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内部通報UPDATE Vol.6:迫る改正公益通報者保護法施行を見据えて⑥-消費者庁「指針の解説」の活用術-

1. はじめに

2021年8月20日に消費者庁が公表した「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下「本指針」といいます。)についてはVol.5にて速報解説を行いましたが、同年10月13日に本指針を解説した「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針の解説」といいます。)が公表されました。

今回は、23頁に及ぶ「指針の解説」の読み解き方を解説した上で、上手な活用術をご提案します。

2. 「指針の解説」とは?

(1)「指針の解説」の位置づけ

Vol.3で解説したとおり、改正公益通報者保護法第11条第1項および第2項において、公益通報対応業務従事者を定めること、および事業者内部における公益通報対応体制の整備その他の必要な措置をとることが義務付けられています。

この「必要な措置」の具体的内容について、多種多様・千差万別の事業者に一律・画一的・十把一絡げに定めることは困難かつ不適切と考えられます。「指針の解説」2頁でも、「事業者がとるべき措置の具体的内容は、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者等及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なり得る」と説明されています。

そのため、本指針では事業者がとるべき措置の個別具体的な内容ではなく、事業者のとるべき措置の「大要」を示すとされています。換言すると、本指針で示された「大要」に沿った対応をどのようなものにしていくのか、その判断は各事業者に委ねられています。

では、事業者がどのようにして本指針に沿った具体的な対応・取組を決めていけばよいのでしょうか?そこで拠り所となるのが「指針の解説」です。

なお、Vol.3でも掲載しましたが、本指針と「指針の解説」の関係性および位置づけについては、本指針のパブリックコメント手続において公表された下記関連資料が分かりやすいので、適宜ご参照ください。

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出典:公益通報者保護法に基づく指針(案)等に関する意見募集について/(参考3)「指針」の策定に伴う従前のガイドラインの整理等(消費者庁ウェブサイト)

(2)「指針の解説」の構成

上記のとおり、公益通報対応体制等のあり方は、業種、規模等に応じて異なり得るものであり、例えば従業員300名程度の規模の中小企業が従業員数万名のグローバル企業と同じ体制を整備することは現実的に困難であるばかりか、リソースや運用コストの観点から適切ではない場合もあり得ると考えられます。

「指針の解説」は、本指針の細則のようなルールを定め、その全ての完全な遵守を求めるといったものではなく、事業者における検討を後押しするため、「『指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する具体的な取組例』を示すとともに、『指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例』」を示すものとされています(「指針の解説」2頁)。

これを踏まえ、「指針の解説」は本指針の本文ごとに基本的には以下の4部構成となっています。

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③の『指針を遵守するための考え方や具体例』は、あくまでも参考となる考え方が示されているものであり、「本解説の具体例を採用しない場合であっても、事業者の状況等に即して本解説に示された具体例と類似又は同様の措置を講ずる等、適切な対応を行っていれば、公益通報対応体制整備義務等違反となるものではない」と明示されています(「指針の解説」3頁)。

④の『その他の推奨される考え方や具体例』は、「指針を遵守するための取組を超えて」と明記されており、いわば一段レベルの高い取組が示されていると言えます。

3. 「指針の解説」の活用術

(1)本指針の趣旨の理解

第1に、「指針の解説」を熟読することにより、本指針の具体的な条項がどのような目的・趣旨で策定されているかを理解することが重要です。

どの法令やガイドラインにも当てはまることですが、字面だけを眺めていても各条項の本質的な部分を理解することは難しいものです。各条項がなぜ作られて、なぜこの文言になったのかという目的・趣旨を理解してはじめて、その条項を腹落ちする形で理解することができます。

「指針の解説」における『指針の趣旨』の欄では、本指針の各条項の趣旨が端的に示されていますので、熟読をお勧めします。

(2)本指針内で用いられている用語の定義・説明の把握

第2に、本指針内で用いられている用語の定義や説明が「指針の解説」内で述べられているため、用語の意味を理解するために「指針の解説」を辞書のように利用することが可能です。

「指針の解説」内で定義がなされている用語は以下のとおりです。

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(3)本指針を遵守できているかの確認

第3に、自社の制度が本指針を網羅的に遵守できているかを確認する際に、「指針の解説」を参照することが有用です。

「指針の解説」に明記された具体例を全て実施する必要はなく、実施していないからといって直ちに本指針違反ということにはなりません。しかし、自社の制度と「指針の解説」に明記された具体例を比較検討することにより、自社の制度に足りない部分がないかをチェックすることは可能です。

一例を挙げると、「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」として、「指針の解説」の「③指針を遵守するための考え方や具体例」では、「組織の長その他幹部からの独立性を確保する方法として、例えば、社外取締役や監視機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにする、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う等が考えられる」、「組織の長その他幹部からの独立性を確保する方法の一環として、内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置することも考えられる」との記載があります(「指針の解説」9頁)。

この具体例をそのまま自社の制度として取り入れることも一案ですし、この具体例に類似する別の「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」を練り上げることもあり得る選択肢です(具体例に類似するレベルの措置であるかの慎重かつ緻密な検討は必要です。)。

問題なのは「指針の解説の具体例をそのまま全て採用することは不要」という部分だけを都合よく切り取ってしまい、本指針に沿った取組に抜け漏れが発生してしまうことですので(その場合には公益通報対応体制整備義務違反となり得ます。)、そのような事態を回避すべく、適切な確認作業を行うことが肝要です。

(4)自社の制度をカスタマイズする際の参照

第4に、自社の内部通報制度を自社に最適な形にカスタマイズするに際し、「指針の解説」の「その他に推奨される考え方や具体例」を参照することは有用です。

例えば、企業グループを形成している場合には、親会社等に子会社役職員も利用できる内部通報窓口を設ける、いわゆる「グループ内部通報制度」を構築することが考えられます。グループ内部通報制度は、子会社役職員による不正の発見・牽制や子会社の人的・組織的リソース不足の回避等の観点から有用であり、多くの企業グループで採用されています。

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そのようなグループ内部通報制度を構築する際、本指針や「指針の解説」との関係で問題がないかはしっかりとチェックする必要があります。

「指針の解説」では、グループ内部通報制度を設けるに際し、「子会社や関連会社において、企業グループ共通の窓口を自社の内部公益通報受付窓口とするためには、その旨を子会社や関連会社自身の内部規程等において『あらかじめ定め』ることが必要である(法第2条第1項柱書参照)。また、企業グループ共通の窓口を設けた場合であっても、当該窓口を経由した公益通報対応業務に関する子会社や関連会社の責任者は、子会社や関連会社自身において明確に定めなければならない。」と記載されています(「指針の解説」8頁脚注13)。

この記載は、単に親会社にグループ全体の窓口を作れば足りるというわけではないことを示しており、グループ内部通報制度の設計・構築に際し、留意が必要です。

このように、内部通報制度を自社に適したものにすべくカスタマイズする際には、「指針の解説」に関連する記載がないかをチェックすることが肝要です。

4. まとめ

以上のとおり、「指針の解説」の活用術はさまざまなものが考えられます。本指針および「指針の解説」は、改正公益通報者保護法の施行日(2022年6月12日までに施行される予定)から適用されますので、改正公益通報者保護法・本指針・「指針の解説」の3点セットをしっかりと理解し、慌てずに改正公益通報者保護法の施行日を迎えられるよう、ご準備いただければと思います。本稿がその一助になりましたら幸いです。


Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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