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抱っこして欲しい子と抱っこしてやりたい私


4月からお孫ちゃんの保育園生活が始まった。思っていた以上に大変そうだ。うちのバブ(お孫ちゃんのことをこう呼ぶことにします)は人見知りならぬ“場所見知り”、我が家に来た時も毎回「はじめまして」感を出して、最初のうちはママから離れずまずは首がどうにかなるんじゃないかぐらい家中をキョロキョロ見回す。そうしてひとしきり見回し「ここは前にも来たことがある」と分かると遊び始める。
保育園でもきっとそうなんじゃないかと予想していた。保育園が「いつもの場所」に認識されれば大丈夫。だけど、実際はそうでもないようだ。


慣らし保育”中は午前中の3〜4時間ほど預かってもらっていたが、その間ほぼ泣きっぱなしだったらしい。同じクラスの子たちと一緒に柵(サークル)の中に入れられているらしいが、それも嫌だったみたい。そこから出してもらうと少し機嫌が直って遊べる。けど、また泣く。通常慣らし保育は2週間ほどで終了なのだが、うちのバブはなかなか慣れないため慣らし保育の期間が少し延長されるかも、と言われた。そんな状態なのに、おやつの項目だけいつも◎が付いている。おやつが気に入った日はお代わりもしている。「ホントに食べることが好きなんですね」とは、先生のコメント。めちゃ笑える。


パパ、ママ、祖母(私)の一週間の日程表がLINEで送られてくる。誰がいつ送って行き、お迎えに行くのか。慣らし中は午前中で帰って来るので家でお昼寝をさせる係もあった。パパもママも学校の先生。忙しい中、なるべく私たち(祖父母)に迷惑がかからないよう努力してくれている。それでも2人ではどうしようもやりくり出来ない日がある。そこで私の出番だ。

前のバブならなんてことない守り役。だけど日常生活が変化してバブ自身がそれにまだ慣れず生活リズムが狂いっぱなしの時期の守り役は荷が重い。やれる自信がない。一体どうなることやら。


まだ、慣らし保育中のある日、ついに私の出番がやってきた。その日は、お迎えに行ったママがバブにお昼ご飯を食べさせている最中に、ママと私が交代するというトリッキーな日だった。食べてる時はおとなしいので難なくママは出発。何事もなかったかのように、ご飯を食べた後はいつものルーティン、YouTubeのお気に入り動画を流す。動画に集中していると安心していたら、時々不意に思い出したかのように他の部屋を巡ってママを探している様子。だけど泣くことはなく、すぐにまた動画や遊びに夢中になる。保育園デビューしてから泣き虫になったと聞いていただけに、私は少しホッとする。その日は保育園で少しだけお昼寝(午前中)をしたのでお昼寝はさせなくても大丈夫だとママから言われていた。何回か寝室へ連れて行ってはみるものの、やはり寝る気配はない。結局諦めてそのまま遊ばせておく。3時が過ぎたのでおやつをあげる。スナック菓子やビスケットをママが用意してくれていたので、それをおやつの容れ物に入れる。最近の容れ物は実に良く出来ている。上から手を突っ込めばお菓子を取り出せるが、容れ物が倒れても中のお菓子はこぼれない。いつもは無心に食べるが、その日は少し様子が違った。食べる速度が遅いし、時々手が止まっている。そうこうしていると不意にバブが私に抱きついてきた。「おーよしよし」と抱っこしてやると私の首に手を巻きつけ肩に顔を乗せてきた。おや?もしかするとこれは眠いのでは?

立ち上がって、しばらく抱っこしてユラユラ揺らしてやる。グズグズ泣いているがやっぱり眠そうだ。このまま寝てくれたらいいな。子守唄(私の創作)を歌いながら徐々に寝室へ向かう。寝室に入ると一瞬嫌がったが眠気には勝てない様子。ベッドの上に座ってユラユラ揺らしてみる。グズグズ言いながら肩に顔をうずめている。よしよし、可愛い、可愛いといっそう強く抱きしめてユラユラする。


そうしたら何故か涙が出てきた。こんなに小さい子が新しい環境に慣れようと頑張って緊張して疲れている。そのことが愛おしくてかわいそうで可愛いくて仕方がない。よく頑張ったねって言いながら、グズグズ泣いてるバブと一緒に私まで泣いてしまう。そのうちバブは寝てしまった。寝たら寝たでまた愛おしくて余計に泣けてくる。


バブが寝たタイミングでママに「寝たよ」とLINEした。

「最高!」
「じゃあ、もう少し仕事して帰ります」


こんな私でも、少しは役に立てたかとホッとする。ママはママで、職場復帰したばかりで大変だろうから協力出来たことが嬉しい。


私もバブの隣に横になって、寝顔を見ながら過ごす。1時間ほどしてバブが目を覚ます。いつも寝起きは悪い。またもグズグズが続く。こんな時ママは「いつものことだから」と、機嫌をとるでもなくほったらかしている。側でグズグズ言っていても、抱っこしてやろうともしない。そういう時は私が抱っこしようとしても手をはらいのけられる。ママがいる時は、私よりママ。当然である。
ママを責めてるわけじゃない。私だってそうだった。ずっと一緒にいるからこそわかる子育ての押し引き。なのにそのやり取りのたった一部分だけを見てそこを母に指摘されるとまるで私がダメなママだと言われてるみたいで反抗したくなったもんだった。今は母の気持ちも分かる。娘→妻→母→祖母。その立場になってみて初めて理解出来る気持ち。

寝起きが悪いバブをあやす。今日はママはいない。抱っこして欲しいバブと、抱っこしてやりたい私。私は思いっきり甘やかす。グズグズがおさまるまで抱っこする。重たくったって、腰が痛くたって、抱っこする。祖母というポジションはこのためだったのかと思うくらいに存分に可愛いがることが出来る至福のとき。孫から見た私は“無条件に甘やかしてくれる人”、それで良いと思った。そのポジションになりたいと思った。小さい頃の私はおばあちゃんっ子だった。母に叱られるとおばあちゃんの部屋に逃げて隠れていた。そんな私のことを母はどう思っていたのだろう。もしかしたら少し寂しく、少し腹立たしかったかも知れない。今までそんなことを考えたことはなかったのに母に対して申し訳ない気持ちが浮かんできた。私はバブでありママで、母もかつては、若いママであり祖母だった。

グズるバブを抱いたおかげで私の肩はバブの涙と鼻水でぐしょぐしょ。腰だけじゃなく腕も痛い。でもそんなの構わない。今バブには私しかいない。私はもう泣かない。泣かずにバブを抱きしめる。今バブに頼られている幸せをかみしめながら。


おーよしよし、良い子、良い子。
そうやってるうちにやっと泣きやんだ。その後しばらく、私の足と足の間に座らせて2人でYouTubeを見ていたら、やっとママが帰って来た。ママを見たら嬉しくて走り寄ると思ったが、バブはYouTubeとママを交互に見てすぐには立ち上がらない。バブと私、今日一緒に過ごした時間の重みを感じる。少しの嬉しさと、少しの申し訳なさ。また、母のことを思い出す。おばあちゃんっ子になっちゃったバブを見たらママが悲しむかも。だからバブを立ち上がらせて、ママの方へ促す。「ただいまっ。おいでっ」と言われてやっとママの胸に飛び込んだ。


「ママが帰ってきて良かったね。お利口だったね。」
私のやり方は古いのかも知れない。だけど私は少しだけ自信を持つ。この感じなら、またの守り役も頑張れる。


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