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【映画紹介・感想語り】可愛くてすったもんだな大人たち『プラダを着た悪魔』

 2006年公開、「悪魔のような上司」というキャッチーな触れ込みで話題を呼んだアメリカン・コメディの有名タイトル『プラダを着た悪魔』。

悪魔が思っていたよりだいぶ悪魔だった。

でもそれが見たかったからヨシ!!!


 いやー豪華豪華! あらゆるものが!
 ファッションがテーマということもあって、約一億円かけてふんだんに贅を凝らした衣装の煌びやかさも豪華なら、悪魔な上司(ミランダ)が吹っ掛けてくる無茶振りの無茶っぷりも豪華豪華!
 「娘たちのためにハリー・ポッターの新作(未☆発☆表)を四時間後までに用意しなさい」というのが、ミランダの数々の無茶振りの中でもダントツに最悪な例である。う~ん、このどう考えても無理難題な上、仕事とプライベートをダイナミックに混同していく傍若無人スタイル。私の内なるM心にキく(そんな心あったの?)。

 もちろんこの映画は、このミランダの清々しい悪魔っぷりが売りなのだが、他のキャラクターたちもミランダの強烈さに負けず劣らず個性的で好感が持てて大好きだ。
 最初は身なりに無頓着だったが劇中でどんどん華やかになっていく主人公、ツンツンツンツンツン(デレ)くらいのノリで仕事を教えてくれる先輩お姉さん、主人公にコーディネートしてくれる知的なメガネのスキンヘッドおじさん(推し)、優しく理解があるが容赦ない時は容赦ない料理上手な彼氏、賑やかな友人たち……。

 一人ひとり好きポイントを書いていきたいが、一応観ていない方に向けて、まずは私の雑な印象によるあらすじを語らせてもらうぜ―—!

あらすじ

 ファッションにまったく興味がないインテリ真面目ちゃん・アンディことアンドレアは、ジャーナリストを目指してニューヨークにやって来たが、なぜか超有名ファッション雑誌『ランウェイ』の面接に受かり、編集長のアシスタントとなる。しかし、そこの伝説的なカリスマ編集長ミランダは、冷血非道で横暴横柄、とんでもない無茶振りを吹っ掛けてアンディをこき使う。
 しかしこの『ランウェイ』で一年でも働いた経歴があれば、どこの出版社に行っても通用するという黄金の切符になるらしい。一年居座ればこちらの勝ち、見ていなさい悪魔め、この華やかで過酷なファッション界を乗り切ってやるんだから―—!

 と、とってもパワフルでアーバン・ライフなお仕事コメディ。
 この映画は、
○悪魔みたいな上司にめちゃくちゃなこと言われたい人(Mの心……!)
○ブランド物たっぷりな豪華な衣装で目の保養をしたい人
○なんかめちゃくちゃ仕事してる人の姿を見てめちゃくちゃ仕事してる気分になりたい人(もれなく「仕事とプライベートの両立とは……」みたいな悩み付き!)
 あたりにオススメなんじゃないかと思います。

※ここからネタバレあり※


 それでは、各キャラクターの好きポイントをつらつら語っていくぜ!

アンディ(アンドレア)

 演じるのはアン・ハサウェイ。役者さんのことは何も知らない私でも名前を聞いたことがあるくらいのビッグネーム。
 そして綺麗。スレンダーなスタイルもバッチリ。なのに「ダサくて太り気味なガリ勉真面目ちゃん」という役をやっているせいで、こんな完璧なプロポーションの美人がどうしようもないだの太ってるだのすごい言われるので脳がバグる。太ってなんて一ミリもないですけど??? あと太っていてなおかつ美しい人だってごまんといますけど??? スレンダー体型至上主義な『ランウェイ』のオフィスに渡辺直美さんが表紙の雑誌送り付けてやろうか!!!

 性格については、真面目で根性のある人だけど、どうも優柔不断なせいで色々ドツボにハマりかけていた印象。たぶん、なまじどんな仕事でも「やってみたら出来ちゃう」優秀さがあるせいで、本当は興味なかったはずの界隈にどんどん引っ張られて染まっていっちゃうところが「あ~、真面目な人にあるある~」って感じだ。
 まあ、いくら興味ないって言ったってファッション誌に雇われたからには「ドルチェ&ガッバーナ」ぐらいは知っといた方がいいし(「ガッバーナのスペルは何ですか?」って尋ねて電話ガチャ切りされるところ笑った)、最初はファッションを若干馬鹿にしていたアンディがどんどんセンスを磨いて綺麗になっていくのはとても良かった(最初のモサい服装でもアン・ハサウェイは美人だけどな!)けど、なんだかんだ言ってアンディの最終目標は「(おそらく硬派めな)ジャーナリストになる」ことである訳で。
 『ランウェイ』は足がかり、と言いつつどんどん上の命令や周りの環境に流されて、自分にとって何が大事なのか分からなくなり、彼氏や友だちとズレてっちゃうのが悲しかった……。

