定年を迎えたオランダ人の心境
義父が定年を迎えた。今では年金暮らしをしている。オランダの定年は67歳だ。
妻と3人の子供を持ち、家を買い、懸命に働いた義父。
決して裕福ではないが慎ましく生活してきた。
義母は専業主婦だ。オランダは共働きが多いと言われているがそれは現代の話で、昔は専業主婦の人も多い。
義母は体が弱く働くことを随分前にやめたのでずっと家にいる。
義母は専業主婦といえど洗濯以外の家事はほぼしない。
早起きして猫の世話をするのも、食材を作るのも、義父の仕事だ。
私はこの家族に入ってから義母が料理をしているところを見たことがないし、私にお茶を入れてくれたり、私たちの寝床を用意してくれるのもいつも義父だ。
義父と義母はラブラブで、今年結婚40周年を迎えるが今でも外では手を繋いで歩くし、いつもキスやハグをし合っている。
そんな二人だが、義父が定年してから仲が微妙になった。
毎日家に夫婦二人でいる。本を読むかテレビをみるくらいしかしない二人は、その時間を二人で過ごすことに苦痛を感じているというのだ。
父は明るく社交的だが定年になったので義母と旅行をしたりアクティビティをしたいのだが義母はそうではない。
街中や自然の中をサイクリングくらいすればいいのにそれすらしない。
毎日自宅で静かに一人でお茶を飲みながら本を読んでテレビを見て猫と戯れていた義母からしたら、そこに義父がいるだけで自分の時間がなくなってしまい、また義父は世話焼きなので彼女に話しかけたりあれこれするもんだから、それが鬱陶しいのだとか。
この夏、二人は私たちが引っ越した国に夏休み遊びに来る予定だったのに、義母が旅行をしたくない、義父が旅行したいなら一人で行って、とキャンセルしてきた。
義父は定年後義母とたくさん旅行することを楽しみにしていた。
結婚して40年、ずっと一緒に旅行してきた。一人で旅行なんてしたことがない。悲しいと。
結局、義父は一人で私たちの住む国に遊びにきた。
するとどうだろう、信じられないほどエネルギッシュで、毎日目をキラキラ輝かせながらお出かけし、お気に入りのカフェやパブを見つけ、店員と仲良くなり充実した毎日を送っていた。
あんなに義母を置いて一人で旅行するなんて申し訳ないと言っていたのにここに来てから数日で考え方ががらっと変わった。
俺は40年以上一生懸命働いた。定年になったから好きなことをしたい。自分のお金を好きなように使いたい、と。
今まで義母の愚痴を義父から聞いたことがなかったが、えらい饒舌で愚痴を言うようになった。
そして終いには今の大きい一軒家を売って、老人用の小さい住まいに引っ越すとまで。
帰国してから早速家の査定をしてもらい、老人用住宅の申し込みをするなど、かなり積極的だ。
こんな両親を見て、子である私の旦那やその兄弟はどう思っているかというと、義父のために二人は離婚したほうがいいといっている。
義父が気の毒、義母は自分勝手、というのが彼らの見解だ。
専業主婦で離婚されたらお金に困るのは義母なので、それは働いてこなかった義母が悪い、とかなりドライな意見である。
義母は長女、つまり私の旦那の姉と死ぬほど仲良しなので、いざとなれば長女と暮らせばいいだろうという私の旦那および兄妹たち。
自分たちが義母と同居することには絶対ならないので他人事である。
義父が稼いだお金は義父が好きなように使えばいい、それが彼らの意見だ。それは自分達が定年を迎えても多分そう思うんだろう。
ちなみに義父は旅行に来る前、なんと義母のために1週間分の朝昼晩ごはんを作り冷凍してきたといって驚いた。
義母は体は弱いが普通に生活できるので、義父が旅行中くらい自分のご飯くらい自分で用意すればいいものの、それをすべて義父がするという過保護ぶりに流石の私も呆れた。
義母は義父に甘えすぎ。それはたしかに思う。
何が言いたいかというと、定年後クライシスは日本でもオランダでも起こることであり、定年後も夫婦仲よくやっていくには二人で楽しみを見つける必要があるということだ。
結局父は律儀なので、教会で神様に誓ったから死ぬまで義母と人生を共にするといっているので離婚は免れたが、義母はこの義父の心境の変化を深刻に受け止めて自分を改める必要があるだろう。
定年といえど67歳はまだ若く、体も自由に動く。
健康なうちにやりたいことをする、それが幸せなことだと私も思う。
ちなみにオランダでは歳をとると家を住み替えるのは一般的である。
一軒家は階段があり、足腰が悪くなってくると大体の人がグランドフロアの家に引っ越す。
長年住んだ家の価値は爆上がりしてるので儲けも多い。
普通は定年時にローンを払い終わっているのだろうけど、収入が多くなかった義父はまだローンが残っており、年金からローンを払うのはできなくはないが厳しい。
オランダは年金が充実しているので、まぁまぁそこそこの年金がもらえ、また低所得老人は政府補助の住宅に格安で住むことができる。
そこに引っ越せば手元に残る金額はかなり増え、余裕のある暮らしができる。
私がやや怖いと思ったのは、どれだけラブラブな夫婦も、距離感が違えばそれが崩れたり、生活が変われば飽きられることもあるということを目の当たりにしたことだ。
結局結婚生活というものはお互いの努力が大切であり、女も自分でお金を稼ぐことで自分を守ることもできる。
私の結婚生活はまだはじまったばかりだが、相手に甘えすぎず経済的に自立し、旦那のことを大事にして、面倒でも二人で楽しむ何かを見つけて一緒にアクティブになろうと思ったのであった。
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