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泡沫候補による選挙妨害 雑感(衆議院東京15区補選)【三世議員のゆる政治エッセイ Vol.3】

 今回の東京15区の補選は無茶苦茶だった。たった一人、それも泡まつ候補(根本)陣営が他候補の選挙活動に度を越えた妨害を行い、文字通りの「選挙にならない」状態となった。公選法は候補者の政策や思いを広く一般に伝えるため様々な権利や制限が規定されているが、逆に妨害する側が公選法を盾にして、有権者に政策が伝わらない事態にしてしまった。

 今回の選挙妨害は法の間隙をつくやり方で、一般人がやればただの犯罪で、捕まって終わりだが、立候補している者がおこなって逮捕を逃れていた。泡まつ候補といえども結果がでるまでは、他候補とフェアに扱わなければならず、警察の動きが極めて鈍かった。今後も同じような事案が発生するだろうから、議会は法改正を、政府は警察の対応を改善してほしい。

 選挙関連の法律やルールをハックして得票に結び付けようとする手法は、2014年の衆院選の北海道ブロックで比例代表に立候補した「支持政党なし」が10万票を獲得し、当選には届かなかったものの世間にその効果を知らしめた。「支持政党なし」は1年半後の2016年の参院選では約60万票取っている。その後、立花孝志氏が率いるN国党が比例区で有名政治家と同姓同名の「山本太郎」さんを出馬させたり、東京選挙区で何人も候補者をだしポスター掲示板をジャックしたり、ルールが想定していない不備を付く手法を行っている。

 ただ、N国党の不備を突く手法は自己の得票のために行われたのに対して、今回行われた妨害は得票ではなく、カネのために行われた。
 妨害動画(凸動画)をSNSやサイトにアップし、アクセスを稼ぎ、広告収入を得るためといわれているし、たとえ今回儲けられなくても、人気を確立することで今後収益が見込めるようになる。あのひろゆきさんが人気者として扱われているのだから、悪者だろうがなんだろうが、耳目を集められる人に価値がある時代だ。

 対策には民間にも協力をしてほしい。Xでは「コミュニティノートのついたポストについては報酬が発生しないようにする」と昨年発表があった。この方向は画期的で、凸動画や迷惑行為を行う動画や、アカウントには広告報酬を与えるべきではない。
 迷惑系候補者が合理的(自己の利益のため)に選挙妨害を行うのならば、非合理的な構造にしてしまえば妨害は起きなくなる。

 もともと多くの法律やルールは、良識や良心、そして他者への敬意があった上で制定されてきた。とくに公選法は網目が粗い。これは「これから公に尽くそうとする人は、品行方正で悪いことをしないだろう」という前提があるからだ。この法律は人のために働こうとしている人が、意図的に人に迷惑をかけることを想定していない。それが今回のような事態が起こると、「電子レンジで濡れた猫を乾かさないでください」と書くアメリカの家電の説明書のように、法律で細かなことまで決めなければなくなる。

 そういえば新宿区議会にも「議会の品位を重んじなければならない」という規則がある。しかし、価値観が多様化した今、議員間でも品位の認識に差異があり、「お前、これはダメだろう」、「どこが悪いんだ?」としばしばモメている。もはや共通の常識や価値観は失われつつあるのだ。そうした時代に合わせて法律や規則をアップデートする必要があるだろう。

 礼節の国といわれる我が国で、他者への敬意や礼節はこれからも生き残っていけるのだろうか。

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