 彼氏さんも友だちも、アンディがファッション誌に勤めてオシャレにいきいきと変貌していくこと自体は嫌じゃなかったのだと思う。忙しすぎて付き合いが悪くなっても、全然受け入れてくれてたっぽいし。
 ただ、アンディが「この仕事は足がかりでしかない、ファッションに興味はないし上司は最悪だし」って愚痴をこぼしながら、あまりに上司と仕事(と、すぐ言い寄ってくるあのセクシー男)に振り回されてるもんだから、「その最悪な上司よりも自分たちは優先順位が下なの? 貴女の気持ちは今どこにあるの?」ってなっちゃう気持ちは分かるなあ。
 本当はずっとアンディは彼氏と友人たちのことを気にかけているんだけど、それは仕事を頑張って早く抜けようとする(そして失敗)とか見えないところでだから、本人たちには伝わってないんだろう。コミュニケーションって大事だな……。

 真面目で優秀だけど不器用でけっこう隙だらけ。美点も欠点もひっくるめて主人公にふさわしいキャラクター。アンディの新しいキャリアに幸あれ! あとお友だちとも仲直りしてね!

ミランダ

 言わずもがな悪魔。
 でもそれでいい。それがいい。
 
白髪の美しい激オシャレおばさま。血も涙もない、と思いきや一瞬だけ「結局私はひとりなんだわ……」と鬼の目にも涙を見せてくれた、かと思ったら忠実な部下のナイジェルさんを踏みつけにしてでも自分の地位を手放さないという、やっぱり血も涙もないお方。
 中途半端に痛い目を見ることも改心することもなく、本当に徹頭徹尾悪辣な強キャラであり続けてくれたのが痛快。一昔前の男性社会において過酷な生存競争を生き抜いたバリキャリ(死語)の悪魔的進化バージョンかと思いきや、アシスタントに振る指示にさらりと「元夫に連絡して、その後は今の夫とのディナーの場所をおさえといて」「娘たちの忘れ物を学校に取りに行って」と盛大に公私混同してくるパワハラぶりが理不尽すぎる。大変よい。

 もちろん理不尽なだけじゃなくて、セルリアンブルーの歴史をすらすら語るくだりとか、仕事の力量で黙らせるプロの腕を見せつけられてしびれた。
 いやー、私もアンディと一緒で「全裸で歩いて逮捕されないためだけに服着てま~す、へへへへ」というスタンスで生きている人間ですが(アンディはそんなこと言ってない)、コテンパンにやられましたとも。なるほどー、安い店で適当に選んだ服でも、それだって元をたどればファッション界の仕事の上に出来たものなんだ。私の全裸を守ってくれているのはミランダだった……?(トゥンク)

 仕事に身を入れ過ぎて離婚されてしまう、バリバリに仕事をしたい女性の悲哀みたいなものも体現しているミランダさんだけど、「正直この人、双子の娘以外に愛情をかけている相手なんておるんか?」という疑惑が浮上する。これほどドライでクールな女性が実は夫のことをすごく愛していて離婚に取り乱す、なんてギャップなら心置きなく萌えますが(萌える)、二度目の結婚は「娘たちに父親が欲しい」って動機だけだった可能性あるような。アンディを最初エミリーと呼んでたみたいに、二人目の夫を元夫の名前で呼んで代替品扱いしたこともあったのでは? あっそれも萌える(萌える)。
 でも考えたら、先に書いたように「夫とのディナーを用意しておいて」と指示を出しているくらいだから、ミランダなりに夫婦関係を円満にする努力はしていたわけだ。となると、これは夫さん側も力量不足だったのかな。ミランダの伴侶になれる器を持つ人もなかなかいなさそうなのが寂しいが。
 強すぎるが故の孤独……もはや悪魔を超えて魔王みたいだ……。

 結局、弱みを見せない、本音を見せない、だからこその凄みと少しの悲哀をにじませている底知れなさがこの人の魅力なわけで、本心は誰にも分からないのがよいのだ。
 悪魔ことミランダ編集長にバンザイ! ただしナイジェルおじさまにした仕打ちのことはちょっと許せないので体育館裏で話し合いましょうか。

