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読書:『乾いた人びと』グラシリアノ・ハーモス

書名:乾いた人びと
著者:グラシリアノ・ハーモス
訳者:高橋都彦
出版社:水声社
発行日:2022/02
http://www.suiseisha.net/blog/?p=15957

 乾いた荒野を歩いていく家族。どうやら雇われていた牧場主から黙って離れ、安息の地を探す旅に出たらしい。やがて町を見つけ、そこで新しく雇われて一家は生活を始める。とはいえ、生活は楽にはならない。
 雇い主からは搾取される。警官には理不尽な理由で殴られ、留置さえされる。新調するシャツは、生地をケチったせいで最初からつぎはぎだらけ。ベッドは木材が腰に固く当たって痛く、疲れ果てた状態でなければ満足に眠れない。

 そんな困窮一家の話が、13の連作短篇の形で描かれる。風景描写よりは心理描写が中心。ただでさえ暗い小説なのだけど、そのせいか、ますます暗鬱な印象を受ける。
 正直言って、読んで楽しい小説ではなかった。面白いかどうかも微妙。読みやすい作品なのだけど、読めば読むほど憂鬱になり、先を読みたいという気にはあまりなれなかった。
 しかし傑作と言われているわけはわかる。ことのこの作品が書かれた社会的背景を理解すると。

 印象に残るのは、やはり、犬のバレイアの章だ。
 実はこれが最初に書かれた「短篇」であり、この話を補うようにほかの話が書かれたのだという。
 家族に尽くしてもまったく報われず、そしてひどい死に方をしてしまう犬のバレイアは、ある意味で、この時代、この国に生きた人々の象徴とも言えそうだ。
 事実、バレイアはこの一家の頭の中でいつまでも住みつき続ける。最後には、自分もやがてバレイアのようになってしまう、と一家の男はおびえながら思う。
 そうしてまた、ここまで読んだ読者は、バレイアが最期の瞬間にどのようなものを見たかに思いを馳せるべきなのだろう。

 

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