きっと、この恋は永遠に実らない。第21話「あのころの彼女は」

  *

 ――二〇一三年一月四日。

 僕は赤心《せきしん》県の小学校の同窓会へ赴くために、電車に乗っていく。

 電車に乗っていても声が聞こえる。

『あの人は今、電車に乗って赤心《せきしん》県へ向かっているんだ』

『綿里《わたり》さんとメールしているそうだよ』

『へえ、そうなんだ』

『赤心《せきしん》県の同窓会へ行ったら、どんな反応するかな?』

 ――この状況……いつまで続くのかな?

 いい加減に……してほしい。

 言われている僕の気持ちが……わかるかな?

 わからないだろ?

 陰でコソコソ言われている人の気持ちなんか。

 永遠に、わからないと思う。

 わからなくて結構。

 どうせなら、わからないままでいい。

 その程度の人間というのが、わかるから。

 僕は自分の噂を延々と電車の中で聞かされる羽目になった。

 ――とりあえず、赤心《せきしん》県に着いた。

 僕は電車を降りて、ホテルへ向かった。

 ホテルに荷物を置いて、ほどほどに格好を整えてホテルを出た。

 ――えっと、飲み会の場所は……このあたりかな?

 飲み屋は僕が昔、通っていた小学校の場所の近くではなく、降りた駅の近くの場所だ。

 僕は迷っていたが、ある人を見つけたことで迷うことは、なくなった。

 綿里《わたり》さんだ。

 綿里《わたり》さんらしき人を見かけたからだった。

 綿里《わたり》さんの髪の色は茶色に染髪されていたが、それ以外は、なにも変わらない、昔の綿里《わたり》さんのままだった。

 肌は雪のように白く、未雪《みゆき》という名前に、ふさわしい色をしているなあ……と、僕は思った。

 彼女についていくと飲み屋は、すぐだった。

 飲み屋に入る。

 綿里《わたり》さんの名前で登録されているはず。

 僕は綿里《わたり》未雪《みゆき》の名を店員に言った。

 すると、綿里《わたり》さんのところまで案内された。

 綿里《わたり》さんの顔は、にこやかだった。

「久しぶり! 神憑《かみつき》くん、元気にしてた? 身長伸びたんだね」

 僕は緊張しながらも、すぐさま対応した。

 僕は、そんなに成長していない。

 伸び盛りだったのは中学生の時期だけ。

 高校に入学してからは身長は伸びなかったのだ。

 高校に入学したときから心の成長が止まっている。

 それと同時に身体の成長も。

 僕の今は、この世界から隔離されている状態……だと思っている。

 隔離されている――つまり、この世界に存在しないような状態なのだ。

 この世界に存在してないことが、僕は悲しいのだ。

 僕という存在が認識され始めたのが、つい最近の噂話ぐらいだ。

 噂話で僕という存在が保てるのなら、それもいいのかもしれない。

「……神憑《かみつき》くん、どうしたの?」

 綿里《わたり》さんが僕を心配そうに見つめている。

 僕は、いろいろなことを考えすぎて、ぼーっ……と、してたみたいだ。

「……ごめんごめん、なにか少し考え事をしてたみたいで……」

「そう。考え事もいいけど、せっかく久しぶりにみんなに会うんだし、楽しくやったほうがいいよ」

「……そうだね! 久しぶりに楽しみます!」

 綿里《わたり》さんは、いい人だなあ。

 僕に元気を与えてくれる。

 ――そう思った突如、僕を混乱させる言葉が発せられた。

『イケメンかなあ?』

『いや、イケメンではないでしょう』

『フツメンぐらいかなあ?』

 赤心《せきしん》県で僕の事情を知っている人は……そんなにいないはず。

 でも、電車の中でも、あの声が聞こえた。

 それと、なにか関連性でもあるのだろうか?

 すべてが怖い。

 すべてを知ることが怖い。

 いつまでも僕に内緒というわけにはいかないだろう。

 ――思考を止めて、お酒を、ぐっ……と飲みほした。

 感覚が、お酒に支配されていく。

「武尊《たける》、大丈夫?」

 昔の友人が聞いてくる。

「大丈夫……だよ。僕は平気だから」

 僕はウソをついてしまった。

 本当は平気なんかじゃない。

 あの声に感覚が支配されているから。

 あの声が僕の感覚を変えさせるから。

 そんな気がするのだ。

 僕は、お酒に……おぼれた。

 あの声の感覚がなくなるまで、お酒を飲み続けた。

 あの声のことを忘れるまで。

『武尊《たける》くん、久しぶり! 元気にしてた?』

 また同じような声が聞こえる。

 僕の意識は、だんだんと遠のいていく。

 綿里《わたり》さんは……どこにいるんだろう?

 僕の意識は綿里《わたり》さんに集中した。

 綿里《わたり》さん……綿里《わたり》さん……綿里《わたり》さんを見つけた。

 綿里《わたり》さんは僕の昔の男友達のところにいた。

「未雪《みゆき》ちゃん、ゲームしようよ」

「うん、なにするの?」

「棒状のお菓子をお互いに食べあうゲームだよ」

 僕は綿里《わたり》さんが、あのころの清純なイメージとは違っていたのを発見した。

 綿里《わたり》さんは軽かった。

 綿里《わたり》さんの心は軽かった。

 棒状のお菓子をお互いに食べあうゲームをしている綿里《わたり》さんは楽しそうだった。

 僕は、もう、あのころの綿里《わたり》さんは、いないんだろうなあ……と、僕は思った。

 綿里《わたり》さんは、もう清純じゃなかった。

 大人になったのだ、彼女は。

 もう、いろんな経験を積んできているんだろうなあ……と、僕は思った。

 あのころの綿里《わたり》さんは、いないんだと思うと……さみしくなった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?