法に注目する。
こんなに面白いのだと改めて思いました。
今回は、特に参考文献や谷川さんの資料を読んだわけでもなく、あくまでも一個人の意見を綴ってみたものです。
読んだ人の数だけ受け止め方が違うのだと思います。
私達が今生活しているこの世界には正解は一つでは無いということも改めて考えさせられました。
だからこそ、想像をすることを忘れずに過ごしたいものです。


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