瑠璃という名の少女 第14話
*
愛を確かめ合う行為を終わらせて会社へ出勤する準備を済ませた後で家を出ようとする。その際、玄関まで見送りに来た瑠璃が名残惜しそうにしていたので頭を撫でてからキスをする。
「瑠璃、いってくるね!」
「はい! 玻璃さん、いってらっしゃい♪」
それに対して笑顔を浮かべながら応えてくれる彼女を見て嬉しくなった俺は手を振ってから家を出た。そして、歩きながら空を見上げると雲一つない青空が広がっていたのを見て今日も一日頑張ろうという気持ちになれた。だが、それと同時に少しだけ不安もあったのだ。
――いつまで、この生活を続けられるのだろうか……?
そんな疑問を抱きつつも、今は目の前のことに集中するしかないと思い直した俺は前を向いて歩き出したのだった。
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その日もいつも通りに仕事をこなしたあとで帰宅すると、瑠璃が出迎えてくれた。
「おかえりなさい!」
その一言を聞いただけで疲れが取れていくような気がして自然と笑みが溢れてしまう。
「ただいま」
そう返事をしてからリビングに行くと、テーブルには豪華な料理がたくさん並んでいた。それを見て驚いていると、瑠璃は照れくさそうに笑いながら言った。
「今日は頑張ってみました♪」
そう言われてよく見ると、どれもこれも美味しそうだったので早速頂くことにした。
まずはスープを口に運ぶと、口の中に旨味が広がったあとにほんのりと甘みを感じたことでとても美味しかったので夢中になって食べていると横からクスクスと笑う声が聞こえてきた。それで恥ずかしくなって手を止めたが、そんな彼女の様子を見て怒る気にはならなかった。むしろ、もっと笑っていて欲しいと思った俺は食事を再開しようとしたのだが、その前に彼女が話しかけてきた。
「玻璃さんは本当に美味しそうに食べますね♪」
「そうか? いや、でも、実際美味いからな……それに、瑠璃が俺の為に作ってくれたって考えると尚更な」
「もう! そんなこと言っても何も出ないですよーだ!」
そう言いながら頬を膨らませる彼女の姿が可愛らしくて思わず笑ってしまうと、つられるようにして彼女も笑った。そんなやり取りをしているうちにさっきまで感じていたモヤモヤした気持ちが晴れてスッキリしたので改めてお礼を言おうと思い口を開いた瞬間、急に目眩がしてきたので慌てて近くにあった椅子に座ることにした。それを見た彼女は心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
その問いに答えようとしたが上手く声が出せずにいると、不意に視界が暗くなっていったかと思うと意識が遠のいていった――。
*
次に目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。周囲を見渡してみたところどこかの部屋だということまでは分かったのだが、それ以上は何も分からなかった。ただ、一つだけ言えることがあるとすればこの部屋の雰囲気が妙に落ち着かないということくらいだろうか……そんなことを考えながら部屋の中を観察していると背後から声をかけられた。驚いて振り向くとそこには瑠璃が立っていた。そのことにホッとしていると、彼女は微笑みながら言ってきた。
「目が覚めたんですね♪ よかったぁ……」
そう言って安堵のため息をつく彼女に礼を言おうとしたところで違和感に気づいた。それは、目の前にいる彼女が裸だったからだ。しかも、その状態で俺に抱きついてきているものだから目のやり場に困ってしまう。しかし、当の彼女は気にする様子もなく耳元で囁いてくる。
「ねえ、玻璃さん……私を抱いてくださいませんか……?」
それを聞いた途端、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた俺は動揺しながらもなんとか声を絞り出した。
「……いきなり、どうしたんだよ?」
すると、彼女は悲しそうな表情を浮かべた後で俯いてしまったので何か不味いことでも言ってしまったのかと思っていると、ゆっくりと顔を上げて話し始めた。
「実は最近、夢を見るんです……それも決まって同じ内容の夢を……最初は怖いと思っていたんですけど、そのうち慣れてきて段々と楽しくなってきたんですよ。だって、夢の中なら何をしても許されるんですから……だから、私は思う存分楽しむことにしたんです。現実では絶対にできないことやできないことを夢の中では自由にできるんだって気づいたとき、凄く嬉しかったです。そして、同時にこう思ったんです……どうせ夢ならば何をしてもいいんじゃないかって……そう思ったら我慢できなくなってしまって、気付いたときにはいつもと同じようにしていました。でも、やっぱり足りないんですよね……いくらやっても満たされないんです。そこで思いついたのが玻璃さんのことでした。私が初めて好きになった人ですし、何より私のことを愛してくれていることがよく分かりましたから……だから、こうしてお願いしているわけですけど駄目ですか?」
その言葉を聞いた直後、俺は理解した。なぜこんなにも胸が苦しいのかということを……それは、きっと罪悪感を抱いているからだということは分かっていた。何故なら、彼女の言っていることは事実だからだ。確かに俺は彼女を愛しているし、その気持ちに嘘はない。だからこそ、彼女が望むことは可能な限り叶えてあげたいと思う反面、このまま続けていいものなのかという葛藤が生まれていた。それでも俺が悩んでいる間にも彼女は急かすように求めてくるため覚悟を決めて抱きしめて愛し合うことにしたのだった――。
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