ネイト

 優しく理解があるが、容赦ない時は容赦ないボーイフレンド。
 こういう仕事とプライベートの板挟みで苦しむ女性主人公ものの話だと、時として主人公の彼氏が「女性なんだからさ、そんなにバリバリ働くこと無いんじゃない(笑)」タイプのジェンダーバイアス系クズか、「そんなすごい仕事してんなら金くれよ。あと忙しくてもちゃんと料理出してくれるよな?」タイプのヒモ(not主夫)系クズに描かれがちだったりもするけれど、このネイトさんは普通に良い人、良い彼氏さんだからこそ、アンディの優柔不断さとか頼りなさが目立つ。

 料理人として自分も目標を持って頑張るかたわら、急にすごく忙しくなったアンディに暖かいご飯を作ってくれるし、愚痴も聞いてくれる。快活でユーモアもあり、取り繕うこともなく素直で、ややモサくても気のいい彼氏。
 でも、別に「彼女のために全部尽くす」彼氏ではないし、嫌だと思うことがあれば言う。「待って」と言っても待ってくれない。
 そりゃ、カップルの破局の危機に、いつも愚痴ってる鬼上司から電話が来て「今プライベートが大変なんで待ってください!」って一言逆らうことも出来ない彼女じゃ情けないよなぁ……(たぶんミランダに逆らったらクビだけども……)。

 おそらく、ネイトがもっともっと優しくて理解があれば、アンディの事情を慮って、誕生日のディナーに遅れて真夜中に帰ってきても「分かってるよ」とニコニコ迎えてくれただろうし、積極的にコミュニケーションするなりケアするなりしてくれたのだろう。もしかしたら一昔前、激務の夫の帰りを健気に待つ妻とかがやってくれていたように。
 だけど、ネイトにも仕事や目標があるし、アンディを愛しているけれど彼女が人生のすべてなんてことは無いし、普通に感情があるし、普通に愛想も尽かす。
 ファッションに目覚め、新たな自分の可能性を開拓していくアンディに対して「前の君の方が好きだった」と言うのは「理解がない」発言かもしれないが、たぶんネイトが嫌だったのはどっちつかずなアンディの態度の方で、ブランドのギラギラな服を着るようになったこと自体ではないと私は思う。
感じた違和感をちゃんと言葉にして伝えてくれて、「俺のために元のお前に戻れ」と押し付けることはせず、自分がアンディから離れることを選んだネイトはむしろ誠実でもある。

 だからやっぱり、優しいけど容赦ない。誕生日の夜に暗い部屋でひとりで待ってて、アンディがおずおずと差し出すカップケーキ食べてくれない場面のひりひり感、個人的には好きです。
 う~ん、どっちつかずと両立って違うんだろうなー。仕事かプライベートか、女性ばかりが二者択一を迫られがちだった経緯があるから、このテーマは今でもホットな訳だけど、アンディとネイトのカップルに関してはコミュニケーション不足……と、ミランダの時間外労働が諸悪の根源だと思う。娘の理科の宿題をアンディにやらせるのはやめよ???

エミリー

 嫌味と皮肉を欠かさないが、新人いびりみたいなことはせず、ちゃんと聞いたら普通に仕事を教えてくれてるツンが強めなツン(デレ)先輩。
 どっちつかずな感じでひょっこり『ランウェイ』に来ちゃったアンディに対して、エミリーは目標もめちゃくちゃしっかりしてて、パリに行くためにものすごく努力している野心家なのがいじらしくて可愛い。
「I love this job, I love this job, I love this job……(私はこの仕事が好き、私はこの仕事が好き、私はこの仕事が好き)」と自分に言い聞かせながら風邪を押して頑張っているシーンが好き。社畜極めてるエミリー先輩のデスクにそっとコーヒーを置いていく後輩ポジになりたい。

 ただこういうキャラは、いじらしくて可愛いが故に不憫な役回りになりがちなのだ。
 案の定、エミリー先輩は割を食ってしまったわけだけれど、アンディに「ファッションに興味ないですみたなスタンスのあんたが私の夢を横取りしていくなんてどういうこと! ムカつく!」とキレつつも、やっぱり嫌がらせとかドロドロした嫉妬とか陰湿なことは一切しないところがこの人の良いところ。最後のアンディとのやり取りもザ・ツンデレで大変よかった。
 タフだし努力家だし、不憫な目に遭っても、エミリー先輩みたいな人は自力で這い上がれそう。だからこそ応援したくなるのが人の情。くじけるなエミリー先輩! パリコレが貴女を待っている!

