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出会いについて。

「ねぇ、僕には悩みがあるんだよ。多分、割りに馬鹿げたやつが」

言葉は薄暗い部屋に飲まれる。
カーテンから僅かばかりの灰色の陽が滲み出ている。
この光の感じ、外は曇天だろうか。

悩みというのはつまり、僕には悩みを聞いてくれる女の子がいないことだった。
真剣に。
よくよく考えなくとも、一般的に大学生は、日夜男女が集う飲み会に繰り出すものではないか?

そうでなくとも、女友達の1人や2人いてもいいと思う(前日に集合をかけて集まれるタイプが好ましい)。
何も、僕にとって100%の女の子でなければならないわけでない。

部屋にこもって、青白い光に目を痛める。
生命維持に必要な諸行動を行う。
あとの全行為は自分を堕落に引きずり落とすことに費やす。
僕のルーティン。
贔屓目に見ても、この生活習慣は自宅警備員ではないか。

たまには外に出て、綺麗な女の子がいるカフェにでも行って、具象的なカフェラテといちごのタルトを注文してもいいだろう。
カフェラテを運ぶ半透明で儚げな女の子に、砂糖の必要性について説いても差し支えはないだろう。

僕の隣の席に着く、ロングとショートの女の子2人の何か象徴みたいな話に少しくらい興味を抱いても、別に咎められないだろう。
だって、聞こえるってもんじゃない声量で話しているんだから。
もしくは、僕に聞こえるようにわざわざ声量を上げているのかも知れない。
聞く耳を立てたところで、〇〇君と□□ちゃんが付き合ってるとかそうでないとか聞こえるだけ。
僕には○と□が何を表す記号かすらもわからないのだから。

カフェで撮った写真を母猿が小猿の毛繕いをするみたいに加工してSNSに投稿する。
そもそもネットの世界は仮想なのであって、現実の何物も正確に写し取ってはいないのだ。
なのに、出会い系アプリでマッチしたところでSNSの連絡先すら交換できない。
いや、逆説的にネットの世界は現実世界の完全な写しなのか?
だから、現実世界で出会えない僕は、出会い系アプリでも出会えないのだろうか…?

冷め切ったカフェラテと硬くなってしまったタルトを平らげて、カフェを出る。

(冷めても、硬くなってしまってもとてもおいしかった。またここでお茶をしようと思う)

最寄りの蔵前駅ではなく、少しばかり歩く必要のある浅草駅に向かう。
大江戸線のホームに着くと、申し合わせたみたいに電車が僕を招き入れた。
席に座ると足元のヒーターで生暖かい。ぼーっとした頭の中で段々と夢と現実が溶け出す。
その二つは完全に混ざり合って、不可逆となる。
電車は押上を通過する。
あまりにも大きいから、スカイツリーのその姿は足元からは見えない。

(単純に地下鉄)

出会い系アプリの位置情報を現在位置から東京都新宿区に変更する。
これで僕は東京都新宿区にいることになる。
ネットは現実を正しく写した場ではない。
時間はまっすぐに、熱力学第二法則に従って流れていく。

自宅の最寄り駅に着く。
ロータリーのセブンイレブンで梅おかかおにぎりを買って、帰路で食べる。
鼠色の野良猫が怯えた様子で僕を見つめた。
僕は猫と極力目を合わせないようにその場をやり過ごす。

家の玄関の前に立ち、カバンをあさって鍵を取り出す。
そして、ガチャリと家に入る。
石油ストーブのスイッチを入れる。
ウォンウォンと唸りながら、徐々に暖かい空気を部屋に送り出している。
僕はストーブの送風口に体を漸近させる。
厚い雲に阻まれ、苦しみながらも進んでくる陽。
ガラスに付着している細かい埃を輝かせながら、部屋の中に入り込んでくる。
部屋にふわふわと舞う埃が、その陽を乱反射させる。
天使の降臨みたいに。
僕は啓示を聴き漏らさぬよう、耳を澄ませる。
しかし、聞こえてくるのはストーブの唸りのみだった。


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