シリーズものをたのしむ その3
本でも映画でもドラマでも、シリーズになっている=人気があるってことだ。しかし、人気が出る前にというか、デビュー作からシリーズを意識して書かれたものもある。例えば今村昌弘さんの『死人荘の殺人』、映画化もされご存知の方も多いと思うが、これがデビュー作。主人公の2人のキャラクターがとても良くて、単発ではもったいないと思っていたら、2作目もその2人が登場して嬉しかった。ミステリー作品には、その謎を解き明かす登場人物が必要で、その人が固定人物であれば読むほうも安心感がある。シャーロックホームズ、ポアロ、ミスマープル、金田一耕助‥。ほら、安心感。
澤村伊知/ハイブリッドホラーシリーズ
妻夫木聡さん主演で映画化された『来る』。この原作が澤村さんの『ぼきわんが、来る』だ。原作、めちゃくちゃ面白かったのに、映画はそんなにだった。それはともかく、この『ぼきわんー』に登場した記者(映画では岡田准一さん)と姉妹霊媒師(松たか子さん、小松菜々さん)が、謎を解く登場人物として他の作品にも登場する。
ホラーなので、謎を解く+怪異現象をおさめる役回り。
日本のホラーは、“見えない何か”あるいは“何かいる気配”に怯えるものが主流。そこが日本のホラーの良いところであり怖いところだ。しかし澤村さんのホラーに出てくる怪異現象を引き起こす「何か」は、バケモノの様相を呈している。例えば前述の“ぼきわん”、ぼきわんとはものすごく強くてしつこいバケモノだ。人の腕の一本や二本平気で切り落とすし、呪いのようなものが全身に回って死ぬ人もいるし、“声マネ”をして人間を騙し惑わして目的を果たす。いや、ホント恐ろしいバケモノだった。
そして、澤村さんのホラーは、日本の“何かに怯える”ホラーと、いわゆるバケモノが出てくるホラー両方を兼ね備えているので、ハイブリッドホラーと呼ばれる。
ぼきわん以降も『ずうのめ人形』『ししりばの家』『などらぎの首』と、謎解き人物が固定されていた。タイトルも、なんだかよくわからないけど、字の並びからして怖い。特に『などらぎの首』は短編集だったが、前述の記者の若い頃の話や、姉妹霊媒師の幼い頃の話が収録されていて、過去と現在が繋がるかたちになっていたのが私にはとても楽しかった。
日本のホラー作家というと有名なのは『リング』の鈴木光司氏。澤村さんもデビューしてから何かと鈴木ホラーと比較されることが多かったらしい。ならば、と逆に『リング』に寄せて書いたのが『ずうのめ人形』だ。『リング』と違って、こちらは誰かにビデオを見せたら助かる、なんてルールは無い。ホラー映画は苦手な私だが、小説なら平気で読め「面白かった」などと言っている。想像力を働かせるほうが案外その世界に没頭できるのかもしれない。ああ、だからぼきわんの映画は直接的すぎて私には合わなかったのだな。
それにしてもホラーにしろミステリーにしろ、結局一番怖いのは人間なのだ。人間の暗い心なのだ。そこが全ての根源なのが恐ろし。
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