不機嫌な私がアレを買ったわけ

その日の私は不機嫌だった。負のオーラを全開にしていた。

「みとんさん、エステ行こうや、エステ」
「え、エ‥エステ？」

義姉から誘われて断りきれずに付いて行ったエステサロン。そもそも義姉が美容に興味があること自体私にとっては初耳だった。美容にもファッションにも興味があるイメージが全く無かった。その義姉の口から“エステ”なんて、驚いた。尻込みする私に、

めちゃくちゃ気持ちいいんよ
肌が柔らかくなって
色も白くなるみたい
家で好きな時に出来るし
いいよ
いいよ
いいよ‥etc

そうですか。でもエステなあ。あんまり行きたくはないなあ。いや、その前に、待て。家で出来るとはどういうこと？

「ホームエステ。家で毎日自分でやるの」

‥てことは？

「美顔器」

び‥美顔器？！
これはヤバい。行ったらきっと断れない。いくらするのか知らないけど安いわけがない、ちゃまになんて言う？お金無いし、買ってもすぐに使わなくなるのは目に見えてるし。それに私はエステに対してトラウマがあった。社会人になったばかりの頃、同級生が勤めていたエステサロンに誘われて通っていたことがあった。その頃の私はニキビに悩まされていたのでそこを上手にくすぐられて次々と“サロンでお手入れに使うのに必要な化粧品”を買った。結構な金額になった。なかなか改善されないと「もっと頻繁に来た方が効果がある」と言われたがお化粧代とは別にその度にお手入れ代がかかる。週に一回通うのがやっと。結局大して綺麗にもなれずに通うのをやめた。そんな過去の失敗が頭をよぎった。もう無駄遣いはしたくない。エステには騙されない。そんな気持ちになった。だけど、

「私も一緒にいくし、いらんかったら断ってあげる」

義姉のこの一言で少し気持ちが楽になった。とりあえず行ってみようかと思った。いや、“そんなに言うなら一回だけ行ってあげようか”って思ったのだ。


最初っから美顔器を買う気はないし、義姉がうるさいからとりあえず来ました。その日の私は、言葉にしないまでもそのことを全身で表現しているかのような、そんな態度だった。だから私は不機嫌だった。そんな私にサロンの担当者さんは理解を示してくれた。

うん、わかるよ、わかる。お義姉さんに言われてイヤイヤ来てるんだよね。でも大丈夫。無理矢理売りつけたりしないからね。でもせっかく来てくれたんだからちゃんと試してみないともったいないからね。ここはね、お手入れがどんなものかを体験して、良かったら家でも出来ますよっていう、そのために3回無料でお試しが出来るの。1回じゃ良さを実感出来ないでしょ。家で毎日使うんだから、続けて使っていけば変わりますよって、それを実感してほしいための3回だから。だからイヤでも3回は来て。そうじゃないとお義姉さんがなんで声かけてくれたかその意味が実感出来ないと思うから。

とかなんとか、まあいろいろ言われ、そう言われても言われれば言われるほど私はますます不信感を募らせて、いつ断ろう、どうやって断ろう。そればっかり考えていた。だから実際のところ、3回体験したら断ろうと決めていた。だけど3回めとなると、さすがになんとなく自分の肌の変化は感じていた。肌が柔らかくなった気がしたし、サロンで使う薄付きのファンデーションが最初は薄すぎるのが不安でしょうがなくて帰りの車の中で自分のファンデを上塗りしていたのが、ある日そのまま家に帰って鏡を見たら「あれ？薄くても案外イケるな」に変わった。これはもしかして効果があるのかも？

とはいえでも、やっぱり断ろうと思っていた。だってお高い。約30万円。

エステに通うことを思えば安い？
肌が綺麗になれば高いお化粧品を買わなくても良くなる？
家で毎日エステサロンに通うのと同じお手入れが出来るのは価値がある？
肌が綺麗なのは嬉しいけど‥

義姉はこの美顔器を既に持っている。義姉は毎日お手入れをしている。今は、私のほうが若いし肌も綺麗だけど、10年後、20年後、美顔器を使っていた義姉と使わなかった私、果たして綺麗なのはどっちだろう？

お義姉さんだけ綺麗になるのはイヤだ

これが、私が美顔器を買ったわけです。もう20年以上前のこと。
毎日家で出来るとはいうものの根がズボラな私は休むことなくお手入れを続けていたわけではないし、そこそこ大きな物なので放っておくとすぐに物置きと化す。だけどここぞの時にはすぐにいつでもお手入れ出来るし、あの日思い切って購入したおかげで年齢のわりにはシミやシワが少ないほうなのではないかと自画自賛出来る程度には保たれていると自負している。
そんな、荷物に埋もれがちな美顔器をここ最近は絶賛使用中。ズボラな私が毎日せっせとお手入れをしている。何故かって？それは来月同窓会があるから。少しでも綺麗になって同級生に会いたいし、こういう時こそ家に美顔器がある良さを実感している。まさに今がここぞの時なのだ。

だから、買ってよかった。