母と観たドラえもんと容疑者Xの献身
歳をとってよかったと思う瞬間は、自分で欲しいものを買えた時。
漫画を全巻大人買いできたとき。
行くのに勇気がいる服屋さんの服をネットで買ったとき。
そして、映画館でキャラメルポップコーンを買ったとき。
この季節になると春休みの子供向けにアニメ映画を上映していたことを思い出す。
子供の頃、1つ上の兄と母と一緒にドラえもんの映画を見に行ったのが最初の映画館の思い出。
それまで明るかったデパートの中とは打って変わって、薄暗いチケット売り場は特別な場所のように感じた。
チケット売り場の隣。ビカビカと光る売店メニューのポップコーンを横目に、母に連れられ入場する。
なぜかいつも「ポップコーン食べたい」といえなかった。
予告から映画館の空気を楽しみ、いつものテレビとは違う大画面のドラえもんを堪能する。
物語中盤。序盤で仲良くなった異世界の友達がピンチになる。どうするのび太。ふと母や兄の様子が気になり、ちらりと隣を見てみる。
母は寝ていた。
こんな重大な時に!!!寝ている!!!
幼い私はこのことが忘れられず、それから映画を見に行く度に母の様子を確認するようになった。だいたい母は寝ていた。
「おかあさん、いっつも寝てる!」
そういうと母は、あははと笑っていた。
中学、高校と学年があがると友達と映画を見ることが増え、母と観ることはいつの間にかなくなった。
ただ中学生の頃1度だけ母と観に行った映画をよく覚えている。
「容疑者Xの献身」
物語が印象的ということもあるが、映画を見た後に母と感想を言い合った初めての映画だった。
私も親になり3歳の子供との生活から、当時の母の気持ちがわかってきた。
年子の幼児をワンオペで育てる日々。
家で見ておくのも気が滅入るから外に連れて出る。
降車ボタンをどっちが押すかという大人からしたらどうでもいいケンカの仲裁をしながら映画館までなんとか連れていく。
ようやく座れた子供が静かにしてくれる暗闇。
自分はそこまで興味のないアニメ映画。
毎日相当疲れていただろう。
子供に「いっつも寝てる!」と言われたとき、思いはあふれてくるけれど言葉にはできず笑ってごまかすしかなかったのかもしれない。
同じものを共有し、感想を伝えあうことができた時。
大切な人の気持ちが少し理解できた気がする時。
歳をとってよかったと思う。
これからもそう思える瞬間を増やしていきたい。
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