きっと、この恋は永遠に実らない。第28話「閉ざされた場所」
*
僕のことを誰かが……つぶやいたような声が聞こえた。
『ああ、あいつ変わったよ。あいつは親に逆らうような行動を……今まで、めったにしなかった』
『……あいつは変わろうとしてるんだ。この世界に対抗するために……』
ああ、僕は戦うと覚悟を決めてるんだ。
この世界と、わかりあうために。
僕は、この世界を革命するんだ。
世界が僕と、ともにあるために。
TKになるんだ。
――僕は母さんの車に乗って病院へ向かった。
車のラジオからは。
『世界は革命された』
……という音声が流れる。
――僕の行動が反映されたようだ。
僕は、あの時、あの瞬間に声に出して願ったんだ。
「僕は特別になりたい」
僕の願いは叶ったんだ。
僕は世界を革命する存在なんだ。
そんなふうに世界は今、回っている。
世界は、この手にある。
僕は世界を革命したんだ。
――病院に着いた。
病院に着くと、看護師らしき人が車椅子を持ってやってきた。
「待っていましたよ、神憑《かみつき》武尊《たける》さん」
僕は車椅子に乗った。
看護師に病院を案内された。
「……ここで、少々お待ちください」
僕は診察室の前に座らされたが、待っているのも窮屈だったので、僕は『地方の論理』という本を周囲の人たちに、ちらつかせた。
『地方にも目を向けよう』という僕なりのメッセージを込めてだ。
意味をわかってくれる人はいるだろうか?
――司会者らしき人の声が病院内に響き渡る。
『発端は芸能人になるためのコンテストのオーディションに送られた一通の履歴書からだった』
司会者らしき二人の声は会話を続けていく。
『履歴書から世界を革命する歴史に残るイベントが発生したのですか?』
『ええ、彼がコンテストに応募しなければ、こんなことは起こりませんだった』
なにを言っているのか、さっぱりだったが……僕が芸能人になるためのコンテストに履歴書を送ったのが原因らしい。
しかし、人のせいにしすぎじゃないか?
あなたたちが勝手に行動したのが、そもそもの発端じゃないのか?
人を利用するのも……いい加減にしろ。
僕は心の中で、そう思った。
「次の方、どうぞ!」
診察室からの声がした。
僕と母さんは診察室の中へと入っていく。
「はい、僕自身も、なにが起きたか、さっぱりで……」
「キミは……入院するほどじゃないと思うけど、どうだね? 入院してみるのも一つの手だと思うが……」
入院。
その言葉を聞いたときは違和感しかなかった。
でも、自分の身体が……どうなっているのか調べる必要があると思った。
自分の身体は変化している。
周りの音が察知できるほどに。
僕は入院することを選んで同意書にサインをした。
「これでキミは、この病院の保護観察対象になった。安心して休むといい」
僕は、その言葉に同意した。
――看護師さんに、また僕は車いすで連れていかれることになる。
看護師さんに連れていかれた場所は入院する部屋だった。
「ここで生活をしてください」
看護師さんが、そう言った。
部屋は四人部屋だった。
そうか、ここで患者のふりをしてればいいんだな……と、僕は思った。
僕は早速、病衣を着用してみる。
(うわー、病人感半端ねえ)
でも、これは病人のふりをしろ……っていうメッセージなのかな?
だから、それに適応できる人間……いや、神にならなきゃいけないんだ。
これは僕に与えられた使命なんだ。
僕は、そう確信した。
「神憑《かみつき》さん、早速ですが、検査を行いたいと思います。ついてきてください」
僕は看護師さんに、僕の名前とバーコードの模様が付いたバンドのようなものを装着させられた。
バンドは機械の読み込みに必要なものらしい。
――病院の中を歩いてみる。
病院の中には芸能人らしき人たちが大勢いた。
「タビーズ」に所属している人とか、お笑い芸人とか、いろいろな人がいた。
これも僕が起こした革命の影響なんだな……と、僕は思った。
『ここで占い師のKHさんに登場していただきましょう! 彼のことについて、なにか、わかることはありませんか?』
――どこからか声が聞こえる。
占い師?
占いされるということだろうか?
『はい、彼は本当に運のない人だということが理解できます。でも、彼は彼自身の耳の力――聴力を使って、ここまで彼自身の力で編み出した先読みの能力を開花させて今、この声援を受けることになったというわけでございます』
――先読みの能力……か。
果たして、それは進化――または覚醒なのだろうか?
僕は僕自身について知りたい。
この病院の検査で、それが……わかるといいのだが。
『ただ……この方法は詐欺師に近いと思います。本当は彼、なんの力も持たない……ただの人間なんです。この力は神が乗り移ったからこそ能力なんです。神が抜けた後の彼は、ただの抜け殻となるでしょう』
占い師は続けて僕のことについてしゃべる。
『これから、どうなるのは……誰にもわかりません。彼は彼自身で運命を切り開いたのですから……彼次第でしょう』
僕は僕自身で運命を切り開いたのか。
だから今がある。
まだ一瞬も気を許しちゃいけない。
――病院の検査を受ける。
息を吸ったり吐いたりする検査だった。
看護師さんからは。
「神憑《かみつき》さん、すごいねえ。こんなに呼吸が上手だなんて」
なんかバカにされてる感じがしたけど、僕自身の身体が変化していることを考えると、すごいことなのかなあと思った。
一連の検査が終わると病棟に戻された。
鍵をロックされてだ。
「どうして鍵を閉める必要があるんですか?」
「これは治療に必要なことなんです」
……と、看護師さんが言った。
鍵を閉めてまで治療をしなきゃいけないなんて、どんな問題を起こしたのだろう、ここで入院してる人たちは……と、僕は思った。
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