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好きな家事は料理です


結婚した当時、私は損保会社のOLだった。毎朝晩、我が家から200mほどにある旦那さんの実家に顔を出し、「行ってきます」「帰りました」と言うのが日課だった。そして帰りには大抵義母が晩ごはんのおかずを一品か二品、持たせてくれた。味付けの好みなどいろいろ言いたいところはあったものの、仕事から帰って来て一から夕食を作るのは億劫な時もあったので助かっていたのは事実。会社の近くには同級生の家があって、時々連絡をくれた。「コロッケ作ったから取りにおいで」って感じで、その同級生にも私は助けてもらっていた。
家事の中で料理は好き。私が作ったものを家族が美味しいと言って食べてくれるのが嬉しい。洗濯や掃除をしても家族が感謝してくれているかどうか、わざわざ伝えてくれたりしないからわからない。でも料理は、美味しいと口に出さなくても、文句を言わずに食べてもらえることが私を満足させる。そこが好きなのかも知れない。実母もそうだった。料理が得意な人だった。凝ったものは作らないけどいわゆるおふくろの味的なもの、実母の作る料理は美味しかった。
だからかな、長女が我が家の近くに新居を建てた時から私にはずっとやりたかったことがあった。それは長女宅の晩ごはんを作ってあげること。長女夫婦は2人とも中学校の先生だ。平日も休日も、何かと忙しい。きっと毎日の晩ごはんを作るのは大変なんじゃないか。以前その提案をしてみたら、「考えとく」と冷たくあしらわれてしまった。親の心子知らず。まあいいさ。長女が自分で出来る、やりたいというのならそれが一番。

と思っていたはずなのに、先週ふとまた同じ提案をしてしまった。「晩ごはん、作ってあげようか?」
すると長女は「メニューによる」と可愛くないことを言った。側にいた長女の旦那さんが「こら。そんなこと言うんじゃない。」と叱ってくれた。だよね。可愛くないよね。
「だって、気分じゃないものは食べたくないじゃん。何があるか連絡してくれたら、欲しい時はもらう。」
「あのさぁ、それは困るんだよ。作る量が変わるからさ。」
「だったら、1か月の献立表見せて」「そんなのあるわけないじゃん。1週間ならまだしも。」
「じゃ、1週間のでいいよ。」
「あー、でもその日の気分で作るからさ」
「ほら、やっぱり気分じゃん」
するとそれを聞いていた次女が言った。
「お母さんは、作ってあげたいんよな」
ドキっ。次女はお見通しだ。そう言われて、私は自己満足のためにゴリ押ししていただけなのかとちょっと恥ずかしくなってしまって、それ以上その話をするのはやめた。

そんなやり取りのあった翌日、長女一人で我が家に来て帰り際に「じゃ、明日から、晩ごはんよろしくお願いします」って。
「あ、食べるんだ。」
「うーん、まあ助かるし。とりあえずやってみよう。」
だろ、だろ。だから言ってあげたのに。
そんなわけで、私は念願の、長女宅の晩ごはんも作ってあげることとあいなった。私の目論見では、私が作ったものを長女が持って帰って食べるというパターンだったのだが、結局仕事帰りに我が家に寄って食べて帰るパターンになった。
これがなかなかな労力である。今まで3人分だったものが5人分になり、食器も5人分、洗い物も5人分。食後にコーヒーまで用意させられる。
あれ、あれれれれ、おかしいな。
こんなはずじゃなかったのに。
でも長女に毎日会えるし、長女の旦那さんも来て我が家で普通に晩ごはんを食べてくれるのは嬉しい。お鍋や焼き肉じゃない、おふくろの味。
私が、自分がしてもらって嬉しかったことを人にしてあげられることが嬉しい。そして長女の旦那さんの「美味しかったです」が聞きたい一心で、今日も献立を考えている。

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