占いって信じます?(短編小説)

「占いって信じます?」
「え? うーん、そうだなぁ……。俺はあんまりそういうのは信じない方かな」
「そうなんですか!? 意外です!」
「そ、そうか? まあ、でも、うん。当たってる時は当たるしね」
俺がそう言うと、美月さんは少しだけ俯きながら笑みを浮かべた。
「……私も占いとかあまり信じるタイプではないのですが、実は今日から新しい占いを始めたんですよ」
「へぇ……どんな占いなんだい?」
「それはですね――『運命の人』を見つけることができる占いです!!」
彼女は自信満々にそう言い切った。
「…………えっと、『運命の人』を見つける占い?」
「はい! 私の友達で恋愛に興味がない子がいたんですけど、その子にもこの前占ったら、その日に彼氏ができたらしいですよ!」
「そ、そうなんだ……」
いきなり何を言い出すのかと思ったが、どうやら冗談を言っているわけではないようだ。
確かにそんな占いがあったとしてもおかしくはないと思う。
しかし、本当にそんなものがあるとしたら……
「(俺にとってはかなり都合が良いかもしれない)」
「それでですね。是非ともその占いを受けて欲しいんですけど、良いですか?」
「ああ、もちろんいいよ。それじゃあ早速お願いしようかな」
「本当ですか!? ありがとうございます! では、さっそく準備しますね!」
嬉しそうにしながら彼女はカバンの中からタロットカードを取り出す。
そして慣れた手つきでカードを並べていく。
「それでは始めますね。まずはカードを見てください」
言われるままにカードの山を見る。
そこには様々な絵柄が描かれたカードが置かれていた。
「これがあなたの運命を決めることになります。何か感じたりしませんか?」
「うーん……特に何も感じないかな」
「そうですか。なら、次に質問させてもらいますね。あなたは何のために生まれてきたと思いますか?」
「何のために生まれたか?」
いきなり難しいことを聞かれてしまった。
正直言って、自分が何者なのかなんて分からない。
「(だけど、もしも俺が生まれた理由があるとするならば……)」
思い浮かぶのはあの日の出来事だった。
「……大切な人の幸せを守るため」
「……え? 今なんと言いましたか?」
しまった! つい心の声が出てしまっていた! 俺は慌てて誤魔化そうとするが、それよりも先に彼女が口を開いた。
「やっぱりそうなんですね!! 良かった~。私以外にもいたんですね、同じ考えを持っている人が!」
「お、おお……。そ、そうだな」
……とりあえず誤魔化せたみたいだな。
ホッと胸を撫で下ろしていると、彼女は目を輝かせながら俺の顔を見つめてくる。
「私はですね、大切な人を守るために生まれたと思っています!」
「……大切な人を守る為に?」
「はい! ……あれ? でも、ちょっと待ってください……。そういえばどうして私があなたのことを占っているんでしたっけ?」
首を傾げながら不思議そうにしている彼女を見て、思わず笑みがこぼれてしまう。
「それは君が俺のことを占ってくれていたからだよ」
「え? わ、私のせいですか!? ごめんなさい! 全然覚えてなくて……」
申し訳なさそうに謝ってくる彼女の頭を優しく撫でる。
すると、驚いたように目を見開いた後で頬を赤く染めながら微笑んだ。
「ふぅ……落ち着くなぁ」
「ふぇっ!? ……そ、そうですか? ありがとうございます……」
「……ん? どうかしたのか?」
急に顔を背けた彼女に尋ねると、彼女は慌てた様子で手を振った。
「い、いえ! なんでもありません!」
「……? まあいいか。それより、占いの続きをお願いしてもいいかな?」
「あ、はい! 分かりました!」
……それから数分後。
ようやく落ち着いたのか、彼女は再び真剣な表情に戻った。
「これで占いは終わりです。結果は明日のお昼休みに伝えますので、必ず来てくださいね」
「分かったよ。わざわざありがとね」
「いいんですよ。これは私の自己満足ですから。それではまた明日会いましょうね」
美月さんは笑顔を浮かべた後で小さく頭を下げてから教室を出て行った。
一人残された俺は椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
「さて、俺も帰るとするか……」
誰もいなくなった静かな廊下を歩き、下駄箱へと向かう。
「……俺の考えは全部わかってしまうのだろうか?」
少しだけ焦りを感じていた――。

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