ナイジェル

 推し。大好き。全力で報われてほしい。
 
女性比率が高くなりがちなファッション誌の編集部において、ミランダに公然と実力を認められ「完璧な企画ね」と褒められる唯一の中堅男性社員。(あれ、外国の人の年齢を推測するの苦手なんだけど、ナイジェルさんっておじさまであってる……よね?)
 メガネにスキンヘッドというイカつくも知性的ないでたちに、「それは僕の仕事じゃないな」と素っ気ないようでアンディのコーディネートをしてくれる面倒見のよさ、『ランウェイ』の大黒柱としての確かな腕と、どっしり構えた包容力。好き。エミリーがツンデレなら、ナイジェルおじさまはクーデレ寄り。

 そんないかにも「大人の男性」な魅力を振りまいているナイジェルだが、彼が語る「六人兄弟で育ち、ただ一人サッカー部だと嘘をついて裁縫部に入り、毛布の中でこっそり『ランウェイ』に見入った」という過去の話が愛おしくて愛おしくて……!
 いくら男女の境が社会的に取り払われてきていると言っても、女性が男性中心の職場に参入する時にぶつかったのと同じくらい高い壁に、男性が女性中心(と言われがち)な仕事に興味関心を持つ時にもぶつかる訳で。
 親兄弟から「ファッションなんて”男らしくない”ものに興味を持つな!」と押さえつけられていたのか、もしくはナイジェルさん自身が「ファッション好きなんて言ったら周りに馬鹿にされるかも……」と隠していたのかは分からないが、いずれにせよ周囲からの抑圧は感じていたのだろうと思う。

 それでもなお、嘘ついてでも裁縫部に入るガッツ、隠れてでもファッション雑誌を手放さない情熱、それらを捨てないで十八歳でファッション業界に飛び込み、今では超一流雑誌『ランウェイ』で確固たる地位を築いているという経歴……。
 あ~~~~~ッ、超カッコいいーーーーー!!! ナイジェル兄貴!!!

 そんな冷静沈着、大人なナイジェルが、ビッグプロジェクトの責任者に推薦されることになって柄にもなく大喜びしているシーンが本当に大好きだ。
 「何百万人の女の子たちの憧れ」である最高の仕事を、ナイジェルという中年に入りかけのおじさんが、今までの貢献と実績で手に入れる流れがめちゃくちゃいいじゃないですか。
 「ああもうめちゃくちゃ興奮してる! この僕が責任者だ!」とハシャぐナイジェルと、それを祝福するアンディがお酒を飲みかわしてる場面、この映画で一番グッときた所だった。アンディが自分でコーディネートできるようになってて「もう僕はお役御免だな」と成長を嬉しそうにしているのも、「背中の方も見せてくれ」ってアンディをくるくるしてるのも、ただただ可愛い。一歩間違えばセクハラになりかねないかもだけど、まさに信頼関係があるから許されるこの距離感。おじさんと若い女の子が仕事仲間としてキャッキャと仲良く互いを祝福しあうの最高じゃないですか! ねえ!!!

 だからミランダ、ちょっとあの仕打ちは無いんじゃない?!?!?!

 あんな!!! 素敵なおじさんに期待をたっぷり持たせておいて、自分の保身のために犠牲にするとか!!! 裏切られてなおナイジェルは「いつか報われるさ」って自分に言い聞かせて、まだ貴女に忠誠を尽くそうとしているんですよ?!?!?! それはひとえにナイジェルが少年時代、毛布の中でこっそり読んだ『ランウェイ』誌のブランドを築き上げた貴女への尊敬があるからだと思いますが(推測だけど)?!?!?! ねえ!!! 映画の最後まではっきりナイジェルが報われたシーン無かったんだけど!!!!!

 エミリーは多少不憫な目に遭っても、まだ若いしタフだしバリバリ野心家だし、ミランダに認められなかったとしても自力で這い上がれそうな明るい希望がある。
 でもナイジェルに関しては、ミランダもはや手放す気ないのでは??? なまじ有能だから??? 飼い殺しですか??? えっやめて???

 お願いだナイジェル兄貴、報われてくれ!!! 本当に!!!
 あとナイジェルおじさまの少年時代のスピンオフ二次創作が見たい!!!



 はあ、はあ、はあ……。
 なんだ、まあまとめると、もう二十年弱くらい前の作品だけど、衣装もキャラクターもお話もめっちゃいい映画でした。観たことある人や、これから観るという人はぜひ、あなたの感想も見せて。

 そしてもしナイジェルの二次創作を書いたという人がいれば、至急私のもとへ送るように。以上(That's all.)。


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