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第7回「“この仕事を辞める”ということ」

みなさん、こんにちは。
キャリアコンサルタントの糸井です。
 
突然「重っ!」という感じですが、この仕事を生業にしていると、様々な方のこのテーマを目にします。
誰でも必ず1度は考えるのではないでしょうか。
 
この仕事を辞めるかどうかを考えるというのは一つの転機であり、不安やストレスなど様々なものが圧し掛かってきます(よろしければ本コラム第5回「転機を考える」も併せお読みくださいますと幸いです)。私も、転職者でありますから、過去、心身共に大変つらい経験がありました。
 
とは言え、最近は売手市場で転職しやすい状況にあり、人に依っては不安はないのかもしれません。

経験者採用を行っていると「もう〇月〇日で退職を予定しています」「既に離職済みです」という方も結構見られるようになりました(本稿執筆の2024年5月時点)。次を決めずして辞めるということに、生活など不安ないのかなあ~という意見も聞かれますが、それもまた、時代背景であったり、個人の考え方なのだろうと思います。
 
さて、仕事を辞めるかどうかという岐路に立った方からのご相談をこれまで色々とお受けしてきましたが、私の場合は特に転職を初めて考えるという方を多く目にしてきました。
そう考えるに至った理由は様々ですが、今の仕事に対する不満や将来への不安を挙げられることが多いのが実態でもあります。


 実はここ、結構怖かったりします。
 
この不満や不安というのは、何らか対人関係が起因しているパターンが大半であって、感情論が先走る傾向が強いからです。
 
結論からのようですが、感情論で辞めるか辞めないかを選択してはいけません。冷静に考えてみましょう。
 
「隣の芝は青い」という言葉がありますが、そんなことはありません。
現状脱却に走るのは、原因論に帰着した考えであり、将来に向かってプラスにはなりません。
 

持論を展開させていただく形で恐縮ですが、今の仕事を続けるも辞めるも、大切なのは職業を通じた人生の目的を明確化し続けることにあります。その上で、辞める判断をするならば「二度とこの会社に戻らない」という覚悟ができているかどうかを今一度自身に問うていただき、「Yes」と絶対に言い切れる(更に言えば、その理由を合理的に周囲に説明できるレベルであること)状態に持っていくことが重要と考えます。
「転職すれば何かが良くなる」というシンプルな考え方は採用市場が売手だろうが買手だろうが関係なく危険であると私は思っております。

 
人はそれぞれに有する能力、興味関心事、価値を感じるものが異なっていることを今一度考えたいところです。他者にとって良い仕事であっても、自分に合わないこともあれば、自分にとって良い仕事が、他者にとって良い仕事にはならないことは往々にしてあります。
つまり、他者は関係ありません。比較は意味がありません。繰り返しますが、「自分がどうなのか」という目的を明確にすることです。それが現職なのか、転職なのかの選択において正しい指標になります。
 
 
もう1点、自身がその職業を通じて実現したいことが明確である場合は除きますが、漠然と起きてもいないことに不安を抱えて辞める(もっと言えば、その観点を持って業界や職種すら変えようとする)判断をしたり、目指そうとしている分野が現実的に実現可能かどうかをしっかりと把握、計画せずに辞めようとすることです。
 
まとめますと、

です。
 
また、これらを踏まえて進路を考えていく上で、プラスアルファとなる大切なエッセンスがあります。
それは、過去の経験に意味付けをほどこし、自分をしっかりと理解することだと私は考えます。
 
過去の経験そのものに意味はなく、また今を起点に戻ることができない以上は「無かったもの」に等しい一方、過去の経験を自身でどう意味付けし、今の生き方と考え方に繋げていくかは、非常に重要です。
 
「は?何言ってんの?」
 
まあ、そう言わずに・・・
 
私の経験談となり恐縮ですが、過去の経験の意味付けの重要性を少しでもご理解いただくために、ある転職者の方の例を挙げます。


大学卒業後、IT業界の営業として長く勤務されておられましたが、年齢やライフイベントを機に、業界を変えて転職。しかしながら上手くいかず、数ヶ月でまたIT業界に戻る試みをされた方がおられました。
業界を変えた1回目の転職を「浅はか」だったと仰られ、実際に幾つかの企業からは手厳しい評価を受けられてしまったようですが、ここでも私はその過去の選択の意味付けをどうしていくかをお話しました。これは私自身も近しい経験があったことも功を奏したのかもしれませんが、結果的に「(他業界に行ってみたことで)IT業界こそが自分の活躍できる場であると気付けた経験である」と意味付ければ、短期の再転職は前に向かっていく原動力と捉えることができるということです。結果、そう考えられたその方は、見事にIT業界に戻り、現在は周囲から優秀人材と評され、ご活躍されておられます。
 
 
少し異なる視点にはなりますが、過去の経験の意味付けによって前に進むことができた事例として、就職活動を向かえた大学生の件も挙げさせていただきたいと思います。

その方のご希望で、キャリアカウンセリングをお受けしました。
ご本人は学業以外にアルバイトしか行っていなかったそうですが、アルバイトを転々と複数渡り歩かれていた経験をお待ちで、「次から次へとアルバイトを変えている自分は企業から定着しない人物であるとマイナス評価になるのでないかと不安である。どうすれば良いのか。」と仰っていました。
カウンセリングの結果として・・・ご本人はコミュニケーションに自信がなかったそれまでの自分を変えるためにアルバイトに臨んでいたこと、実際それらはすべて対人折衝が求められる内容であったことが分かりました。更に、それらの経験を一緒に検証していく内に、実は1つ1つのアルバイトは、連続した自身の成長プロセスにつながる選択であったことと気づかれ(意味付けし)、決して「定着しない」とか「飽きやすい」ということではないということが分かったのです。カウンセリングを通じてその経験の合理性に自信を持たれ、就職面接に臨んだ結果、見事内定となりました。
過去のアルバイトそのものだけに目を向けていると気付けなかったものが、その経験の意味付けを通じて「成長」という全く違った角度で見ることができ、前進することに繋がった貴重な例です。
 
 
繰り返しますが、過去に戻ることはできませんので、起きた経験(事実)そのものは今の自分には関係ありません。大切なことは、過去の経験を自分自身で意味付けることです。それこそが今とこれからを生きるために、重要になってくるということです。
 
“この仕事を辞める”ということ。もう少し考えてみませんか?


~Profile~
キャリアコンサルタント/ミツイワ株式会社 人財開発部 人財開発課長
糸井 圭吾(Keigo Itoi)
学習院大学 経済学部卒。外資系IT企業入社後、大手銀行向けSEを経験。
その後、外資系並びに国内系IT企業において人事職に転身し、企業制度
設計、評価システム導入、採用、人材教育等、人事業務全般に携わる。
2016年7月ミツイワ株式会社入社。人財開発部にて採用並びに教育責任者として現在に至る。
主な有資格は国家資格キャリアコンサルタント、キャリアデベロップメントアドバイザー、行動心理士、メンタルヘルスマネジメント など。

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