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タイトル買いですが、何か?〜『地雷グリコ』読書感想文



朝日新聞には毎週土曜日に本の書評ページがあります。私の好きなページです。書評を書かれているのは多様な職業の著名人、専門的な本からエンタメ系の本まで、あらゆるジャンルの本が紹介されるのです。20名くらいいらっしゃると思います。そして年末にはまとめとして、書評を書かれている方々それぞれの“今年読んだ本のベスト3”が紹介されます。

一昨年のまとめでは3人の方がベスト3に入れていた本がありました。年間に発売される本の数、紹介される本のジャンルを考えると、誰かと“カブる”こと自体珍しい。よほど面白かったのでしょう。それは『地図と拳』でした。年末に3人のベスト3に選ばれたそれは、年が明けてすぐ第168回直木賞を受賞したのです。

‥さすがやな。
そう思いました。沢山本を読み、書評を書かれている方々が選ぶベスト本は間違いないな、と。私が本を選ぶ参考にしている『ダ・ヴィンチ』のプラチナ本や本屋大賞ノミネート作品(先日今年のノミネート作品、発表されましたね)に加え、新たな選択肢が増えたのです。
昨年末、私はワクワクしながらまとめ記事を読んでいました。私が狙うのは小説、他のジャンルは一旦無視してベスト3に上がっている小説をチェックしています。残念ながら今回は複数人からベスト3に選ばれた本はありませんでしたが、ある本のタイトルを見て、私はそのタイトルに釘付けになったのです。書評を読むには読んだのですがほとんど覚えていません。何故なら私は、タイトルだけで、タイトルを見ただけで、もうその本を買うことを決めていたからです。

『地雷グリコ』/青崎有吾

タイトルのインパクトだけで
購入決定!

射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。

KADOKAWAオフィシャルサイトより

小さい頃よくやった、じゃんけん“グリコ”。あれのこと、何て呼んでました?私はただ、「グリコ」って呼んでた気がする。主には階段で、じゃんけんをしてグーで勝ったら「グリコ」と3段、チョキで勝ったら「チヨコレイト」で6段、パーなら「パイナツプル」で6段進めるってやつ。たまに、ゴールはピッタリの数じゃないとダメっていうルールを作って、ピッタリじゃない時は折り返したりしてたなあ。
この、グリコみたいな、誰でも一度はやったことこある単純な遊びにちょっとしたアレンジを加えただけで、めちゃくちゃ頭を使う複雑なゲームになるんですよ。ルール説明の段階から情報を集め、相手の性格から相手の出方を予想し、カマをかけたり騙したり、こんなに面白い心理戦になるなんてその発想に感嘆しました。簡単なゲームだからこその感嘆。あ、うまいこと言えた。

例えばグリコは、進める数が3文字と6文字しかない、地雷を踏んだら10段下がる、ここがミソなんです。私みたいな素人が予想出来る作戦は全く意味がなかったってことを痛感させられてもなんだか気持ちいい。圧倒的な才能の前では悔しさなんて感じない、ただただ感嘆。
私は複雑なことは覚えておけないからメモをとりながら読んでいくと、ちゃんとそれをまとめてくれているページが後から出てきたりして、「わぁ、親切〜」なんて思いながら、これを頭の中でサッと整理して作戦を練られる主人公の賢さ、勝負強さに感嘆。もう、とにかく面白かったです。

サブキャラたちもとても良い。出てくるほとんどはスーパー高校生ともいえる子たちだけど、実際にゲームをやっている真兎ちゃんを見守っている吟味役というか説明役みたいな子がいてくれるのは頼もしいし、今、何が進行していてそれの何が(どこが)すごいのかを教えてくれるから助かります。安心です。
言葉の意味って受け止め方(とり方)によってものすごく広い意味になるんですね。ある意味想像力も必要。私のような硬い頭じゃ言葉そのままの意味にしか考えられないから、絶対負けちゃう。簡単なゲームとはいえ、勝ちを運に任せてる場合じゃないんですよ。絶対勝たなきゃいけないというプレッシャーにも勝たなきゃいけないし、ゲームにも勝たなきゃいけないわけです。

だから言葉ひとつも無駄にしない。そこにある“隙”に気づいて、その隙を自分に有利に解釈し、させる。そうやって周りを巻き込んでいく力も必要。
相手だって手強いです。章が進むにつれゲームも、そこに賭けるモノ(褒賞)もどんどん大きくなってくる。ちょっと怖いくらいに、です。映画になるたびに事件が大きく危険になっていく『名探偵コナン』ばりです。
真兎ちゃんの勝ち方は常にゼロか100の、100狙いなんで。だから、勝った時は読んでる私たちも気持ち良い。まるで『半沢直樹』を観てた時みたいに、

「そうきたかー」
「その手があったかー」
「それもアリなんかー」

って感じで。感心、感銘、喝采。

あんまり書くとこれから読む方に申し訳ない。つまんなくなっちゃいますもんね。結末を知らずに楽しんで欲しい本です。
でもひとつだけ。こんだけすごいバトルを繰り広げた真兎ちゃんも素顔は友達思いの可愛らしい女子高生。そんな真兎ちゃんたちにホッとする結末、悪くない。


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