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大切なのは、発想法ではなく、「発想状態」。

ある専門分野を横からのぞきこむと、「へぇ、じつはそうなんだ」と、外の世界では知られていない事実や真実が見えてくることがあります。ぼくの場合は、仕事柄、クリエイティビティやものづくりに関する“その手の発見”が多いのですが、ことクリエイティブな業界・仕事に関して、これは本当に世の中でしっかり認識されていないんだなと、よく思うのはつぎのことです。

発想法をつかっているクリエイターは、ほぼいない──。

本や雑誌では「発想」「アイディア」がテーマとなると、なにかしらの発想法やメソッドのようなものが、当然の答えのように語られます。でも実際に、発想のエキスパートであり、アイディアのプロであるクリエイターたちが課題について考えている姿を見ていると、ほとんどの人は、そのたぐいの方法論のようなものを用いてはいません。

もちろん、彼らなりに課題を追いつめていくプロセスのようなものはあるし、スタイルや作法もあるのですが、肝心の発想の部分に「材料を入れれば答えが出てくる」という便利なしかけのようなものはまずなく、ありていにいえば、みんなふつうにアタマをつかって考えて、ふつうに悩んで答えを出しています。

じゃあ、発想の工夫はなにもないのか──というと、そうでもない。

そのカギのひとつが「アタマの状態」への気づかいです。
クリエイターと呼ばれる人たちに接していると、優秀な人ほど、いつも自分の「アタマの状態」を気にして行動していることに気づかされます。

たとえば、ベストセラー『広告コピーってこう書くんだ!読本』の著者で、コピーライターの谷山雅計さんは「(翌日の思考のクオリティが下がるから)自分はぜったいに徹夜をしない」とよくおっしゃっています。

数々の伝説的なCMを手がけたクリエイティブディレクターの岡康道さんは、以前インタビューしたときに、「(ネガティブな気持ちだといいアイディアが出ないから、考えるときは)いやなことから徹底的に逃げる」とおっしゃっていました。

あるいは、これは『ささるアイディア。』という本にも書いたことですが、『自遊人』編集長の岩佐十良さんは、温泉に長く入ることで打算や計算に引きずられがちな自分を“武装解除”して、発想が本質的になるようにもっていくと語っています。

ほかにも、モノの動きがあるほうがアタマが働きやすいから(人の行き来がある)カフェで考えることにしている、言葉の刺激で思考が進むから人と話しながら考えるなど、近い例は枚挙にいとまがないのですが、いずれも気にしているのは「発想の方法論」ではなく、「発想しやすい、思考が進みやすいアタマの状態」をつくることです。

要するに、クリエイティビティは、スキルではなく、その人の状態だということ。いい状態になっているから思考が進むのだし、いい状態だからいい発想が生まれる。ほんとうに大切なのは、発想法よりも、「発想状態」のほうなのです。

(ちなみに、ぼく自身もアタマを使ってナンボの仕事ですから、「発想状態」を鈍らせない、にごらせないために「昼食をとらない」など、自分なりの決めごとをいくつか設けています)。

気をつけておきたいのは、先ほどあげた人たちのそれぞれの「発想状態づくり」は、だれにでもあてはまるものではないということ。

いちばんのポイントは、あくまで自分のアタマがどういうときに働くか、冴えるかを知って、それを維持したり、刺激したりするところにあります。アタマは人によってひとりひとりちがうわけですから、自分のアタマのクセをちゃんとわきまえて、自分に合った「発想状態づくり」を心がける必要があるということです。

 

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